シェルビー
おはようウルカ。
俺は横断歩道を歩いている。
車道の半ばくらいまで来ただろうか。
路地から出てきた自動車が、クラクションを鳴らしながら猛スピードでこちらに向かってくる。
人が横断歩道を渡っている状況で、けたたましいクラクションとともに猛スピードで突っ込んでくる自動車が正常なわけがない。
俺と衝突するまでに2秒とかからないだろう。
俺はポケットに手を突っ込み、シェルビーを発動させる。
薄くバニラの匂いがした。
1.8秒後、俺は自動車と衝突し、約32メートル跳ね飛ばされ、児童公園の滑り台に激突し、親子がレジャシートを広げている隣、芝生の上に落下した。
自動車は僅かにスピードを緩めたが、何事もなかったかのように行ってしまった。
子供達が俺を指さしている。
母親連中は目と口を開けて驚きの表情をこしらえている。
俺はシェルビーを解除すると、お邪魔しましたと児童公園をあとにした。
今日は10時半から会議がある。
このままでは電車に乗り遅れてしまうではないか。
先を急ぐので、駆け足で説明しよう。
シェルビーとは、アウトドアメーカーのザ・イースト・フェイスが今年発売した、パーソナル・エア・シェルターの商品名である。
勿論他メーカーも機能や価格を競い合うように様々なパーソナル・エア・シェルターを発売している。
パーソナル・エア・シェルターとは、もともとアウトドアにおける次世代のテントとして開発された。
特徴と利点として、発動スイッチを押してから1秒程で設営できる。
設営の際になぜか薄くバニラの匂いがする。
最大2.5メートル四方を大気を振動させて作り出した特殊な膜で覆う。
被膜の内側の酸素や温度は適切に調整され、フル充電で約1週間程度快適な状態を維持する事が可能である。
これは過酷な環境でも十分に機能する仕組みで、冒険家やアルピニスト達の装備を大きく変えることとなった。
さらに内容物をエアークッションで守る被膜の強度は非常に高く、例として重量2トンの自動車に時速160キロメートルで衝突されても中にある生卵が割れないという実験映像が公開されている。
また、プライバシーモードを備えており、被膜の外側に思い思いの画像や映像を再生し、被膜の内側を外から見えない様にする事が可能である。
外部音ミュート機能を使用すれば、外の音をシャットアウトする事が出来、内部音ミュート機能を使用すれば、内部の音を外部に一切漏らさない事ができる。
プライバシーモードと外部音、内部音ミュート機能を併用すれば、繁華街やコンサート会場など、騒がしい場所においても快適なプライベート空間を作る事が可能となる。
AM10:30
会議が始まってしまった。
会議室の席に着く。
難しい顔をした会議メンバーが不毛な打ち合わせを始める。
俺はシェルビーを発動させる。
プライバシーモードに切り替え、被膜の外側には難しい顔をして席に座る俺の映像を映し出す。
内部音ミュート機能をオンにする。
俺は最近お気に入りの海外ドラマを再生すると、ブログの続きを始めた。
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