解答となる私
こんにちはウルカ。
次の解答から問いを作成してください。
・3
・ヒトイキレ
・摩擦
・Angular
・正子は青を選ぶ
・真鯛
・36.529
・檸檬または煙草
・シルバーのライン
・石
・C9H13NO3
解答だけが羅列された試験用紙。
私は採用筆記試験を受けている。
残り時間は6年。
応募ありがとうございます。
それでは、これから採用試験を受けていただきます。
履歴書をカバンに入れて、面接に訪れた私は、会議室のような場所に案内され、そう告げられた。
既に30人余りが席についていた。
職業安定所の求人広告で見つけた募集要項。
急募
日当48000円
ボタンを押すだけの簡単な仕事
性別年齢不問
東京拘置所
試験官は僧侶のような姿勢でパイプ椅子に座り、防犯カメラのような動きで万遍なく試験会場を監視している。
募集要項にあるボタンを押すだけの簡単な仕事、異常に高額な日当、東京拘置所ということから、職務内容はなんとなくは察しがついていた。
試験会場の時計の針は、午後5時に差し掛かろうとしている。
私は一つも解答できずにいる。
要するに、一つも問うことが出来ずにいる。
単純に解答に直結するような問いでは、人間らしさに欠ける。
私にはそれが許せない。
それは私の問い、すなわち解答ではない。
半年前、馬鹿らしくなって16年勤めた会社を辞めた。
この半年間、自分を見つめ直してきた。
自分はこれから何をしてどのように生きていくべきか。
結局、答えは出ていない。
失業保険の支給も来月で終了となる。
私は自分に対しても、この試験に対しても、何も答えられないのか。
ブザーが鳴る。
試験官が立ち上がり、口を開いた。
休憩時間です。
一旦試験用紙を回収します。
試験再開は明日の午前10時からとなります。
明朝9時45分までにこの部屋に集合してください。
試験期間中は皆様の食事と睡眠場所を提供いたします。
但し、この施設より外に出られると、試験を放棄したとみなします。
再度試験を受けることはできませんので、ご留意ください。
試験官はそう告げると、私たちを食堂に案内した。
質素な食事だが、最低限の栄養はとれそうだ。
食堂にはTVがあり、公共放送が映し出されている。
食事が終わると、独房に少し手を入れた程度の部屋に案内される。
簡易式のユニットバスと、頼りないベッドがある。
それだけの部屋だった。
私は試験終了までの6年間、ここで過ごすことになる。
まあ、それもいいか...
私はそう呟くと、ベッドに横になり、天井を見つめた。
6年後、私は何かの問い、すなわち解答に行き着くことができるのだろうか。
私の問い、すなわち解答は、どのように採点され、合否を決められるのだろうか。
眠りに落ちていくことがわかる。
この半年の間、私は私の人生について自分に問いかけてきた。
しかし、それは間違っていたのかもしれない。
先ほどの試験のように、私という解答に対して、問いを作成することが正しい順番なのではないか。
だとすると、私は何を問えば良い?
解答となる私とは一体、なんなんだ?
ブザーが鳴る。
私は洗面所で顔を洗うと、独房に少し手を入れた程度の部屋のドアを開ける。
同じように、其々の部屋から出てきた人々の影が、壁にあたる光の存在を肯定している。
私たちは、ぞろぞろと同じ方向へ歩きはじめた。
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