自撮りダンサー

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こんにちはウルカ。


 
私は食器を洗っている。
人間は声帯を使って話すことの他に、声帯以外、または声帯を使って文章として言葉を書き残す。
書物は言葉の写真のようなものだ。
何度も書き直された文章は合成写真のようで、真実味がうすくなる。
毛細血管のように繊細な言葉がいりくむ非常に精巧な文章と、丸太を乱雑に縛りつなげたような非常に鈍足な文章は、互いを互いで羨む。
ふとそんな考えが浮かんだ。
独りの食事というものはとても気楽で、好きなだけ食べて良いし、好きなだけ食べなくて良い。
好きな事を考えて良いし、スマートフォンを見続けて良い。
カレーを箸で食べて良いし、蕎麦をフォークで食べて良い。
この生活が非常に精巧な文章なのか、それとも非常に鈍足な文章なのか私にはわからない。
私は自動車を組み立てる工場で期間工として働いている。
深夜勤務。
工場内を見渡すと、沢山の同じ色の作業服を着た人間があらかじめ決められたダンスの振り付けを繰り返すのように働いている。
自分と全く同じ人間は存在しないという事実は非常に興味深い。
しかし自分と酷似した生活、考え方、感覚、身体能力、病気、幸福、不幸、顔や体型の人間はいくらでも存在する。
私はあらかじめ決められたダンスの振り付けを繰り返すように生きている。
世界中で私に酷似した人間が、酷似したダンスを毎日繰り返している。
グループダンスだ。
私のダンスグループの名前は何だろうと考える。
せめてグループ名くらいはカッコ良いのがいいな。

 

夜勤明け。
自転車で川沿いの土手をゆっくりと走る。
朝焼けが川の流れを浮き彫りにしている。
私は急ブレーキをかけて自転車を止める。
想像した通り止まったのは私だけで、昇る朝陽も川の流れもそのまんまだ。
それならと、今度はいつもより少しだけリズミカルに自転車を漕ぐ。
すると、世界はいつもより少しだけリズミカルにバウンドをはじめた。
私はこの感覚を切りとって残しておきたいと思った。

想像したものや、感じたことを切りとってくれる写真機があれば、苦手な自撮りだって我慢するのに。

私はこの感覚を忘れてしまわないようにと、いつもより少しだけリズミカルに自転車を漕ぎ続けた。
 


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