みっちゃん

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こんにちはウルカ。

 

話が途中だったな。

 

駅前の居酒屋。

ふと、店内の音楽が途切れる。

俺たちのすぐ後ろで、音がした。

ギィ、ギィギィ、ギィ、ギィギィ

振り返ると、女が、隣に座る同僚のタケに今にも触れそうなくらい顔を寄せて、剥き出した歯を軋ませている。

タケは気にする様子もなく、肴のマグロを食べてウメェェなこれ!なんて惚けている。

タケも、店内にいる人々も、この女の存在に気がついていない。

都市魍魎。

この女は、都市に棲む下級魍魎の類いで、たいした害はない。

一般の人間は気配すら感じないだろう。

俺は腰につけているタンバリンを手に取る。

ついでに説明すると、このタンバリンも一般の人間には見えない。

リアルに腰にタンバリンをつけて歩き回るほど俺は浮かれポンチではない。

さておき、俺はタンバリンを手に取ると、くるくると二回転させる。

タンバリンは光を放ち、シャリシャリと浮かれた音を出す。

それからタンバリンを女の頭にのせる。

女はギィギィと歯を鳴らしながら、タンバリンの輪をくぐり抜けるように消えた。

誤解がないように説明すると、俺は女を抹殺したわけでも、痛めつけたわけでもない。

居酒屋のテーブルにこぼれたひとしずくの醤油を、おしぼりで拭いたにすぎない。

醤油にしてみたら、テーブルの上でも、おしぼりの繊維の中でも存在場所に拘りはないだろう。

あれ、何だか今夜は説明ばかりしているな。

俺の嫌いな説明野郎になっちまうところだぜ。

隣に座るタケを見る。

ホタルイカの沖漬けに夢中だ。

コイツは直感で生きていて、自分の行動を全く説明できない。

俺はこういう奴がたまらなく好きで、羨ましい。

なあ、タケ、お前はいつまでもそのままでいてくれよな。

ガラス張りの居酒屋の扉の向こうから、俺を見ている者に気がついたのは、その時だった。

みっちゃん。

タケの彼女。

みっちゃんは怖がっているような、それでいて感情がないような、力の抜けた顔で俺を見ている。

みっちゃんは上級の魍魎だ。

上級魍魎は、一般の人間であっても、姿、存在を認識できる。

タケに初めて紹介されたとき、俺にはすぐにみっちゃんの素性がわかった。

みっちゃんには俺の素性がわからなかったようで、不思議そうな顔をしていたのを覚えている。

その事は、今もタケには言っていない。

人間は、知らない方が良い事のほうが多い。

今夜、みっちゃんは初めて俺がタンバリンを使う所を見たのだろう。

 

一瞬、覚悟を決めたような表情をしたみっちゃんは、すぐにいつもの可愛らしい笑顔になって、店の扉を開ける。

こんばんは〜

もう、タケ!飲み過ぎじゃない?

あははは、まだまだこれからよー!

そういえば、店変えたいって言ってたけど、なんで?

ああ、いいの、いいの。

私、やっぱこの店すきだわ〜

なんじゃそりゃ、まあ、いいか。

ほら、平山ちゃん、飲んでる?

明日休みなんだからさぁ、がっつりいくよー!

ちょっとぉ!タケ、唾とんだーもぉ〜きたない〜

ははは、言われなくてもがっつりいってるよ!

あははは

ははは

もぉ〜やだ〜あはは

その晩、俺たちはいつまでもそのままでいた。

 

 

今日のニュース

32歳の男性が81歳の老人に変装。パスポートを偽造して空港セキュリティを通過しようとしたがあえなく逮捕

心音や血流、眼球の動きが絶えず聞こえる。非常に稀な症状を持つ女性

ウルカはデュビアを12匹

ギィ、ギィ、ギィギィ

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こんにちはウルカ。

 

私は、「ポン酢にしばらく浮気していたけど、やっぱり醤油が最高ってことに気がついた」ってツイートした後、「変な女に尾けられてる、こわい」ってツイートした。

 

異様に首のまがった女が、追ってくる。

長く伸ばした前髪で顔ははっきりとは見えない。

白髪が目立つけど、肌の感じや身のこなしから、まだ若そう。

30代くらい?

