あしなが鳩
こんにちはウルカ。
あしなが鳩を連れている。
シャルル・ド・ゴール空港は相変わらずの混雑で、行き交う人々は外気の冷たさからか、頬をあからめている。
連れているあしなが鳩は、私に寄り添うように歩いている。
もうすぐ、離ればなれにならなければならない。
あしなが鳩は伝書鳩として有名な鳩である。
伝書鳩とは、鳩のもつ帰巣本能を利用して遠隔地から鳩に手紙や小さな荷物を持たせて届けさせる通信手段の一種である。
特にこのあしなが鳩は、脚力、飛翔能力、帰巣本能に優れ、20000km以上離れた地点から巣に戻ることができるといわれている。
また、あしなが鳩は名の通り、人間と瓜二つの長い脚を持っており、その愛嬌のある容姿からペットとしても大変人気がある。
ペット服メーカーはこぞってあしなが鳩用の靴やパンツ、スカート、タイツ、レッグウォーマーなどを販売し、エステやネイル店では、あしなが鳩専用のコースを用意するなど、一大ビジネスとなっている。
先日もハリウッド・スターが、ペットのあしなが鳩に100カラットのダイヤを無数にちりばめたロングブーツを履かせた写真をSNSにアップして話題となった。
私は、あしなが鳩専門の連れ屋である。
あしなが鳩に限らず、伝書鳩は帰巣本能を利用することで手紙や小さな荷物を運ぶ。
手紙や荷物を届けることができるのは自分の巣のみ。要するに「帰る」という行動しかできない。
ということは、手紙や小さな荷物の送り主の元へ、前もって伝書鳩を輸送しておく必要がある。
私は手紙や荷物を伝書鳩に託したい者の元へ、前もって伝書鳩を連れて行く仕事、あしなが鳩専門の連れ屋である。
あしなが鳩は、他の伝書鳩、家畜や動物のような輸送は禁じられている。
あしなが鳩・特別愛護法によるもので、人間と同等の扱いをする必要がある。
人間と瓜二つの脚をもつことが特別視されているのだろうか。
業界では輸送ではなく、連れ旅とよばれ、1羽のあしなが鳩に対して人間が1人連れだって目的地を目指す。
道中、連れ屋とあしなが鳩が禁断の恋に落ちたという話も、業界あるあるである。
裕福そうな家のチャイムを鳴らす。
しばらくすると、メスのあしなが鳩がドアを開けた。
あなたが今回の連れ屋さん?
うーん、あまりタイプじゃないわねぇ
まあ、いいわ
フランスのパリまで行きたいの
パリにはこの家の主人の伯母がいるのよ
何でもその伯母がこの家の主人宛ての手紙と指輪をワタシに運ばせたいんだって
まったく迷惑な話よね
行きはファーストクラスなのに、帰りは徒歩と飛翔よ
寒いし、疲れるわ
あしなが鳩が手紙や贈り物を届けると、ロマンチックだと思っているみたい
はぁ…さあ、いきましょう
道中、ワタシを退屈させないでよ
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