題名なんてない日
こんにちはウルカ。
炭酸水を買いにコンビニエンスストアに出かける。
もう10月だというのに夏のような日差しだな。
珍しく駐車場は空いている。
太陽に手のひらを透かしていると、遠い地方のナンバープレートをつけた黒いセダンが、コンビニエンスストアの駐車場にとまった。
乱暴に開いた運転席のドアからのぞいた赤いヒールを履いた白い脚が、外光で彩度を上げる。
女は黒いセダンを降りると、面倒な仕事のようにドアを閉めた。
咥えた非・電子タバコには火がついており、薄紫色の煙をあげている。
煙が目にはいったのか、女が不快そうに目を細める。
それから、自分の口からタバコを毟りとると、アスファルトに叩きつけた。
タバコの落ちたアスファルトはドライアイスの悲鳴のような音をあげながら溶解を始める。
魔女か。
俺は腰につけていたタンバリンを手にとると、自分の頭をくぐらせ、首にかけた。
フラフープの要領でタンバリンをグルングルンと回す。
遠心光が広がり、俺の周囲1.5メートルを黄色い光が包む。
魔女は、タンバリンを首でフラフープよろしくグルングルンしている俺を一瞥すると、こう言った。
「あんた、平山じゃない?なにそんなところでタンバリンなんか回してんの?アホなの?」
「ん?誰だお前? おおん、コウジか??」
「久しぶりね、平山。12年ぶりかしら」
「お前、しばらく見ないうちに女どころか魔女になっていやがったのか」
「あんたこそ、そのタンバリンはなによ。魔人狩りのバイトでもしてるの?」
「まあな、趣味みたいなもんよ」
俺は再度、コウジの黒いセダンのナンバープレートを見た。
「ずいぶん西から来たんだな。」
「ああ、今ね、西の果ての街でマジョーガ教室をやってるのよ、今日はこっちで講演をお願いされちゃってね」
「はあ?なんだそのマジョンガってのは?」
「平山、相変わらず無知でアホね。マジョーガは魔女がやるヨガよ。欧米では王家や軍隊も取り入れているほどスタンダードなのよ」
「お、おん、そうなんか。で、そのマジョリカって、ヤモリとか食べながら変なポーズとかすんの?」
「はいはい、アホと話していたら、講演に遅れちゃいそうよ、私はアイスコーヒーを買いに来たの」
そういうとコウジは、コンビニエンスストアの扉をぶち壊して店に入っていった。
コウジが店内に完全におさまる頃には、扉はサラサラと元どおりになった。
「女になったくせに乱暴な奴だな」
コウジは背中越しに俺に向けて中指を立てると、商品棚の影に消えていった。
俺は首からタンバリンを毟り取ると、ランドクルーザーのエンジンをかけた。
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