軌条の上

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こんばんはウルカ。

 

軌条の上を歩いている。

地面と平行に両手をぴんとはって、平衡に平衡に。

軌条の高さは15センチメートルほど。

足を踏み外したとしても、約15センチメートル落下するだけである。

少し心拍が速まる程度のことだろう。

これでは刺激がない。

私は地面を、雲が流れる空ということにする。

軌条の下では雷雲に乗った小ぶりの太鼓をアーチ状にデコレートした雷神が、電々と太鼓を鳴らしながらブレイク・ダンスを披露している。

しばらくすると今度は絨毯に乗った褐色の肌をした三つ目の青年がやってきて、手にもつ銀色の食器から出現した蒼い肌をした怪物と唾を飛ばしあうほど烈しく言い合っている。男女関係のモツレだろうか。

頭上を見上げると、そこには海が逆さに波めいていて、先ほど見かけたブレイク・ダンスの雷神が、海面で電々と太鼓を鳴らしながらブレイク・ダンスを披露している。

しばらくすると絨毯に乗った褐色の肌をした三つ目の青年がやってきて、彼のもつ銀色の食器から出現した蒼い肌をした怪物と唾を飛ばしあうほど烈しく言い合っている。男女関係のモツレだろうか。

その上を、深緑とパープルが混じった金色のキマイラが飛んでゆく。

 

私は軌条の上を歩いている。

空中と平行に両手をぴんとはって、平衡に平衡に。

足を踏み外したとしても、無限に広がる空中を落下し続けると同時に上昇し続けるだけだ。

若干心拍が速まる程度の事だろう。

なんの刺激もない。

私の生きるこの現実世界には、限りなく始まりと終わりがない。

死を恐れることも、生を悦ぶことも無い。

幸福なことも、不幸なことも無い。

敢えてつくり出した、なけなしの抑揚で大袈裟に過ごすことが精一杯だ。

先程の絨毯に乗った褐色の肌をした三つ目の青年と銀色の食器から出現した蒼い肌をした怪物のように。

だけれどそれは、少し心拍が速まる程度の事だ。

 

私は眠っている時に見る夢が好きだ。

夢の世界には始まりと終わりがあり、死を恐れたり生を悦んだり、幸福や不幸を味わったり、欲望のために争い、騙し、奪い、嘆き、敢えて感覚を麻痺させて抑揚を感じないことが平穏だと思いこんだり。

なんて刺激的なのだろう。

早く眠りについて夢の世界へ入りこみたい。

このなんの刺激もない現実世界には別れを告げて、永遠に夢の世界で暮すことは出来ないだろうか…

 

私は軌条の上を歩いている。

地面と平行に両手をぴんとはって、平衡に平衡に。

ケンタウロスである私は、4本の足で軌条の上をぼんやりと歩いている。

私のような架空の生物が暮らすこの架空の現実世界には、限りなく始まりと終わりがない。

死を恐れることも、生を悦ぶことも無い。

幸福なことも、不幸なことも無い。

敢えてつくり出した、なけなしの抑揚で大袈裟に過ごすことが精一杯だ。

 

軌条を進んでいると、いつの間にやら駅に着いたようだ。

駅のホームには大勢の普通の人間がいて、私を珍しいものでも見るかのように指をさして何やら大声をあげたり、写真機を取り出して撮影をしたりしている。

けたたましい警報と金属の擦れる音と同時に、後方から電車が私に衝突した。

どうやら私は夢を見ているようだ。

軌条の上を歩いているうちにウトウトしたのだろう。

私のような架空の生物が暮らすこの架空の現実世界には、人間は存在しないし、電車と衝突して身体がバラバラになることもない。

私は、やけにリアルな自分から流れる赤い血と、いやにリアルな人間の悲鳴を遠くで聞きながら、そんなことを思った。

どうやら私は夢を見ているようだ。

だけれどそれは、少し心拍が速まる程度の事だ。

 

 

 

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