ウリュッスとヨサヨサ

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こんにちはウルカ。

 

早朝の公園で砲丸投げの練習をする老人は腰を保護する為の太いベルトを巻き、自転車に乗ってやってきた。

大袈裟にきき耳をたてるような姿勢からウリュッスと独特の掛け声で砲丸を天に押し上げるように投げる。

砲丸は数メートル先の砂場にドサリと落ちる。

ヨサヨサと砂場に砲丸を取りに行くとまた同じ位置に戻り、ウリュッスとやる。

年齢的に選手という事は無いだろう。

健康の為の運動にしては随分偏っている。

汗でTシャツの色が所々濃くなっている。

鉄の玉が手から離れる度に首から汗が飛ぶ。

段々と投げる間隔が狭まり、老人は熱の塊のように膨張をはじめる。

俺は少し離れたベンチに座って老人をみている。

無心にウリュッスとヨサヨサを繰り返す老人は、同じ動作を異常なまでに繰り返す事で何かに変身しようとしているのではないだろうか。

人間に潜在する力を引き出す暗号はこの世界に溢れていて、それはきっと本当に些細で自然で当たり前の事なのだけど、現代の人間にとっては無意味で異常で歪なかたちをしているから、誰も発想しない。

老人はそれを知っている。

 

俺はスマートフォンを取り出し、砲丸投げの歴史と、同じ作業を繰り返す事で発生する恍惚感について調べている。

ぐるぐるといくつかのウェブサイトをループする。

そして思い出したようにスマートフォンの画面から顔をあげる。

老人も鉄の玉も自転車もいつのまにかいなくなっていた。

俺はヨサヨサと家に帰る。

何処かで赤黒い大竜が轟々と炎を吐きながら空をはばたく音がした。

 

 

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