まさに鬼神
おはようウルカ。
ザアザアと目の前の鉄板が音を立てた。
相当に年季が入っている。
よく使い、よく手入れする。
これを長年繰り返してきたことで生まれる重厚感。
これ以上の説得力がどこにあるというのだろう。
小手先の誤魔化しなど一切通用しない。
心地よい熱気と、美味そうな匂いで、意識が遠のく。
俺は鉄板を挟んで大将と対峙している。
50代半ばといったところだろうか。
妥協を許さない鋭い眼光は、まさに鬼神のようだ。
圧倒されている事を隠すかのように腕組みをする。
俺の出来る最後の抵抗だ。
興味がないフリをしてスマホをいじってみたが、どうしても鉄板の上で輝きを増していく作品に目がいってしまう。
イカ、エビ、豚肉、そば、卵、キャベツに特製の生地を絡めて。
おおお、このシズル感の前で、理性などなんの意味があると言うのか。
耐えきれずに俺は口を開いた。
こ、このお店は、いつからやっているんですか?
あ、すみません、営業時間ではなくて、創業時期というか。
ゆっくりと大将が口を開く。
四、五年前くらいらしいっすよ。
自分、バイトなんで、今度オーナーにきいてみます。
ところで、よく使い、よく手入れする。
これを長年繰り返してきたことで生まれる重厚感。
といえば機械式腕時計となるわけだが、最近はまた機械式腕時計を使っているよ。
ガジェットと言う意味ではスマートウォッチにかなわないけど、そもそも目的が違う。
どちらかといえば、アクセサリーに近い立ち位置だろう。
ブレスレットやネックレスには抵抗があるが、腕時計なら嫌味がない。
ガンガン使って、細かな傷が増えていくのがまた良いんだよな。
ヴィンテージのように、使い込まれて雰囲気抜群なものも良いが、新品から時間をかけて経年変化を楽しみたいね。
そうなると、経年変化で魅力を増す素質が有るのか否かを見極めることが重要となってくる。
時計屋の店員は俺を見てこう思うだろう。
妥協を許さない鋭い眼光は、まさに鬼神のようだ。
今日のウルカはデュビアを8匹