まじゅつ

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こんばんはウルカ。

 

 

今日は少し遅くなってしまったな。

川崎部長は腕時計をみる。

使えない部下、吉田のミスのせいだ。

おどおどと謝るばかりの吉田の顔を思い出すと、また怒りがこみあげてきた。

気晴らしに一駅歩くか。

川崎部長は普段よりも一つ前の駅で降りると、街灯も疎らな川沿いの道を歩きはじめた。

夜風が気持ち良い。

高架下に、ぽつんと屋台がでている。

この辺りで屋台を見かけるのは初めてのことだ。

こんな場所に屋台をだして集客が見込めるのだろうか。

暖簾にはおでんやラーメンの文字はなく、「まじゅつ」とある。

何だろう。

まじゅつとは珍しいな。

ためしに寄って行くか。

川崎部長は暖簾をくぐる。

ひとり、男の先客があった。

ん?!吉田?

部長、お待ちしておりました。

吉田は焦点の合わない目でヘラヘラと笑った。

 

 

2時間ほど前のこと

 

高架下にぽつんと屋台がでている。

この辺りで屋台を見かけるのは初めてのことだ。

駅から15分ほど歩いた街灯も疎らな寂しげな川沿いの道。

こんな場所に屋台をだして集客が見込めるのだろうか。

暖簾にはおでんやラーメンの文字はなく、「まじゅつ」とある。

同僚に愚痴を聞いてもらいつつ夕食を済ませていた私は腹が減っているわけではなかったので、ラーメンやおでんの屋台であれば素通りしただろう。

まじゅつ屋台。

暖簾ごしに2人ほど客影が見えた安堵感もあり、私は暖簾をくぐった。

いらしゃい。

まじゅつ屋台のおやじは、私が想像した黒いマントのウィザードや鉤鼻の魔人ではなく、白髪で角刈り、赤ら顔のいかにも屋台のおやじといった出で立ちだった。

こんばんは。

安堵と落胆の交じった独特の表情の私は四角いイスに座る。

不思議なことに暖簾ごしに見えた客の姿はなく、カウンターに座っているのは私ひとりだった。

なんにしましょ?

おやじが愛想の良い笑顔をみせる。

柱に貼り付けられたボール紙にメニューらしきものが書かれている。

小まじゅつ  600円

中まじゅつ 800円

大まじゅつ 1200円

瓶ビール 600円

酒 500円

 

ああ、じゃあ瓶ビールお願いします。

はいよ。

 

私は瓶ビールを飲んでいる。

まじゅつを注文すべきか否か。

おやじにまじゅつとは何かを問うべきか否か。

注文するとすれば大中小どのまじゅつにするべきか。

ビール瓶の中身は残り三分の一となった。

 

すみません、あの、まじゅつって...

 

いらしゃい!

こんばんは〜、酒ください。冷やで。

あと、中まじゅつひとつ。あ、白で。

はいよ!

私が口を開くと同時に男の客が一人入ってきた。

常連だろうか、おやじとは親しげである。

はい、おまたせ。

おやじはカウンターに酒の瓶と小さなグラスを置く。

それから大人の握りこぶしほどの大きさの丸い石のようなものをカウンターに置いた。

男の客はその石のようなものに笑いかけたり、話しかけたりしながら酒を飲んでいる。

 

すみません、中まじゅつひとつお願いします。

はいよ。しろ?くろ?

じゃあ、しろで。

私はまじゅつを注文した。

 

しばらくするとおやじは私の目の前に大人の握りこぶしほどの大きさの丸い石を置いた。

どのような仕組みなのかわからないが、目の前の石から漫画の吹き出しのようなポップアップウィンドウが表示された。

 

「貴方が褒めちぎられたい人物を2人選んでください」

とある。

私は酒の勢いもあり、冗談半分にこの国の首相と、今大変人気のある女優の名を口にした。

 

おやじはニコニコと笑っている。

いらしゃい!

こんばんは。

私をはさむように首相と女優が座る。

私は文字通り目を白黒とさせた。

それからどのくらいの時間が経ったのだろうか。

私はありとあらゆる事を首相と女優に褒めちぎられた。

あまりの気分の良さに瓶ビールを2本追加した。

一頻り私を褒めちぎると、それじゃあ、また。

首相と女優は席を立つとあっさりと帰ってしまった。

カウンターにはただの石ころが転がっている。

 

すみません、追加で小まじゅつ、お願いします。

はいよ。しろ?くろ?

えっと、じゃあ、くろで。

私は酒の勢いもあり、まじゅつを追加注文した。

はい、おまたせ!

おやじは私の目の前に子供のこぶしほどの大きさの角張った石をおく。

先ほどと同じようにポップアップウィンドウが出ている。

「貴方の貶し倒したい人物を1人選んでください」

なるほど、これが黒か。

私は迷うことなく川崎部長の名を口にした。

 

おやじはニコニコと笑っている。

いらしゃい!

 

 

 

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