カナリア
こんばんはウルカ。
今日はえらく忙しかったので、こんな時間になってしまったよ。
今日が終わってしまう前に、カナリアの話でもしようか。
カナリアが囀っている。
朝露が草を湿らせて生命を強調している。
カナリアは、海を越えた遠い国々ではその美しい容姿と官能的な歌声で、ペットとして人気があるそうだ。
この土地でのカナリアといえば、怪鳥として恐れられている。
あれをペットとして可愛がるなど到底信じる事が出来ない。
確かに小鳥の時期は可愛らしい姿をしており、囀りの音彩は上等な笛のようだ。
しかし成鳥となったカナリアは、ゾウの悲鳴のような鳴き声で、硫酸を吐き、人を喰らう。
おそらく海を越えた遠い国々では、小鳥の時期のカナリアのみを愛でて、あとは殺してしまうか、気候があわずに成鳥となる前に命を落としてしまうのではないだろうか。
この土地では深い雪に覆われる冬以外、カナリアが活発な時季は外に出る事が出来ない。
鋭い爪でバラバラにされて、喰われるから。
やがて人々は地下に街を拡大し、世界最大の地下都市を構築した。
今では約9350万人が地下都市で生活をしている。
地上で暮らすのは、地下都市に入る権利を持たない貧困者や犯罪者、太陽を崇拝する過激宗教者、世捨て人などだ。
他国が刑務所に入りきらなくなった凶悪犯罪者を漁船に隠し、この土地へ捨てていくことも珍しいことではない。
この国の地上における治安はカナリアの脅威を除いたとしても、世界ワースト・ワンである。
オレはこのカナリアの雛を捕まえて、ブローカーに売ることを生業としている密猟者だ。
リスクのわりに金にはならないが、地下都市に入る権利のないオレにとっては大切な食い扶持だ。
ブローカーはペットや実験用として海外へ流すのだろう。
まあ、オレの知ったことではない。
カナリアを捕獲したり、殺すことは法律で厳重に禁じられている。
奴らはそこそこ知能が高く、仲間が人間に攻撃されたとなると、群れをなして報復をするといわれ、80年前のカナリア・セカンド・インパクトでは、16万人以上が残虐な殺され方で命を落としたとされている。
さて、そろそろ仕事を始めるとするか。
オレはカナリアの巣がある高い木を見上げると、慎重に登りはじめた。
地下88階。
最高機密軍事研究施設。
床や壁、天井といった全ての面が白色をしている。
大勢の白衣を着た人間がせわしなく働いてる。
無数のモニターの片隅に映し出されている、ゆっくりと木に登る密猟者の姿には誰も気がついていない様子だ。
遺伝子操作と人工知能を組み合わせることでつくられた鳥型の生体兵器はここでコントロールされている。
2006年、実験中のカナリアから遺伝子異常が見つかる。
2010年、遺伝子操作によって体長13メートルを超えるカナリアをつくりだす事に成功し、生体兵器としての研究を開始。
2019年、人工知能を用いた生体兵器が完成。繁殖機能はない為、通常のカナリアの卵に特殊な処置を施す事で怪物を生み出す。
2026年、カナリア・プログラムを開始。
国家は他国との関わりを断ち、国民を地下に閉じ込めることで、長い間、独裁政治を続けてきた。
地上を制御された生体兵器が飛び回るこの国は、鉄壁の要塞と化した。
ところが、2ヶ月前に重大な問題が発生している事が確認される。
鳥型の生体兵器に組み込まれた人工知能が次々に暴走を始めたのだ。
今では3分の1以上、約120万羽の鳥型の生体兵器が制御不能となっていると報告されている。
制御不能となった鳥型の生体兵器は、敵味方関係なく、全てを破壊する。
更に恐ろしいことに、繁殖が確認された。
これまで遺伝子操作されたカナリアには繁殖機能が無いとされていた。
制御不能となった生体兵器の雛は、通常のカナリアの雛と殆ど見分けがつかないが、眼球が僅かに黄金色をしているとの報告が上がっている。
海を越えた遠い国。
ペットショップで女の子が小鳥の雛が並ぶケージを見ている。
お母さん、ユナ、このこがいい、おめめがとってもきれいだよ
ユナちゃん、ちゃんとお世話できるの?
うん!このこが大きくなったらね、せなかにのって、おそらをとぶの!
あはは、ユナちゃん、それなら沢山ごはんをあげて、大っきく育てなきゃね。
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