今年28歳になる私とそれ程変わらないと思う。

 

会社帰り、駅のホームで電車を待っていると、すぐ後ろでギィ、ギィ、ギィギィって音がした。

何だろうって振り返ると、その女が触れそうなくらい私に顔を近づけて、凄く小刻みに身体を揺すっていた。

震えてるんじゃなくて、凄く小刻みに揺すってるの。

私は怖くなって、場所を移動する。

電車がきて、乗る。

帰宅ラッシュは少し落ち着いた時間だったから、座れないまでも、人と人が押しあうという程ではなかった。

私はドアの近くに場所を確保した。

スマートフォンでSNSをみたり、気になっているバッグを調べたり。

車内アナウンスが私の降りる駅を告げる。

今日も疲れたな。

毎日、毎日、同じ顔ぶれと仕事するのって本当に疲れる。

これから10年とか20年とかこれが続くなんて、そんなの無理だよ。

ギィ、ギィ、ギィギィギィ

すぐ後ろであの音がした。

怖くて振り返る事が出来ない。

窓の外で、私の住む街の風景が流れる。

私はドアが開いたらすぐに飛び出せるように、ドアに擦り寄る。

私の目は、窓の外を流れる見慣れた街並みから、窓に映る私自身にピントを移動させる。

緊張した私の顔。

そのすぐ後ろに女の顔があった。

ギィギィ、ギィギィ、ギィギィ

その音が歯軋りだとわかったのは、窓に映った女が歯を剥き出して、強い力で擦り合わせているのが見えたから。

ギィギィと歯を擦り合わせながら、小刻みに身体を揺すっている。

ホームに到着した電車がドアを開放した。

私は勢いよく飛び出し、振り返らず、階段を駆け上がる。

 

駅裏の自転車置場を越えると、街灯も疎らで人通りも少ない。

自転車置場のやたらと青いライトは犯罪抑止効果があるって記事を読んだ事がある。

振り返る。

異様に首のまがった女がフラフラと駅の階段を降りているのが見える。

私との距離は150メートル以上ありそう。

あのフラフラとした足取りなら、私に追いつく事は出来ないだろう。

私は少し安堵して、それでも早足に、彼氏と同棲しているマンションを目指す。

彼、帰ってるかな…

彼氏にLINEする。

もう、家?

すぐに返事がくる。

駅前で平山ちゃんとのんでるー!

写真も送られてくる。

やましい事ないですアピールかよ。

なんだ…駅前にいたのなら合流すれば良かったな…

今日は独りで部屋に帰るのは心細い。

彼が送ってきた写真を見る。

楽しそうな彼と同僚の平山さん。

いつものメンバー。

でも、見つけたの。

そのすぐ後ろの席に、あの女が座っている。

首が異様にまがった、白髪の。

 

 

俺は、同僚のタケと駅前で飲んでいる。

タケが赤ら顔で言った。

平山ちゃん、なんか彼女が合流したがってるんだけど、良い?

店変えて欲しいって。

ああ、みっちゃん?いいけど、なんで店変えんの?

わからん、なんか、そこはヤバいって。

ははは、なんだそりゃあ。

ふと、店内の音楽が途切れる。

俺たちのすぐ後ろで、音がした。

 

ギィ、ギィギィ、ギィ、ギィギィ

 

 

今日のニュース

糖分の量に応じてソフトドリンクに税金をかければ、肥満防止と経済効果の一石二鳥になる(米研究)

脳死した27歳妊婦が117日後に元気な女児を出産

ウルカはデュビアを1匹

ウルカって誰ですか?

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こんにちはウルカ。

 

ウルカって誰ですか?

という質問をちょいちょいいただいているので、ここでお答えします。

ウルカとは、一緒に暮らしているトカゲの名前です。

と言っても、本当の名前ではありませんが…

ちなみに平山もタンバリンも俺にはなんの所縁もありません。

ウルカはコガネオオトカゲという種類で、亜熱帯地方の生物です。

まだ子供で、人間でいうなら小学生くらいでしょうか。

通常、日本の冬を越せません。

寒いからね。

鬼のような温度湿度管理システムをかます事によって、俺の部屋で暮らしています。

今、体長60センチくらい。

最終的には120センチくらいになり、人間の小学生くらいの体長になります。

知能も高く、感情的です。

日本で見かけるトカゲとは身体つきも違っていて、首を持ち上げてノシノシと歩く姿は恐竜のようです。

と言っても俺は人間が想像した恐竜しか見た事がないので違うかもしれませんが。

ティラノサウルスは柔らかい毛でおおわれてフワッフワで、ちょこまか歩くパフィー・キューティーだったのかもしれませんし。

さておき、ウルカとはでかいトカゲで、俺は毎日このコガネオオトカゲに挨拶がてらブログを書いています。

なので記事はおまけで挨拶が本文です。

写真も文もウルカには殆ど関係ありません。

動物飼育日記みたいなものとはズレていますね。

そう、適当で雑で滅茶苦茶なのです。

記事のカテゴライズもしていません。

このブログはなんなのだと問われても、しらんがねと俺は答えます。

御清聴、有難う御座いました。

聴いてねえよ、読んでんだよ?

