時計屋を丸ごと買う

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おはようウルカ。

 

夏のような日差しの中。

商店街にある古時計屋の店先には、ゴミと見紛うような朽ちかけの時計を修理している老人。

店内には所狭しと腕時計、掛時計、置き時計など、ありとあらゆる時計が並んでいる。

その殆どが年代物のようだ。

夥しい数の古時計が一斉に時を刻んでいるさまは、夥しい数の老人に囲まれて一斉に何かしらのメロディをハミングできかされているような、異様な圧迫感と不思議な心地よさがある。

 

店の奥には夏の日差しのように暑苦しい眼光の男。

店主だろうか。

俺はその暑苦しい目をなるべく見ないように話しかける。

すみません。

時計をさがしているのですが。

なんて言うんだろう、あの、パタパタするやつ、置き時計で、わかるかな。

あーあぁ、あるよ!

店主は何も無いスペースを指差す。

あ、ここに置いてあったんだけどね、売れたの、売れちゃったのよ。

そうですか、残念だなぁ。

探しているのだけど、なかなか良いのが見つからなくて…

もう何処にも売っていないのかな。

いやいやいや、ウチにはね、あるよ、あるのよ、倉庫に、箱入りで、とってあるの。

コンセント式のと電池式、両方ね、あるの。

倉庫にね、売るつもりは無いんだけど、ほら、僕はね時計が趣味だから、あるのよ、箱入りで、新品が。

 

暑苦しい。

目、以外も。

 

そ、そうなんですね、でも売り物じゃないなら駄目ですね。

いやいやいや、いいのよ、今度ね、ここ、ここにね、倉庫から引っ張り出してきて置いとくから、ここに。

店主はさっきの何も無いスペースを指差す。

あれ、そうなの?だったら買いたいなあ。

いいですよ。いいですよ、ただね、僕はこれから千葉に時計屋さんを丸ごと買いに行くからね、ほら、僕は仕入れじゃなくて、丸ごと時計屋さんを買っちゃうのよ、これから千葉なの、千葉、丸ごとね、買うのよ、ほら、趣味だから、時計が。

何日か後にここ、ここに置いとくから、ほら、倉庫から引っ張り出して。

源さーん!あのさ、この前倉庫で一緒にみたあのパタパタ、箱入りの、あれ、持ってきといてよ、こちらのお客さん、また今度来た時見れるようにさ、え?、覚えてない? うーん、ああ、三郎に聞いたらわかるよ、ほら、僕はこれから千葉だからさ、たのむよ、たのむ。

店主は店先の老人に畳み掛けるようにいいつけると、ヨレヨレの名刺を俺に渡した。

ほら、また電話くれたら、いつでも、ね、ね!ね!

 

 

あれから1週間ほど経つ。

ヨレヨレの名刺は失くしてしまった。

今日は先週と比べものにならないほどの猛暑だそうだ。

いってみようかな。

あの古時計屋に。

 

 

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