ちぎれる泳法
おはようウルカ。
俺は泳いでいる。
あと一息で隣のレーンの奴に追いつけそうだ。
相手も必死に水を掻き回して前に進む。
体力を消耗する事を承知で息継ぎを減らす。
少しでも無駄な動きを無くしてスピードを上げたい。
あいつと俺の差はなんだ。
スタートで出遅れたのか。
日々のトレーニングか。食事か。生まれついての才能か。
息継ぎを減らした事で、消耗した俺は減速する。
だめだな、追いつけない。
大体の人間は身体より先に精神がちぎれる。
俺は4着でゴールした。
隣の奴しか見ていなかったが、離れたレーンで更に先を行っていた奴がいたらしい。
ナンバーワンよりもオンリーワンなどと呑気な事を言っている場合ではない。
ここで1着を目指さない奴は、はなから水に入る事をやめておけ。
俺は負けた悔しさと、挑んだ事への達成感で心に蓋をした。
途中で諦めた自分がいるんじゃないかって不安を見ないために。
月曜から金曜まで、息をとめるようにして生きている人を見ると、あの時の俺を思い出すよ。
ウルカ、お前の泳ぎには無駄がないね。
それ、何泳法?
今日のウルカはデュビアを7匹。