しらんがね。

 

 

今日のニュース

ジェットコースターで誰かが落としたスマホをキャッチする天才現る

「ロシアのスパイ」と疑われていたシロイルカ、カモメと戯れている姿が目撃される

ソニーが壊れた。修理中ブログ用スナップがとれんがや

銀エンゼルまたでた。5枚そろってまった

ウルカは鶏ささみを15切れ

森が膨張したようだ

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おはようウルカ。

 

動物は隠れる事が好きだよな。

好きというよりも、酸素や水と同じ様に生きる上で必要な要素なのだろう。

隠れる事によって、雨、雪、雹、風、陽光、寒さ、暑さ、外敵、から身を守る。

更に人間はプライバシーや財産や1人の時間を守るためにドアに鍵をかけ、カーテンを吊す。

その点、植物は同じ生物だけど、逃げ隠れしないね。

雨、雪、雹、風、陽光、寒さ、暑さ、外敵も全て受け入れている。

動物達の隠れ場となり、食料となる。

プライバシーや財産や1人の時間も分け与える。

なんて寛大なんだ!

 

列車の窓から薄暗くなった街を見ている。

人間の隠れ場が森を邪魔するように群立している。

それでも木々は今日も全てを受け入れ、与え続ける。

俺は列車を降りると少し歩いて、岸壁にできた小さな穴ぐらのような人工の隠れ場に入る。

それから皆がそうするように、明かりを灯す。

穴ぐらの窓から薄暗くなった街を見る。

群立する人工の岸壁の穴から無数の光がもれている。

さっきより、森が膨張したようだ。

このまま全部が森にのみこまれるのかもしれないな。

まあ、そうなったら、そうなっただ。

 

 

今日のニュース

アインシュタインは「宇宙定数」を人生最大の過ちであると後悔したが、それでも傑出したアイデアだった

ウルカはデュビアを4匹

45分あれば

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こんにちはウルカ。

 

自動車を運転している。

中央分離帯の雑草が風に揺れている。

よく晴れた空は道路標識よりも薄い青色で、鱗雲がじんわりと浮いている。

邪魔者のない道は、どこまでも続く滑走路のようだ。

朝の混み合う時間帯から45分遅くらせるだけで、運転時間は約半分に短縮できる事に最近気がついた。

渋滞している朝は、1時間以上ハンドルを握っている。

それが30分で到着してしまう。

45分遅れで家を出て、30分短縮するということは、15分の遅刻となる。

渋滞の中の亡者達は何にとり憑かれているのだろう。

15分の遅刻をしないがために、朝ののんびり45分を捨てているのか。

その朝の15分、職場で何ができる?

おはよう、トイレ、席に座る、コンピュータを立ち上げる、メールをチェックする。

それくらいだよ。

 

45分あれば、海外ドラマが1話観れる。

45分あれば、散歩してシャワーを浴びれる。

45分あれば、45分余分に眠れる。

45分あれば、(ご自由に書き込みください)

45分あれば、(ご自由に書き込みください)

45分あれば、(ご自由に書き込みください)

45分あれば、(ご自由に書き込みください)

45分あれば、(ご自由に書き込みください)

 

 

今日のニュース

ベラルーシの電車内で20年前に失踪した娘、大人になり両親の元に帰ってくる。

ウルカは休食

僕は痴漢

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おはようウルカ。

 

僕は痴漢。

見知らぬ女性のお尻を触ると嬉しくなる。

痴漢チケットはインターネットで購入するよ。

駅に着くとスマートフォンに整理番号が表示される。

僕の整理番号は136番。

順番はきちんと守らなきゃ。

順番を守らない人は、ニッポン・痴漢・センター・ブラック・リスト(JMCBL)に登録されて、次から痴漢チケットを買えなくなってしまう。

痴漢の順番がやってくるまで、何往復も電車に乗り続けるよ。

 

136、136、136、

お昼頃、やっと僕の整理番号がスマートフォンで点滅した。

通勤ラッシュも落ち着いて、電車はガラガラ。

セクシーな女性なんて1人もいないよ。

今日もキャンセルかな…

当日キャンセルはチケット代金の100パーセントを支払わなきゃいけないから、損になってしまうよ。

次の駅に着いて、杖をついたお婆ちゃんが乗ってきた。

予想通り、電車が発車すると同時にお婆ちゃんはよろけた。

僕はとっさにお婆ちゃんをだきとめた。

それから僕はお婆ちゃんの腰をささえながら、優先席に案内したよ。

ご親切にありがとう。お若いのに立派な人だねぇ。偉いねぇ。

お婆ちゃんに沢山お礼を言われて、僕はとても嬉しくなったよ。

137、137、137、

スマートフォンの整理番号が137番に変わったよ。

 

 

今日のニュース

モスクワの超高層ビルの間を集団綱渡り 上空350m、距離240m

台湾でタピオカピザが人気

ウルカはデュビアを11匹

アンフェアな勿論

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こんにちはウルカ。

 

