ナビゲーション・バー・オリジン

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おはようウルカ。

 

ナビゲーション・バー・オリジンは、駅から歩いて5分ほどの高架下にある。

私は常連という程ではないが、数ヶ月に一度のペースで訪れている。

雨が、降ることをやめた。

チラチラと街の灯りがともり始め、ゆきすぎる列車の四角い窓が、黄白く発光している。

革靴で踏むアスファルトはまだ少し濡れていて、黒い、鋭利な、洞窟の壁のようだ。

こんな夜は、オリジンへ行ってみようか。

 

湿気をかきわけて、オリジンに到着する。

ナビゲーション・バー・オリジン

橙色のライトに照らされた看板が、開店を主張している。

店のドアを開けると、バー・カウンターには疎らに先客があった。

私は空いているカウンター席に腰を下ろすと、スマートフォンをとりだし、アプリ・オリジンを起動する。

アプリ・オリジンは、このナビゲーション・バー・オリジンの店内でしか起動する事が出来ない仕組みになっている。

いらっしゃいませ

ようこそ、オリジンへ

にこやかな、バーのマスターが映し出される。

にこやかなマスターをタップすると、ナビゲーション画面にきりかわる。

行き先を設定して下さい

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点滅する文字をタップし、「もっとも幸せな瞬間のひとつ」と入力する。

 

南西に進みます

2000キロ先、左方向です

突き当たりを直進です

次の交差点を下に潜ります

しばらく、道なりです

私は暗い海と、2種類の次元をこえると、白い壁をした部屋に放りだされた。

私は母親に抱かれている。

正面には涙でベタベタの顔をした父親が笑っている。

白い服を着たドクターは、オリジンのにこやかなマスターで、お疲れ様でした、お飲み物は、如何致しましょうか。

と赤ん坊の私に言った。

私は、ギャンギャンと声を上げて歓喜を吐きだし、幸福と酸素を吸い込みながら、ジン・トニックを注文した。

にこやかな白い服を着たマスターは手際よくジン・トニックをつくると、仕上げにカットしたライムをグラスに入れた。

マスターは、できたてのジン・トニックを私の母親に手渡す。

母親は私を抱えたまま、ジン・トニックを私に飲ませてくれた。

まろやかなジンが、私に沁み渡る。

まだ泣きながら笑っている父親が、スマートフォンの画面を私に向けた。

 

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行き先を設定して下さい

 

私は、小さな指で点滅する文字をタップすると、「もっとも幸せな瞬間のひとつ」と入力した。

 

 

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