月のない夜はコーラの瓶を

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こんにちはウルカ。

 

 

月のない夜は、雲と空が反転してみえる事があるよ。

雨雲が空よりも黒いから。

そう言ってルクは、路上にある段差に座り、コーラの瓶にいれた井戸の水を飲んだ。

ルクは孤児で、正確な自分の年齢を知らない。

外見から、おそらく13才くらいだろう。

自分とは違う肌の色をした観光客に、ハシシや盗品、この地方の珍しいカメを売って、屋台でサモサを買う。

観光客たちは、珍しいカメをプリングルスの筒に隠して飛行機に乗るそうだ。

今日はハシシも、盗んだソニーも、珍しいカメも持っていなかったので、気まぐれでみすぼらしい日本人旅行者のガイドをしている。

夕食と引きかえに、一日街を案内する事で、メイク・ア・ディールした。

河や寺院、マーケットを一通り案内した。

それから、ダルが美味い食堂で、夕食とコーラにありついた。

今はそのかえり、すっかりと陽が落ち、闇が街から邪悪を引っ張りだす時間だ。

そろそろ行こう。

この辺りは強い野犬が出るんだ。

ルクはそう言うとコーラの瓶を溝に投げた。

 

 

朝、光が薄い黄色に見える時間、俺は近所の公園を散歩している。

今日は仕事で朝から打ち合わせがある。

髭でも剃って行くか。

それとなく目をやった溝に、コーラの瓶が落ちている。

今時珍しいな。

最近は、コンビニも自販機もペットボトルばかりで瓶のコーラを見かけなくなった。

俺はあの時、ルクが放り投げたコーラの瓶を思い出す。

ルクはコーラの瓶を溝に投げ捨てると、薄汚れたシャツで顔をぬぐった。

コンクリートを敷いた地面を沢山の爪が蹴る音が聞こえる。

野犬だ!

ルクが小声で叫んだ。

電燈の灯の下に姿を現した野犬たちは、思いの外可愛らしい目をしていた。

5、6頭いるだろうか。

痩せているが、逞しい。

無垢な目を可愛らしいと思ったのかもしれない。

人間は無垢なものを可愛らしいと感じる癖がある。

野犬が、口を捲りあげて威嚇をはじめる。

目は変わらず無垢なままだった。

無垢なまま、俺たちに喰らいつくのだろう。

ルクは路上に落ちていた棒切れを手に取る。

背を向けるな。

だけど目を合わせちゃいけない。

後ずさりするように逃げるんだ。

俺たちは数十秒で歩ける道を何分もかけて後ずさりで進んだ。

やがて大通りに出ると、車道に飛び出すように走った。

俺たちを追ってきた野犬の一頭が、車道で車に撥ねられた。

後続車が、倒れている野犬を避けきれずに轢いた。

俺とルクは車道の反対側で、息絶える野犬を見ていた。

夜の暗闇が引っ張り出した邪悪は、俺たちだったのかもしれない。

 

朝、光が薄い黄色に見える時間、俺は近所の公園を散歩している。

今日は仕事で朝から打ち合わせがある。

髭でも剃って行くか。

それとなく目をやった溝に、コーラの瓶が落ちている。

今時珍しいな。

最近は、コンビニも自販機もペットボトルばかりで瓶のコーラを見かけなくなった。

俺はあの時、ルクが放り投げたコーラの瓶を思い出す。

月のない夜は、雲と空が反転してみえる事があるよ。

雨雲が空よりも黒いから。 

 

 

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