マリオネット京子の亡骸

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こんばんはウルカ。

 

 

ワンルームの部屋。

日曜の朝の陽が、遮光のカーテンの隙から洩れている。

殺し屋名鑑2019年度版をみている。

デニーズ片山という殺し屋の紹介に目をとめる。

 

国籍 無記入

年齢 無記入

性別 無記入

身長 無記入

体重 無記入

学歴 無記入

資格 無記入

 

憎い者を残虐無惨に殺します。

完全合法・後腐れ無し・オーガニック・美肌効果あり

 

わたしは早速掲載されている連絡先に電話をする。

「はい、片山です。」

「あの、殺して欲しいんですけど」

「はい、お殺しのご依頼ですね、住所をお知らせください。」

「ああ、殺して欲しい人の住所ですか?」

「いえ、あなたの住所です。」

「え...」

「こちらから殺人器をお送り致しますので、付属の説明書通りに進めていただければ、安全に殺すことができます。ご請求は、お殺しが成立した後、またご連絡いたします。」

「はあ...」

 

片山にわたしの住所を告げた3時間後、部屋のチャイムが鳴った。

お届けもので〜す!

差出人はデニーズ片山となっている。

受け取った段ボール箱を開けると、ヘルメットが入っていた。

美顔機かしら...

以前エステのホームページで同じようなヘルメット型の美顔器を見たことがある。

説明書と書かれた小さな紙が一緒に入っていた。

説明書には、この殺人器を頭にカブる、殺人完了後、殺人器を脱ぎ、箱にしまう。

といった内容が簡単に書かれているだけである。

わたしは説明書通り、殺人器をカブる。

小さな起動音らしきものが聴こえる。

それから、目の前に映像のようなものがうつしだされる。

単色のグリーンの背景。

そこに場末のお笑い芸人、又は昭和の演歌歌手のようなジャケット、黒縁の丸メガネの小太りな男が登場した。

スクリーンに映っているというよりは、実際そこに存在しているようなリアリティがある。

こんにちは、デニーズ片山です。

男はそう名乗ると、早速ですがお殺しに移りましょう。と言った。

わたしはデニーズ片山に言われるまま、殺してほしい人間、職場の主任であるマリオネット京子との憎っくき出来事を思い出す。

すると、単色のグリーンの背景がわたしの憎っくき出来事の記憶に置き換わり、デニーズ片山がわたしの記憶に合成される。

目の前でマリオネット京子が理不尽な説教と耐え難い罵詈雑言をわたしにあびせる。

あまりのリアリティ。

わたしはあの時と同じに、職場の皆のいる前で嘔吐しそうになる。

あの時、嘔吐したわたしを職場の誰もが見て見ぬフリをした。

やだー!きったなーい!

マリオネット京子はわざとらしい悲鳴をあげる。

また一人で自分の吐瀉物を片付けるのか...

だけど、今回はあの時と少し違っていた。

わたしに罵詈雑言をあびせるマリオネット京子の前にデニーズ片山がたちはだかる。

デニーズ片山は身長が異常に低いので、マリオネット京子を高く見上げている。

デニーズ片山はデスクに置いてあった事務用の鋏を手に取ると、マリオネット京子に向ける。

それから、見たこともない手つきで、この世のものとは思えない残虐無惨な殺戮を遂行した。

わたしを含める職場の全員が、同じような悲鳴をあげ、同じように卒倒した。

マリオネット京子の亡骸は、それがマリオネット京子だとわかる手がかりはなにひとつもないくらいに滅茶苦茶だった。

 

どのくらいの時間が経過したのだろうか。

覚醒する。

単色のグリーンの背景。

そこに場末のお笑い芸人、又は昭和の演歌歌手のようなジャケット、黒縁の丸メガネの小太りなデニーズ片山がにこやかに立っている。

「如何でしたか?」

「はい、凄くショキングだったのですが、今はとても清しいような…」

「それはよかった、現在の法律では過去の人間を殺しても罪になる事はありません。あなたが見たものは幻影などではなく事実です。あの時のマリオネット京子さんは、実際にワタクシ、デニーズ片山に惨殺されました。それは、あなたの、マリオネット京子さん自身の、現場にいた全ての者の、記憶に残っています。

誤解している方が多いようですが、現在、過去、未来に同一の人物は存在しません。今のあなたは、1秒前、1秒後のあなたとは別人、ということです。明日、出勤したらマリオネット京子さんも、職場の皆さんも変わりなく存在するでしょう。だけれど、それは1秒前、1秒後の皆とは完全に別人です。同一時間軸に存在する者たちは、ただ、記憶という朧げな共通言語を有しているだけなのです。過去の人間を殺したければ、いつでもワタクシ、デニーズ片山にご連絡下さい。1秒過去から駆けつけますよ。お支払いは電子マネーであれば、5パーセント還元致します。」

 

わたしは、ヘルメット型の殺人器を脱ぐ。

ワンルームの部屋。

しょぼくれたテーブルに立てかけた鏡が、わたしを映している。

こころなしか、肌の調子がよくみえた。

 

 

 

 

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