ハンドル部分を作っている。

革やプラスチック、樹脂、金属、石、植物繊維、化学繊維。

様々な素材のハンドル部分がある。

私はハンドル部分、つまり手で持つ部分を作る職人だ。

鞄、手すり、列車の座席の耳、自動車、オートバイ、吊革、手綱、分娩台、ロケットなど、その種類は多岐にわたる。

全て手作業で行う為、時間がかかり、大量に生産する事は出来ない。

割高であることから、汎用品ではない特別なものの製作依頼が多い。

工業製品化する為のプロトタイプ製作を請負うこともあるが、これはあまり好きな仕事ではない。

良いハンドルは、ものを扱いやすくしたり、少ない力で持ち上げたり運んだりすることができるということは勿論、握り心地や見た目の美しさにおいても、最高のものでなければならないと私は考えている。

 

私の工房はジャングルの果ての断崖絶壁にある。

アクセスはヘリコプター以外では難しい。

大金を使ってヘリコプターを飛ばし、わざわざ私に会いに来る一般の人間は少ない。

顧客の殆どは企業、国、王室、大金持ちなどである。

 

水平線から陽が昇りはじめる頃。

私はヤギのミルクを火にかけてあたためる。

岩に打ちつける波の音は悲しい叫び声のようだが、不思議と心が和らぐ。

パタパタとヘリコプターの回転する翼の音がする。

こんな時間に...

ハンドルの材料や生活品の配達ではないだろう。

家の前の草はらに、轟々と草埃を巻き上げながらヘリコプターが着陸する。

私は古い木で作られたデッキに出ると大量に埃を含んだ風に目を細め、ボサボサの髪を何度もかき上げる。

ヘリコフターは草はらにスキー板ような足で立つと、あっという間に岩に打ちつける波の音よりも静かになった。

ヘリコプターの扉が開き、のそりと巨漢が姿を現す。

異様に腕が長い。

二百六十七代目横綱

蝶翔獣という四股名で歴代最強横綱として連勝記録を更新し続けている。

私の顧客の一人である。

私は手をあげる。

蝶翔獣も手をあげて応える。

子供のような笑顔からは、あの土俵上の鬼神の姿を想像することはできない。

私は蝶翔獣を工房に通した。

「すみません、連絡もせず、朝早くに。場所前に突然調子が悪くなってしまって...」

「構いませんよ。どれ、見せてください。」

蝶翔獣は調子の悪くなったハンドルを外すと、作業台の上に置いた。

蝶翔獣の両腕は、私が製作したハンドルである。

厳密に言うと、腕の形をしたハンドルである。

生身の腕に装着すると、拳一つ分、腕が長くなる。

私の製作した腕型のハンドルは、対象物を掴むと、少ない力で持ち上げたり運んだりすることができる。

勿論それだけではなく、握り心地や見た目の美しさにおいても、最高のものである。

 

「ああ、大丈夫ですよ。これならすぐに直ります。」

 

「ありがとうございます!本当に助かりました。」

 

蝶翔獣は、子供のように笑った。

 

 

 

今日のニュース

目に注入すると暗闇が見えるようになるナノ粒子を開発

ペットの鳥に襲われて男性死亡

中国のバイオテクノロジー会社が、クローン猫を誕生させることに成功

ウルカはデュビアを10匹

解答となる私

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こんにちはウルカ。

 

次の解答から問いを作成してください。

・3

・ヒトイキレ

・摩擦

・Angular

・正子は青を選ぶ

真鯛

・36.529

檸檬または煙草

・シルバーのライン

・石

・C9H13NO3

 

解答だけが羅列された試験用紙。

私は採用筆記試験を受けている。

残り時間は6年。

 

応募ありがとうございます。

それでは、これから採用試験を受けていただきます。

履歴書をカバンに入れて、面接に訪れた私は、会議室のような場所に案内され、そう告げられた。

既に30人余りが席についていた。

 

職業安定所の求人広告で見つけた募集要項。

急募

日当48000円

ボタンを押すだけの簡単な仕事

性別年齢不問

東京拘置所

 

試験官は僧侶のような姿勢でパイプ椅子に座り、防犯カメラのような動きで万遍なく試験会場を監視している。

募集要項にあるボタンを押すだけの簡単な仕事、異常に高額な日当、東京拘置所ということから、職務内容はなんとなくは察しがついていた。

 

試験会場の時計の針は、午後5時に差し掛かろうとしている。

私は一つも解答できずにいる。

要するに、一つも問うことが出来ずにいる。

単純に解答に直結するような問いでは、人間らしさに欠ける。

私にはそれが許せない。

それは私の問い、すなわち解答ではない。

 

