66.843KHzは幸せか
ゴドロゴドロと大きくて重たいものを引き摺るような音で空が鳴っている。
外は悪天候のようだ。
この部屋は暖かい。
気温68度。
湿度12パーセント。
僕たちが快適に過ごせるように調整されている。
人間のオスを飼っている。
ケージのある部屋に入る時は、防寒スーツを着用する。
人間の名前は66.843KHz。
僕たちは振動を使ってコミュニケーションをする。
僕たちの言語は振動というわけ。
名前の66.843KHzは、人間の言語で表すとリラックスというような意味合いだ。
僕が人間に魅かれたのは、他のペットとなる生命体と比べると知能が結構高いこと、容姿が僕たちに少し似ていること、のんびり屋で優しい性格をしていることだ。
ペットショップで見たとき、ビビッときたよ。
残念なのは寿命が短いことだね。
ベビーから飼い始めたのだけど、あっという間に成体になって、今では頭の体毛が抜けて無くなりかけている。
飼育書によると、頭の体毛が抜け始める、または頭の体毛が銀色に変わると、成長を終えて消滅へ向かい始めているそうだ。
それと、身体のサイズが成体となっても僕の手のひらに乗るほど小さいから、背中に乗って遊ぶなんてことはできないね。
だけど凄く魅力的な生命体だよ。
見ているだけで飽きない。
飼育係ボットと楽しそうに会話していたり、太陽ライトの下のプールでプカプカ浮いていたり、美味しそうに人間フードを食べたりしている。
ペットショップで購入した自転車というおもちゃがお気に入りみたいだ。
飼育係ボットには、人間の言語や教養プログラムがインプットされている。
僕はパパにねだって最新の最高級飼育係ボットを買ってもらったから、理想的な人間に育っていると思う。
だけど、もうすぐお別れなんだ。
僕の町には人間を飼うのにいくつかのルールがある。
・虐待してはいけない
・死体、生体ともに遺棄してはいけない
・繁殖をさせてはいけない
・死んでしまう前に故郷へかえさなければならない
僕とパパは頭の体毛がなくなり始めた人間を携帯用ケージに入れると、自動挺に乗せた。
人間の故郷にはあっという間に到着したよ。
僕とパパは防寒スーツを着て66.843KHzをリリースする。
66.843KHzは飼育係ボットに何度もしがみついた。
人間の言葉ではハグと表すそうだ。
66.843KHzは何度も何度もこちらを振り返りながら、お気に入りの自転車というおもちゃに乗って、ミニチュアの街に消えていった。
僕はさみしくなって泣いた。
パパは僕の頭を撫でながら、人間は人間の世界で生きることが一番なんだよ、66.843KHzはきっと幸せになるよ。
と振動した。
おはようウルカ。
今朝は少し涼しいね。
俺は駅までの道を歩いている。
線路内をすごいスピードで走る子供用の自転車に乗ったオッサンを見た。
すごい笑顔だった。
ブッとんだ奴がいるもんだな。
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