騒がしいカフェ

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こんばんはウルカ。

 

いきつけのカフェがある。

日当たりの良い場所にアウトサイドスペースがあって、暑くも寒くも雨も風もない時季には俺にとって絶好のアイデア湧く湧くプレイスとなる。

ラップトップを持ちこんで、だらだらと過ごすのが好きだね。

仕事用に、そうじゃ無い用に、プチプチとアイデアが湧いてくる。

目の前には、まあまあ人通りのある露地と、味のある街路樹があって、よく鳥が遊びにくるのがとても良い。

暫くこの街を離れていた俺は、久しぶりにこのカフェを訪れた。

さすがに今日は寒いから、アウトサイドスペースにはダウンジャケットを着込んだアウトサイダーな欧米人くらいしか座っていないな。

店のドアを開けると、なんだか雰囲気が変わっている。

はやけに暑かったり、いやに寒かったり、どうにも雨だったり、否応なしに強風だっりする時によく座るインサイドスペースのお気に入りのテーブルが空いている事を確認すると、ダウンジャケットを脱ぐ。

マスター、久しぶりです、なんか雰囲気変わりました?

ああ、いらっしゃい、平山さん。

そうなんですよ、うちも音壁樹をいれたんですよ。

あっ、そうなんすね〜、どうりで音が…

 

音壁樹というものがある。

壁状の植物で、音を呼吸する。

光も水も空気も殆ど必要としないかわりに、騒音を吸い、浄音を吐くことで生きている。

店内を注意深く見渡すと、以前と変わらないように見える白色の壁は、緩やかに膨張と収縮を繰り返しているようだ。

音壁樹に囲われた室内では、客の話し声や、子供の奇声、ガシャガシャと鳴る皿の音など全く聴こえない。

自分のたてる足音さえも、跡形もなく喰われる。

本当に目の前で話さなければ、会話も成立しない。

それでいて、ピリピリと静寂が張り詰めているわけでも、伽藍堂のような無音に苛まれているわけでもなく、店内は安寧とした浄音に包まれている。

メロディもリズムもないが、不思議なグルーヴがある。

近年では図書館や病院、料亭などで多く採用されている。

 

マスター、いい感じっすね!じゃあ、いつものトアレグ・コーヒー、ください!

俺の発した注文はマスターに届いたのだろうか。

マスターはにこやかにカウンターにもどると、烈しくヘッドバンギングをはじめる。

ああ、そういえばここのマスター、デス・メタル好きだったな…

おそらくカウンター内では爆音でデス・メタルサウンドがスピーカーを震動させているのだろう。

以前は微かなボリュームでアシッド・ジャズとかが流れていたっけ。

隣のテーブルの客はマイクを握り盛大に唾をとばしながら何かを熱唱している。

向かいのテーブルではスマートフォンに夢中な母親の横で女の子が無音で絶叫するように泣いている。

その隣のテーブルではカップルが喧嘩をしているようで、女が男にコーヒーカップや皿を投げつけている。

男がかわしたコーヒーカップや皿が壁にぶつかり音を立てずに割れた。

視界が騒がしいな。

安寧とした浄音に包まれた店内は素晴らしいが、次からはアイマスクを持ってこよう。

俺はダウンジャケットを着ると、アウトサイドスペースにでる。

先客のダウンジャケットを着込んだアウトサイダーな欧米人がニヤリと笑うと、ここが一番だろ?と言った。

俺はそうだなと肯くと、味のある街路樹にとまる寒そうな鳥をみた。

 

 

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