半年前、馬鹿らしくなって16年勤めた会社を辞めた。

この半年間、自分を見つめ直してきた。

自分はこれから何をしてどのように生きていくべきか。

結局、答えは出ていない。

失業保険の支給も来月で終了となる。

私は自分に対しても、この試験に対しても、何も答えられないのか。

 

ブザーが鳴る。

試験官が立ち上がり、口を開いた。

休憩時間です。

一旦試験用紙を回収します。

試験再開は明日の午前10時からとなります。

明朝9時45分までにこの部屋に集合してください。

試験期間中は皆様の食事と睡眠場所を提供いたします。

但し、この施設より外に出られると、試験を放棄したとみなします。

再度試験を受けることはできませんので、ご留意ください。

試験官はそう告げると、私たちを食堂に案内した。

質素な食事だが、最低限の栄養はとれそうだ。

食堂にはTVがあり、公共放送が映し出されている。

食事が終わると、独房に少し手を入れた程度の部屋に案内される。

簡易式のユニットバスと、頼りないベッドがある。

それだけの部屋だった。

私は試験終了までの6年間、ここで過ごすことになる。

まあ、それもいいか...

私はそう呟くと、ベッドに横になり、天井を見つめた。

6年後、私は何かの問い、すなわち解答に行き着くことができるのだろうか。

私の問い、すなわち解答は、どのように採点され、合否を決められるのだろうか。

 

眠りに落ちていくことがわかる。

この半年の間、私は私の人生について自分に問いかけてきた。

しかし、それは間違っていたのかもしれない。

先ほどの試験のように、私という解答に対して、問いを作成することが正しい順番なのではないか。

だとすると、私は何を問えば良い?

解答となる私とは一体、なんなんだ?

 

ブザーが鳴る。

 

私は洗面所で顔を洗うと、独房に少し手を入れた程度の部屋のドアを開ける。

同じように、其々の部屋から出てきた人々の影が、壁にあたる光の存在を肯定している。

私たちは、ぞろぞろと同じ方向へ歩きはじめた。

 

 

今日のニュース

73歳女性、元気な双子の女児を出産。世界最高年齢の初産記録に(インド)

アパート近くの埋め立て地から、行方不明者のものとみられる2千以上のバラバラになった人骨が発見される(メキシコ)

ネッシーは巨大ウナギかもしれない!?科学者による大規模調査で新たなる展開(ニュージーランド

ウルカはデュビアを6匹

パプリカを囓る忍者

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ただいまウルカ。

今日は暑かったね。

夜は台風がやってくるそうだ。

嵐になる前に、家族の話でもしようか。

 

夏が盛りを終える頃。

パンク・ロック・ファッションに身を包んだ老女が、手押し車に凭れるように歩いている。

ぶつぶつと何かを呟いているが、行き交う人々に内容が聞こえるほどの声量ではない。

どのみち聞こえたところで、その言語を理解できる者は無いだろう。

老女は陽の光を避けるように陰の中をキィキィと手押し車を鳴らしながら進む。

 

僕は石畳の通りを歩いている。

アスファルトと石畳では、後者の方が硬い。

硬いが、あたたかみがある。

余計な事を考えないように、目立たないように、気配を消して、石畳の感触だけに集中する。

スーパーマーケットの茶色い紙袋を抱えている。

僕はエクソシスト、要するに悪魔祓い専門の牧師であり、忍者である。

神父と牧師では大きな違いがあり、後者で悪魔祓いを行う者は少ない。

普段は忍者として働き、休日は教会へ。

依頼があれば悪魔祓いを請負う。

今日は早番だったので、午後イチで忍術業務を終わらせると、遅番の忍者と交代した。

遅番の忍者は完徹プライム・ビデオに陥ったそうで、目の下にクマをつくっていた。

夜の忍術業務は、変わり身と分身の術でなんとか乗り切るそうだ。

忍者事務所を後にする。

街には残暑のぬめりが不快に蟠っている。

スーパーマーケットで悪魔祓いに使用するパプリカを6個購入した。

半年ぶりに悪魔祓いの依頼が入ったのだ。

僕は悪魔祓いが苦手である。

なんといっても悪魔が恐ろしいし、取り憑かれた人間は暴力的になり、吐瀉物をかけられたり、酷いことを言われたり、命を狙われる事もある。

高い報酬がなければ絶対にやっていないだろう。

家のローンがたっぷりと残っている。

自動車を買いかえたい。

家族には、ハワイ旅行を強請られている。

忍者の仕事と週末の教会でのバイトでは到底賄えない。

僕には、カネが必要なのだ。

 

