自在な俺
こんにちはウルカ。
街鳥が雲に埋まるように飛んでいる。
自動車や室外機から吐き出される排気体が、膝の高さでわだかまっている。
商店街のくじ引きで一等が当たった。
景品は石っころ1つ。
宝石の原石だそうで、時価5億円だと八百屋のおっちゃんが言った。
俺はポケットに石っころを放りこむと、脇に停めてあったオートバイに跨る。
キック3回目で単気筒の500CCエンジンが目を覚ました。
大通りに出たところでアクセルを全開にする。
つけられている。
ミラー越しに、2人乗りのカワサキがぴったりと俺のヤマハに張り付いている。
十中八九、狙いは俺のポケットの中身だろう。
運転者は黒いフルフェイス・ヘルメットを被っており、顔が見えない。
反対にタンデム・シートに座っている奴はヘルメットを被っておらず、銀髪を靡かせて青いカラー・コンタクト・レンズごしに俺を睨んでいる。
手にはロンギヌ・スの槍のレプリカをもっている。
あれで突かれたらひとたまりもないだろう。
俺は背中にじんわりと汗をかく。
銀髪野郎は舌を出してロンギヌ・スの槍のレプリカを俺にむける。
万事休す。
俺は恋人への別れと感謝の言葉を呟く。
刹那、信号が赤に変わる。
時がとまった。
カワサキの2人組はビデオの静止ボタンを押したかのようにかたまっている。
文明が時を自在にコントロール出来るようになってから、既に30年ほどか経つ。
赤信号側の通りは完全に時が止まる仕組みとなっている。
これにより暴走行為や交通事故は激減した。
軽・自動車のオフィス・レイディが、口を大きく開けたまま固まっている。
あくびの途中だったのだろう。
俺は、時間停止システムに影響される事なく自在に動く事ができる。
何故なら、俺は架空の存在許可証を持っているから。
架空の存在許可証を持っていれば時間に影響される事はない。
何しろ、架空の存在だからな。
信号が緑に変わるまであと1分20秒。
舌を出した銀髪野郎にデコピンをかますと、ロンギヌ・スの槍のレプリカを取り上げる。
運転者の黒いフルフェイス・ヘルメットを脱がす。
運転者は八百屋のおっちゃんだった。
どうりで革のツナギがパンパンなわけだ。
少しはダイエットしろよな。
俺はポケットから石っころを取り出すと、八百屋のおっちゃんの口に放り込んだ。
やれやれだぜ。
俺はヤマハに跨る。
信号が緑になる。
ホイール・スピンをかましながら、単気筒の500CCエンジンが咆哮する。
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