殺し屋
おはようウルカ。
キーを左に回す。
エンジンは、本当にあっけなく静かになった。
チリチリと熱の余韻が鳴っている。
俺はヘルメットとグローブをオートバイのハンドルにひっかけると、店のドアをあける。
店内は明るく清潔な印象だったが、わずかに古い水の匂いがした。
爬虫類を扱うこの店は、海水魚やエキゾチックアニマルと呼ばれる小動物など、様々な生きものがひしめきあう。
爬虫類の棚があつまる一角へ向かう。
ヘビ、カメ、ヤモリ、カメレオン、カエル、トカゲ、ワニなど、主に熱帯の生物のケージが所狭しと積まれている。
ミズオオトカゲのベビーのケージの前で、小柄な女がカワイイ!カワイイ!購入したいと店員と話をしている。
成長すると2メートルを超える猛獣となる事を知っているのだろうか。
それが19800円で売られている。
ペットとしては気軽に買える値段かもしれないが、気軽に飼える生きものではない。
部屋に巨大なプールも必要となるだろう。
ニヤニヤと接客している店員を横目に、ろくなもんじゃねぇなとウルカの餌になるデュビアMサイズを200匹買った。
バッグにデュビアの入った袋を放り込むと、バイクに跨る。
キーを右に回し、キックペダルを勢いよく蹴る。
眠っていたエンジンがドロドロと息を吹き返した。
デュビアとは南米地方のゴキブリで、成虫でなければ日本のゴキブリほどグロテスクではない。
フルーツローチなどとペットとしてゴキブリを可愛がっている人間もいるようだ。
そうは言っても大量のゴキブリを背中に背負うのはあまり気持ちの良いものではない。
ゴキブリといえば、10代の頃に害虫駆除のバイトをしていた事があった。
宇宙服のような格好で背中にタンクを背負い、飲食店内に殺虫剤をぶちまける。
すると、この小綺麗でお洒落な店内のどこに隠れていたのかと思うほどの大量のゴキブリどもが躍り出てくる。
数百、数千の。
洒落た飲食店に無数のグロテスクは、芸術作品として成立しそうな迫力がある。
綺麗なモデルたちを座らせて写真でも撮れば良かったな。
それはそうと、その害虫駆除の会社はネズミや鳩などの駆除もおこなっていた。
工場に鳩が棲みつくと、糞や抜けた羽などで深刻な被害がでる。
そこで我々、殺し屋の登場となるわけだが、この鳩の駆除方法が独特だった。
鳩がとまりそうな場所に歯磨き粉のような白い薬剤を塗っていく。
そこに鳩がとまると、足の裏についた薬剤が体内に浸みこみ、死ぬ。
触っただけで死ぬ毒って…
あれ、合法だったのかな。
絶対に触るなといわれながら、俺も連れのおっさんも素手で作業させられていたぞ…
人間は鳩を平和の象徴としたり、ペットとして可愛がったり、食料にしたり、手紙を運ばせたり、害鳥として駆除したり、もう、めちゃくちゃだよな。
鳩もたまったもんじゃないだろうよ。
そして殺し屋の俺は地獄に堕ちるだろう。
ろくなもんじゃねえな。
まいったな。
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