ポロポロと善を流しました

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こんにちはウルカ。

 

さあ、わたくし、

慈善だの偽善だのと、善を生業としております。

善を金や食料や寝床に変える事は善なのか否か。

ここで禅問答を繰り広げるつもりは毛頭ございませんが、善を贈れば、七、八割方、善でかえってまいります。

それは感謝の言葉であったり、笑顔であったり、金であったり、握り飯であったりするのです。

それから、善は巡り巡りることがあります。

あのときの、見覚えのある善が、何年も経て彼方此方で善を増やしながらかえってくることがあるのです。

これには感慨深いものがありますね。

わたくしは善を贈ることで、飛行機に乗って海の外へ行きましたし、また船に乗って海の内へ帰ってきたりもいたしました。

大きな城の主になったこともありましたか。

最近では、善ブローカー、いわゆる善の仲介屋なるビジネスが横行しているようでございますが、それは善なのか否か、わたくしにはわかりません。

しかし、はっきりと申し上げることができるのは、善は善を生み、増え続けるということです。

ああ、なんと素晴らしいことなのでしょう!

初老の男は、そこまで話すと一息をつき、コップに注がれた水を飲んだ。

初老の男は、ゴミ捨て場から拾ってきた木製の椅子に座り、同じくゴミ捨て場から拾ってきた木製の机に水を注いだコップと、外した銀色の腕時計を置いている。

限りなく霧に近い雨が、辺りを包んでいる。

初老の男の身振り、手振りをまじえた丁寧な話し方には、善意が感じられた。

 

黙って聞いていた自然は、毅然とした態度でこう言った。

あなたの言う善の素晴らしさはよくわかりました。

それによって、私の一部である、あなた方が破壊をやめ、豊かになるのであれば、それは良いことなのでしょう。

しかし、あなたの言う善は、私にとっては善ではありませんね。

在るのは善ではなく然であり、それだけのことなのです。

あなたの善が私にとっては然であり、何の変哲もありませんよ。

 

そんな....

そんな.....

そんなぁ.....

初老の男はポカンと口を開け、目玉をじゅうけつさせました。

それからポロポロと善を流しました。

それは大きな大きな河とはならず、男の頬を少し濡らしただけでした。

 

男は銀色の腕時計をつけると、木製の椅子と机を蹴り壊しました。

その衝動には悪意が含まれていました。

後には椅子と机と同じ質量の木材が転がるばかりです。

木材が一斉に口を開きました。

あなたの悪が私にとっては明日であり、何の変哲もありませんよ。

 

そんな....

そんな.....

そんなぁ.....

初老の男はポカンと口を開け、目玉をじゅうけつさせました。

それからドロドロと悪を流しました。

それは大きな大きな河とはならず、男の口元を少し汚しただけでした。

 

 

 

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