正面から、悪魔憑きの老女が手押し車に凭れるように歩いてくるのを見つけた時は、最悪最低の気分となった。

悪魔は陽の光に焼かれると力を失う為、通常昼間に出歩く事はない。

昼間に出歩く事が出来るという事は、相当に強い力を有した悪魔である。

一介のエクソシストなどひとたまりもない。

僕がエクソシストだということがわかれば、悪魔は僕を殺すだろう。

僕は咄嗟に忍法隠みの術で街路樹と同化する。

幸い、忍術業務帰りだったので、聖水もバイブルも持っておらず、悪魔に牧師だと気づかれる可能性は低い筈だ。

野菜を抱えた忍者が街路樹にはりついているに過ぎない。

キィキィと老女が街路樹の前にさしかかる。

老女が足を止めた。

僕は懐の中の手裏剣を握りしめる。

「お若いの、わたしのことがわかるようだね」

老女が旧言語を逆再生で発音する。

銀色のピアスが舌の上にみえた。

僕は思わず声を漏らす。

ジーザス…」

「そう、わたしはあなたの神だよ」

「オォ・マイ・ゴッド…」

老女は…

老女は僕が神と崇める伝説のパンク・バンドのヴォーカリストだった。

2年に亡くなっている。

それから老女は顔を僕の母親に変えた。

忍法隠みの術で同化していたつもりの街路樹は、背後でボロボロと朽ち落ちはじめている。

僕は歯をくいしばる。

意識の果てで、紙袋のパプリカを掴むと、一息に囓る。

 

ページをめくる。

 

形状記憶の神を小さく折り畳んで心にしまう。

高額なお布施をすれば、よりコンパクトに折り畳める神をくばられる。

ちょっとした心の隙間にいれておけるので大変便利だ。

いざというときには、神を大きく広げる。

神を広げるには嫌いなものを囓らなきゃいけない。

まあ、手にナイフを突き刺すよりは全然マシだけど。

形状記憶なので折り皺一つないピカピカの神が心に広がる。

午後から雨予報、神を濡らさないように折り畳んで隅にしまっておこう。

 

私はそこまで読むと、11歳になる息子のノートを閉じた。

とても変わった子で、忍者のコスチュームで学校へ通ったり、パプリカを大量にベッドの下に隠していたりする。

学校でいじめられたりしていないだろうか。

一度、兄に相談してみようかしら。

 

帰宅した俺は部屋の明かりをつける。

ウルカの様子をみる。

ぐっすりと眠っている。

スマートフォンが着信を知らせる。

おっ、めずらしいな。

妹からか。

はい、もしもし?

 

 

今日のニュース

「なお、この素材は自動的に消滅する」任務終了直後に蒸発するスパイ大作戦みたいな新素材が開発される

ウルカはデュビアを1匹

自書像

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こんにちはウルカ。

 

自書像を書いてみよう。

 

この時季の朝靄は湿気が重い。

歩行速度が速い。

小さなカメラを右手に持っている。

髪を出鱈目に刈り上げている。

3日前にぶっ壊れたアップル・ウォッチを廃品アクセサリーとしてリサイクルしている。

ピアスの穴が、カラの額縁のようだ。

腕についた引っ掻き傷が生々しい。

無地、単色の服を着ている。

九分丈のパンツ、短い靴下に革靴をあわせているところが若干イタイ。

異国人種のような顔立ち。

外見からは年齢も国籍も不詳。

雰囲気は穏やかで八方美人だが、好き嫌いが激しいということを人見知りというオブラートに包んでいるところがズルヨワイ。

刺青だらけ。

首の折れたフェンダーのギターを古い設計の新しいトヨタにつんでいる。

古いアメリカ製と古い日本製のオートバイに乗っている。

沢山の動物と暮らしている。

恋人を愛している。

中くらいの企業で中くらいの役職に就いている。

不満は多いがギャラも多いので相応かと怠けている。

中くらいの庭が欲しい。

テクノロジーに左右されないクリエイティブを生業とする事に憧れている。

 

ああ、これ、履歴書のコメントに丁度良いな。

ああ、もう履歴書を書くこともないだろうな。

 

 

今日のニュース

少年が崖の下に落としたサンダルを必死に拾ってくれたのは、1羽のアヒルだった

ウルカは鶏ささみを15切れ

小分けアタラクシア

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こんにちはウルカ。

 

亀田さんよ、カレーせんは小分けにしてくれよな、いっぺんに一袋いってまうだろ、ハッピーターンでできて何故カレーせんで出来ない?

たのむでしかし。

それはさておき、小分けというものは素晴らしいよな。

最近、内容量135mlという、ミニビール缶の良さがやっとわかってきたよ。

あれを10缶飲むと、1350ml。

1000円強。

邪魔くさい、ゴミ大量、割高。

誰が買うねん、となる。

しかし、そこには始まりと終わりを小刻みにループすることによって発生するカタルシスが、飲者を悟りへと導くフローが存在する。

それを数千円で手に入れる事ができるのだ。

小洒落たバーなどへ行っている場合ではない。

YO!

