相席食堂
おはようウルカ。
いらっしゃいませぇ
お好きな席へどうぞ
暖簾をくぐると昔ながらの雰囲気の良い店内と料理の良い匂いにホッとする。
品の良い初老の夫婦がきりもりしており、何を食べても旨い。
昼時になると行列が出来るほどだ。
カウンターや4人がけのテーブル席は一切無く、向かい合って座るタイプの2人がけのテーブル席がずらりと並んでいる。
相席食堂。
ルールがある。
独りで入店しなければならない。
相席しなければならない。
アプリの相席食堂ギャラクシーⅡで自分の育てたアバターと相席相手のアバターとで対戦し、勝利しなければ好きなメニューを注文することができない。
対戦に敗れると、対戦相手、要するに相席相手と同じものを注文しなければならない。
ゴリゴリ戦闘DAYというものが月に3度あり、敗者は勝者と同じものを注文する事に加えて、料金を2人分支払わなければならない。要するに奢らなければならない。
食事の料金はアプリに課金する方式である為、現金を持ち歩く必要はない。
アバターはアプリ上で自分と同じものを食べ、成長する。
カツ丼ばかり食べていると太るので注意が必要だ。
勿論ジョギングやムエタイジム、SMクラブなどでトレーニングした場合は、それらもアバターに反映される。
今日はゴリゴリ戦闘DAY。
俺は相席待ちのテーブルを探す。
オドオドと汗を拭きながらスマートフォンをいじっているショボくれたサラリーマンに目をつけた。
これは楽勝だな。
俺はショボくれサラリーマンの向かいに座る。
余裕たっぷりに笑顔で軽く会釈すると、スマートフォンを取り出し、相席食堂ギャラクシーⅡを立ち上げる。
備えつけのVRヘッドマウントディスプレイを装着すると、高揚感のある起動音とともに俺はアプリの世界に入る。
対峙したショボくれサラリーマンのアバターはやっぱりショボくれていた。
ヨレヨレの背広を着て、眼鏡は脂でニラニラと汚れている。
俺のアバターは先月から通っているジムの戦利品である上腕二頭筋を見せつける。
対戦競技を決める為、ランダムボタンを押す。
スロットが回転し、絶叫マシン我慢くらべとでた。
先に声を出した方が負けとなる。
楽勝だな。
ウヒィピっ
俺は開始6秒で自分でも初めてきく悲鳴音をあげて撃沈した。
俺は恐縮しながら汗を拭くサラリーマンアバターにデラックスミックスフライ定食バニラアイス付きをご馳走すると、ショボくれながら相席食堂を後にする。
ありがとうございましたぁ
またおねがいします
品の良い大将アバターの声が背後で響く。
デラックスミックスフライ定食バニラアイス付き。とても美味しかった。
また来よう。
次は負けないぜ!
満腹になった俺アバターはコンクリートジャンゴーへ飛び込んでいった。
俺はVRヘッドマウントディスプレイを外す。
目の前にはデラックスミックスフライ定食バニラアイス付きが輝きを放っている。
俺は相席の元ショボくれサラリーマンと健闘を讃えあうと、手を合わせる。
いただきます!
今日のニュース
またしてもタコの凄さが露呈。8本の触手は脳からの指令がなくても独立して意思決定ができる(米研究)
ウルカは休食