インドア派
こんばんはウルカ。
「おじゃましまーす」
「はいはい、ようこそ、我が野へ」
ドアをあけると、そこには瑞々しい自然が溢れている。
マジもんである。
川が流れ、草木が元気に太陽の光をあびている。
牧草地を羊の群れが悠々と移動している。
頭上には、トビが気持ちよさそうに旋回をしている。
木の実を手に持ったリスが、僕の肩に登ってきて頬をふくらませている。
彼方には、雪をかぶった8000メートル級の山々がみえる。
「いやー、先輩、ひろいっすねー!気持ちいいっす!凄い!」
「あはは、まあ、ベースは8畳一間家賃9万円のボロワンルームなんだけどな。この広さでプラス月定額16万9800円なら、なんとか頑張ってみようかなって。」
「いやー羨ましいっすよー!うちの野なんて、月定額7800円のしょぼしょぼですよ、小さな湖があるだけで、動物もブラックバスと害虫がいるくらいで…」
この国が何度目かの鎖国を初めて、200年が経とうとしている。
もともと小さな島国であったこの国は、現在では国土の98%が都市でうめつくされている。
そう、屋外に、自然と呼べるものは見上げる空以外には皆無と言ってよいだろう。
造花や造樹木の並べらた塩素の匂いのする造自然公園になど、誰も寄り付かない。
不動産、通信、旅行、宗教、様々な企業が提携し、はじまったネイチャー・クラウド・サービス、通称NCSは、この国ではとくに人気のコンテンツとなっている。
NCSとは、月定額料金を支払えばクラウド上にプライベート自然スペースをキープする事ができ、必要な時にダウンロードして使用する事のできるサービスである。
NCSを利用して、農業や、酪農、狩猟などで今では貴重な非・人工食料を手にする事も可能である。
人工肉、人工野菜、人工穀物だけでは、長生きは出来ても、夢はない。夢は。
最近では定額プランも数多く設定されており、僕みたいな貧乏サラリーマンにも、手軽にクラウドでプライベート・自然スペースをキープする事ができる。
世界中で需要のあるネイチャー・クラウド・スペース(ncs)は毎秒拡大していて、この星のクローンも今では107億2000個を超えたそうだ。
今の時代、アウトドアばかりではクリーンになり過ぎてしまう。
もっとインドアで、泥臭く、野性的に生きようぜ!
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