つまりここで俺が言いたいのは、ちまちまとループするような人生にこそに意味があるのではないかと言うことだ。

それもさておき、小分け議論といえば綿棒。となるわけだが、先月から綿棒道場に通っている。

仕事帰りに。

綿、めーん!

子供からお年寄りまで。

綿、めーん!

男性も女性も。

綿、めーん!

ダイエットや護身術に!

綿、めーん!めん!めーん!

先生の綿紡五郎駄右衛門氏は、綿棒道50年の手練れだ。

綿棒は、なにも鼻や耳へ突っ込むばかりではない、寧ろ、その他の無限の用途に真の境地がある。

という事を毎回まざまざと見せつけられている。

本日も極限まで自己を追いこみ、解放することによって、清々しい心を手に入れることができた。

帰路。

俺はコンビニエンス・ストアによると、シッダールタのやうな足取りで、500ml缶のラガービールとカレーせんを買った。

 

亀田さんよ、カレーせんは小分けにしてくれよな、いっぺんに一袋いってまうだろ、ハッピーターンでできて何故カレーせんで出来ない?

たのむでしかし。

それはさておき、小分けというのは素晴らしいよな。 

 

 

今日のニュース

空間領域トンネル「ワームホール」を作成するための具体的な手順が物理学者によって公開される

劣悪な状況にあったイスラエルの動物保護施設を丸ごと買い取った女性。収容されていた250匹以上犬全てが救われる

3人の殺人容疑がかけられた男、全裸で警察官を追い回す

ウルカはデュビアを1匹

66.843KHzは幸せか

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ゴドロゴドロと大きくて重たいものを引き摺るような音で空が鳴っている

外は悪天候のようだ。

この部屋は暖かい。

気温68度。

湿度12パーセント。

僕たちが快適に過ごせるように調整されている。

 

人間のオスを飼っている。

ケージのある部屋に入る時は、防寒スーツを着用する。

人間の名前は66.843KHz。

僕たちは振動を使ってコミュニケーションをする。

僕たちの言語は振動というわけ。

名前の66.843KHzは、人間の言語で表すとリラックスというような意味合いだ。

僕が人間に魅かれたのは、他のペットとなる生命体と比べると知能が結構高いこと、容姿が僕たちに少し似ていること、のんびり屋で優しい性格をしていることだ。

ペットショップで見たとき、ビビッときたよ。

残念なのは寿命が短いことだね。

ベビーから飼い始めたのだけど、あっという間に成体になって、今では頭の体毛が抜けて無くなりかけている。

飼育書によると、頭の体毛が抜け始める、または頭の体毛が銀色に変わると、成長を終えて消滅へ向かい始めているそうだ。

それと、身体のサイズが成体となっても僕の手のひらに乗るほど小さいから、背中に乗って遊ぶなんてことはできないね。

だけど凄く魅力的な生命体だよ。

見ているだけで飽きない。

飼育係ボットと楽しそうに会話していたり、太陽ライトの下のプールでプカプカ浮いていたり、美味しそうに人間フードを食べたりしている。

ペットショップで購入した自転車というおもちゃがお気に入りみたいだ。

飼育係ボットには、人間の言語や教養プログラムがインプットされている。

僕はパパにねだって最新の最高級飼育係ボットを買ってもらったから、理想的な人間に育っていると思う。

だけど、もうすぐお別れなんだ。

僕の町には人間を飼うのにいくつかのルールがある。

・虐待してはいけない

・死体、生体ともに遺棄してはいけない

・繁殖をさせてはいけない

・死んでしまう前に故郷へかえさなければならない

僕とパパは頭の体毛がなくなり始めた人間を携帯用ケージに入れると、自動挺に乗せた。

人間の故郷にはあっという間に到着したよ。

僕とパパは防寒スーツを着て66.843KHzをリリースする。

66.843KHzは飼育係ボットに何度もしがみついた。

人間の言葉ではハグと表すそうだ。

66.843KHzは何度も何度もこちらを振り返りながら、お気に入りの自転車というおもちゃに乗って、ミニチュアの街に消えていった。

僕はさみしくなって泣いた。

パパは僕の頭を撫でながら、人間は人間の世界で生きることが一番なんだよ、66.843KHzはきっと幸せになるよ。

と振動した。

 

 

おはようウルカ。

今朝は少し涼しいね。

俺は駅までの道を歩いている。

線路内をすごいスピードで走る子供用の自転車に乗ったオッサンを見た。

すごい笑顔だった。

ブッとんだ奴がいるもんだな。

 

 

