濫觴

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こんばんはウルカ。

 

カタカタと窓ガラスが鳴っている。

こんな寂れた街の、今にも崩れ落ちそうなビルとビルの間にも、風が吹き抜ける。

気持ちよく吹き抜けることができる場所は他にいくらでもあるだろうに。

ものずきな風もあるものだな。

オレは掠れた革張りのソファーに転がり、虫食いのような模様が大変不愉快な天井板を見上げながら、非・電子タバコをふかしている。

テーブルには潰れたビールの缶と、随分前にキャパシティーをオーバーした灰皿、それからタンバリン。

オレは4時間前、橋の上で不思議な動物を肩にのせた男からこのタンバリンを預かった。

不思議な動物を肩にのせた男は血塗れで、息が荒かった。

4トン車にでも撥ねられたのだろうか。

肩にいる不思議な動物は男の啻ならぬ様子とはうらはらに、静かに、眠るようにオレを見つめていた。

金色をしたその動物は、半分が炎のような気体で、空気との境があやふやに見える。

血塗れの男は、オレを凭れかかるように掴むと、こう言った。

悪いな、このタンバリンと、こいつを頼む。

こいつの名はウルカ。

振り返らず、走れ。

ここは俺がくいとめる。
さあ、いけ!

あの血塗れの男はなんだったのだろう。
出血で頭がおかしくなっていたのだろうか。
カラオケ屋に置いてあるような安物のタンバリンと、おかしな動物をオレに押しつけると、橋から飛び降りた。
オレは橋の下の暗い川面を見たが、男の姿はなかった。
死んだのだろうか。
まあ、どうでも良い。
面倒なことに関わるのは御免だ。
男が肩にのせていた動物は窓枠に座り、さしこむネオンの光を浴びて、大きなあくびをしている。
スマートフォンで写真を撮り画像検索をしたところ、コガネオオトカゲという種類の生き物らしい。
先程までの炎のようにあやふやな質感ではなく、しっかりとした鱗におおわれている。
ウルカ。
名をよんでみる。
ネオンの光を浴びるコガネオオトカゲは、一瞬、また炎のようにあやふやに揺らいだ。



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