バッド

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おはようウルカ。

 

エレベーターに乗っている。

ディスプレイには63と表示されており、一定の間隔で数字が減っていく。

目を閉じる。

真っ白な箱の中で、暗い底へ落ちるというイメージが悲鳴のように残響している。

落ちることに抗う自我は、肉体を脱ぎ捨て上へ上へ残ろうとする。

それとも何者かに自我を引き抜かれようとしているのだろうか。

上へ引っ張られるような浮遊感は、崩壊への恐怖を恍惚へと昇華させる。

 

目を閉じたまま、ステージ上でスポットライトにあたる自分をイメージする。

足先でリズムをとると、自然と身体が動きだす。

マイケル・ジャクソンさんのバッドだ。

ダンスには自信がある。

学生の頃はダンスクラブに所属していた。

振り付けは完璧に身体に叩き込まれている。

軽快なステップと全身を使って躍動する情熱のダンスは、マイケル・ジャクソンさんの真骨頂だ。

我ながらキレッキレである。

んっだっ!ぽぅ!だ、んっだ!

 

徐々にキレをますダンスに、歓声があがる。

観客に向かって挑発するように指をさす。

同級生には歌声がマイケル・ジャクソンさんに似ていると言われた事もある。

歌詞はうろ覚えのところがあったが、ハミングで乗り切る。

くるぞくるぞ。

サビがくるぞ。

テンションは最高潮だ。

 

ユー・ノウ・アイム・バッド、

アイム・バッド・カモン・ユー!

ユー・ノウ・アイム・バッド、

アイム・バッド・カモン・ユー!

アンドふんふんふんふん、

アンサー・ライト・ナウ!

ジャステルユー・ワンサゲン……

フーズバッド!!

ぽぉぉぉぉぉぉぉぉぉうぅ!!!!!

 

チーン

エレベーターが到着を知らせる。

目を開ける。

階数を示すディスプレイの数字は1になっていた。

ドアが開く。

いつのまにか乗り合わせていた家族連れ、学生、OLとサリーマンの集団は静かにおりていった。

 

麗らかな春の風が、優しく髪を揺らした。

 

 

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