祭りの意義とアルダブラ

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こんばんはウルカ。

 

夜。

街灯が頼りない雨上がりの道は、ぬらりと薄くグリーンに光っている。

白髪の老人がフラフラと三輪型の自転車をこいでいる。

 

今夜、駅前で盆踊り大会がある。

人々は、赤や白を配色した櫓の周りをぐるぐると音頭にあわせて踊り廻る。

近年、盆踊り音頭はコンピュータ内のmp3を再生することが常となっているが、今夜行われる盆踊り大会の音頭は人間の記憶を声帯によって再生する。

18:30開始予定の盆踊り大会。

駅前では、櫓を大勢の人が取り囲んでいる。

しかし、誰も踊っていない。

盆踊り音頭を再生することの出来る人間が到着していないのだ。

すっかりと陽が落ちて辺りは人工の光のみとなった駅前で、ざわざわと為す術がない人々は、互いに顔を見合わせてわけもなく笑ったり、退屈している子供達の機嫌をとったりしている。

人々がうちに帰ってテレビでも見ようかなと考え始めた頃、白髪の老人がフラフラと三輪型の自転車で到着した。

源さん。

盆踊り音頭のシンガーだ。

きっかり60分の遅刻に悪びれるふうでもなく、コキココキコと堂々と、そしてフラフラと三輪型の自転車をこぐ姿は、公演時間を遅らせて客を煽る大御所ロックスターのようだ。

源さんは三輪型の自転車を櫓の麓にとめると、慣れた身のこなしで櫓に登る。

櫓の頂上でアッパーライトに照らされる源さんは、神や亡霊や独裁者などと同じ類の、あやふやな引力のようなものを発している。

源さんがマイクを握る。

ハアァァァァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜アァァンアァァ〜〜〜〜〜〜〜

澄んだ低音と中音と高音が同時に空気と人々を震わせる。

アァァン〜〜ハ、何でもかんでもみんなぁぁ〜アンアンアァァ〜

お〜どぉ〜おぉ〜りを踊ってぇ〜えんえぇ〜〜〜いるぅぅうぅ〜ううぅ〜〜ヨぉぉおぅぉぁう〜〜〜

 

歓喜する人々は櫓の周りを踊り廻り始めた。

そのスピードはどんどんと加速して、風を起こし、風は嵐となり、商店街も櫓も源さんも吹き飛ばし、アスファルトや土壌をすり鉢状に削った。

一通りが終わって静かになると、事前に選出された1人の少年がすり鉢状に削られた地殻の中心に飛翔回転花火トルネードスピンを置く。

少年はオレンジ色のチャッカマンで飛翔回転花火トルネードスピンに火をつける。

導火線が数秒火花をちらすと、飛翔回転花火トルネードスピンは高速で回転をはじめ、勢いよく垂直に夜空に飛び上がり、小さくパンッと音を立てて粉々にはじけた。

吹き飛ばされずに駅前に残っていた人々は、パチパチとまばらに拍手をした。

両手をあわせるトキ婆さんの姿もみえる。

おめでとうございます。

今年も皆さまどうぞ豊かで。

 

こうして今年も無事、地元の夏祭りを見届けた俺は、静岡で催されるジャパンレプタイルズショーに向かう為、新幹線に乗り込む。

アルダブラゾウガメが気になるが、流石に飼いきれるサイズと寿命ではないか…

 

 

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