アンフェアな勿論

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こんにちはウルカ。

 

ハンドル部分を作っている。

革やプラスチック、樹脂、金属、石、植物繊維、化学繊維。

様々な素材のハンドル部分がある。

私はハンドル部分、つまり手で持つ部分を作る職人だ。

鞄、手すり、列車の座席の耳、自動車、オートバイ、吊革、手綱、分娩台、ロケットなど、その種類は多岐にわたる。

全て手作業で行う為、時間がかかり、大量に生産する事は出来ない。

割高であることから、汎用品ではない特別なものの製作依頼が多い。

工業製品化する為のプロトタイプ製作を請負うこともあるが、これはあまり好きな仕事ではない。

良いハンドルは、ものを扱いやすくしたり、少ない力で持ち上げたり運んだりすることができるということは勿論、握り心地や見た目の美しさにおいても、最高のものでなければならないと私は考えている。

 

私の工房はジャングルの果ての断崖絶壁にある。

アクセスはヘリコプター以外では難しい。

大金を使ってヘリコプターを飛ばし、わざわざ私に会いに来る一般の人間は少ない。

顧客の殆どは企業、国、王室、大金持ちなどである。

 

水平線から陽が昇りはじめる頃。

私はヤギのミルクを火にかけてあたためる。

岩に打ちつける波の音は悲しい叫び声のようだが、不思議と心が和らぐ。

パタパタとヘリコプターの回転する翼の音がする。

こんな時間に...

ハンドルの材料や生活品の配達ではないだろう。

家の前の草はらに、轟々と草埃を巻き上げながらヘリコプターが着陸する。

私は古い木で作られたデッキに出ると大量に埃を含んだ風に目を細め、ボサボサの髪を何度もかき上げる。

ヘリコフターは草はらにスキー板ような足で立つと、あっという間に岩に打ちつける波の音よりも静かになった。

ヘリコプターの扉が開き、のそりと巨漢が姿を現す。

異様に腕が長い。

二百六十七代目横綱

蝶翔獣という四股名で歴代最強横綱として連勝記録を更新し続けている。

私の顧客の一人である。

私は手をあげる。

蝶翔獣も手をあげて応える。

子供のような笑顔からは、あの土俵上の鬼神の姿を想像することはできない。

私は蝶翔獣を工房に通した。

「すみません、連絡もせず、朝早くに。場所前に突然調子が悪くなってしまって...」

「構いませんよ。どれ、見せてください。」

蝶翔獣は調子の悪くなったハンドルを外すと、作業台の上に置いた。

蝶翔獣の両腕は、私が製作したハンドルである。

厳密に言うと、腕の形をしたハンドルである。

生身の腕に装着すると、拳一つ分、腕が長くなる。

私の製作した腕型のハンドルは、対象物を掴むと、少ない力で持ち上げたり運んだりすることができる。

勿論それだけではなく、握り心地や見た目の美しさにおいても、最高のものである。

 

「ああ、大丈夫ですよ。これならすぐに直ります。」

 

「ありがとうございます!本当に助かりました。」

 

蝶翔獣は、子供のように笑った。

 

 

 

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