エキスパート・ロング

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こんにちはウルカ。

 

クレジットカードを入れてください。

薄いピンク色で頼りなさそうなプラスチック製の箱には、クレジットカード挿入口と暗証番号を入力するためのプッシュボタン、クレジットカードを入れてくださいと書かれたガムテープが貼り付けてある。

私は飛行機と電車とバスとタクシーを乗り継ぎ、さらに車の入れない山道を8時間歩いて、やっとのことでこの薄いピンク色で頼りなさそうなプラスチック製の箱にたどり着いた。

断崖絶壁の頂点にたつその箱の前で私は、ポケットからクレジットカードを取り出す。

それからその箱のクレジットカード挿入口へ入れ、暗証番号を入力する。

ひと息おいて、確定と書かれたボタンを押す。

ギリギリと低い音がなる。

しばらくすると細断された私のクレジットカードがその箱の底面から下に置かれた屑籠へ落ちた。

これはそのクレジットカードが限度額一杯まで使用された事を示している。

私はもう一枚、新たなクレジットカードをポケットから取り出し、挿入口へ入れ、暗証番号と確定ボタンを押す。

先程と同じようにギリギリと細断されたクレジットカードが屑籠へ落ちる。

私はこの行動を5回繰り返した。

つまり5枚のクレジットカードが限度額を使いきり細断されて屑籠へ落ちたことになる。

私のもつクレジットカードはこれで全部だった。

あっという間だな。

私はこれまで、クレジットカードの限度額を上げるためだけに生きてきた。

5枚全てが一部の人間のみ手にすることができるとされるブラックパールプラチナエグゼクティブゴールドウランマッシヴ・カードである。

限度額は数千億とも数兆とも言われている。

全てはこの日の為に。

貯金は全て貧しい国へ寄付した。

世界トップの特大企業のナンバーツーにまでのぼりつめたポジションも先月辞職した。

明日から私はブラックパールプラチナエグゼクティブゴールドウランマッシヴ・カード5枚の限度額分の壮大な返済におわれる事になる。

先週契約した喫茶店のバイトでは、毎月合計3万円の返済がいい所だろう。

私は各クレジットカード会社の毎月の返済額を6千円に設定した。

私が購入したもの、生命維持保証エキスパートパックとは、私という存在の維持保証である。

世界中のクレジットカード会社と保険会社が提携して始めたこのサービスは、カード利用者が利用した金額を全て返済するまで、そのカード利用者の存在と健康を維持保証するというものである。

各方面のテクノロジーの粋を集め、事故、事件、病気、老いや寿命など、全てのものからカード利用者を守る。

230年前に始まったこのサービスの利用者の中には、現在272歳でバリバリのコンビニアルバイト店員も存在する。

私はのんびり3000年くらいは生きる予定である。

 

カラカラと音がして、薄いピンク色で頼りなさそうなプラスチック製の箱から領収書の紙切れが出てきた。

生命維持保証エキスパートパック購入完了である。

これで私は当面の間、どんな事をしても死なない。

例えばこの断崖絶壁から飛び降りたとしても、救命飛行体が光の速さで駆けつけて私を救うだろう。

私はとうとう不死身の身体を手にいれたのだ。

私は声をだして笑う。

それから勢いよく断崖絶壁から飛び降りた。

私は千数百メートルを落下する。

そろそろ救命飛行体がやって来ても良いころだ。

私は落下を続けている。

 

そのころ、カラカラと音がして薄いピンク色で頼りなさそうなプラスチック製の箱からもう一枚の紙切れが発行される。

この度は生命維持保証エキスパートパックのご購入誠に有難うございます。

サービスの開始はこれより一週間後となります。

それでは有意義なロング・ライフをご堪能ください。

 

 

 

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