ピュアな青アゴ

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こんにちはウルカ。

 

私は幼少の頃より磨く事が堪らなく好きだった。

石や金属片、ガラス玉、ニスの塗られた椅子の脚。

大人になると、磨く職業を転々とした。

靴、腕時計、宝石、自動車やバイクのオーバーホール、垢すりやバキュームカーの清掃にまで手を伸ばした。

しかし人間の欲望というものには際限がなく、私はもっと磨き心地が良いもの、磨き甲斐のあるものを求めた。

どの職業も初めのうちは満足するものの、数ヶ月で物足りなくなってしまう。

現在、私は何度目かのカーウォッシュ専門店で働いている。

今の私はただ自動車を洗う、磨くという程度では、気を失いそうになる程の快感を得る事はできなくなっている。

しかし、やっと私は気がついたのだ。

問題は磨かれる側ではなく、磨く側にあるということに。

私は今まで欲求が満たされないのは磨かれる側の力不足だと疑わず、使い捨てるように磨かれしもの達を消費してきた。

自分を棚に上げて、磨かれしもの達へのリスペクトを怠っていたのだ。

なんと愚かな。

私は改心した。

興奮と快感を高めるよう、磨き方を工夫したり、自己精神のコントロールの勉強を始めた。

勿論、磨かれしもの達への感謝と尊重を第一に考えている。

あ、開店の時間だ。

 

 

雨風がめんどくせえな。

台風が日本列島に接近している。

横なぐりの雨が、俺の運転するトヨタを打っている。

こんな日の洗車屋はとても空いている。

それが大型連休の真っ最中だとしてもだ。

俺は行きつけの洗車屋に予約も無しにトヨタを乗り入れる。

予想通り洗車屋は閑散としており、客は俺だけだ。

いつもの洗車師が勢いよく事務所から飛び出してきた。

いらっしゃいませ!

潤んだ瞳の洗車師は運転席の俺を見上げる。

40代だろうか、非常に濃い髭を丁寧に、執拗に剃ったであろう顎が異常に青白い。

相対的に少し後退した額はよく日焼けしており、綺麗なブラウンだ。

 

こんちは、いつもの感じでお願いします。

はい!洗車とピュアコーティング、足回りと腹下、車内の清掃ですね!

あぁはい、それでお願いします。

 

俺はこの洗車師が洗車している所を見るのが好きだ。

殆どの客は雑誌やスマートフォンに夢中で、または代車でどこかへ出かけてしまい、洗車師の作業を見る事はない。

これは非常にもったいのない事だ。

 

始まったぞ。

洗車師が俺のクルマの周りをまわり始める。

汚れ具合をチェックしているのだろうか、ダンスのような、スキップのような足取りだ。

5周ほどまわると、洗車師は両手を広げる。

指を小刻みに動かしながら、クルマを愛撫するように触れるか触れないかの距離を保ち、さらに5周ほどまわる。

広げた両手で指を小刻みに動かし、しゃがんだり、立ちあがったりしながらクルマを撫でまわす姿は、秘境に棲む呪術師の何かしらの儀式のようだ。

洗車呪術師は笑っている。

快感に酔いしれて、思わずこぼれた笑みといった方が的確だろうか。

一通りの舞が済むと、洗車呪術師はクルマの正面に立つ。

クルマに対して深々と一礼をする。

拘置所前で謝罪する芸能人のように、たっぷり30秒ほどは頭を下げる。

芸能洗車呪術師は頭をあげると、クルマの鼻先に優しくキッスをした。

そして、キッスから得た興奮の余韻だろうか、ぶるぶるぶるぶるっと25メートルほど離れたこの場所にいてもしっかりと伝わってくる痙攣に限りなく近い身震いをすると、アウぅ!と短くも力強く雄叫びを上げた。

このあと、痙攣接吻芸能洗車呪術師による壮絶な洗車、劇的な磨き、官能的なコーティングへと作業が進んでいくのだが、それはまた別の機会に書こうと思う。

 

 

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