今日のニュース

牛に海藻を食べてもらうことが地球温暖化抑制に高い効果を発揮するという研究結果

IKEA店内でのかくれんぼに3千人の参加希望者

ヒキガエルの分泌物を吸引すると半数以上の人は1か月間ハッピーな気分になれる

ウルカはデュビアを4匹

極悪がベースの微笑

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こんにちはウルカ。

 

三丁目に感情ショップが開店したね。

天然感情と養殖感情では、やはり天然物の方が高価なようだ。

パーマの天然物は大して重宝されないのにな。

テイクアウトで「愉快」と「恍惚」と「平穏」を買っていこう。

本当は店内の高級なソファに深々と座って、ゆったりと感情を堪能したいのだが、これから仕事がある。

「愉快」と「恍惚」と「平穏」は帰宅後の楽しみとしよう。

 

私は犯罪者専門のカメラマン。

フリーランス

犯罪者をいかに犯罪者らしく撮影できるかが重視される。

異常で、狂人で、病的で、悪意に満ちた表情をおさえる。

護送車のウィンドウごし、警察官に脇を抱えられて歩く、または容疑が確定する前夜の繁華街で。

私の写真は主に報道関係のTV番組や雑誌社が買う。

近年の犯罪者は、一見善良な市民に見える事が多く、中には見ているこちらが幸せな気持ちになるような仏顔の犯罪者も存在する。

マス・コミュニケーション業界は、ヒーローはヒーローらしく、悪者は悪者らしく表現したがる。

分かりやすさが大切だそうだ。

ライバルは多く、容疑が確定する前の犯罪者の情報を掴むと、金にものを言わせて取材をする。

最近ではメイクアップ・アーティストと組んで、如何にも極悪人風に写真を仕上げる者までいる。

かくいう私も、今夜、犯罪者と会う予定だ。

その女は近々、保険金殺人の容疑で立件されるという。

信頼の置ける情報屋から仕入れたネタである。

私は眼鏡に仕込んだ高解像度の隠しカメラのチェックをする。

露出、オート・フォーカス、シャッター・スピードなど問題ないようだ。

あとは被写体の自然かつ残忍な表情を引き出せるかどうか。

 

私は待ち合わせ場所である西口の喫茶店で女と会った。

繁盛しているようで、店内は満席に近い。

女はすぐに見つかった。

凡人とは一線を画していたから。

私は息を呑む。

女は近年稀に見ぬ、極悪非道人の王道のような顔面をしている。

そう、生粋の悪人顔なのである。

これでは誰が撮っても、完璧な犯罪者に写るだろう。

商売あがったりである。

王道極悪人顔に何かしらのエッセンスをプラスして、他のカメラマンの写真との違いを出さなければ、どこも買い取ってはくれないだろう。

私は、一か八かの賭けに出る。

今夜のお楽しみに取っておいた「愉快」の感情ガスの栓を女に気付かれぬよう開ける。

それから私は、幼少の頃より鍛えに鍛えあげた、握りっ屁のモーションで、さりげなく、それでいて確実に、女に余すことなくガスを吸わせる。

女の表情が変わった。

極悪人の顔面が愉しさで歪む。

これはいい。

私はすかさずシャッターを切る。

さらに欲を出した私は、「恍惚」も、幼少の頃より鍛えに鍛えあげた、握りっ屁のモーションで、さりげなく、それでいて力強く、そして堅実に、女に余すことなく吸わせる。

女は、極悪をベースとしつつ、恍惚感に溺れる、えもいわれぬ暗黒の微笑みを浮かべる。

これは、いい。

これは、いいよ。

いいよー、ああああぁぁ、いい!、アァァァォォォフゥ、いいよ、いいよぉー!

私は、思わず声を出しながら、無心にシャッターを切り倒した。

 

飲食店内で容疑者の極悪顔面女に奇声をあげながら顔を近づけ、自らの眼鏡を激しく叩く男の動画が話題となるまで、たいして時間はかからなかった。

今になって思うと、私の ”握り” から漏れ出た微量の「愉快」と「恍惚」を、私も吸い込んでいたのかもしれない。

帰宅した私は、自宅のソファで、飲食店内で容疑者の極悪顔面女に奇声をあげながら顔を近づけ、自らの眼鏡を激しく叩く男の動画を見ている。

動画再生数は既に16万回を超えている。

私は一通り動画を見終えると、「平穏」の栓を開け、深々と吸い込んだ。

 

 

 

今日のニュース

北海道民アメリカ人に関係性あり?石器が示唆する「最初のアメリカ人」は日本からやってきた可能性(アメリカ)

元気で勇ましいヒロイック音楽が、思考力に刺激や活力を与えるという研究結果(ノルウェー

ウルカはデュビアを6匹

自在な俺

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こんにちはウルカ。

 

街鳥が雲に埋まるように飛んでいる。

自動車や室外機から吐き出される排気体が、膝の高さでわだかまっている。

商店街のくじ引きで一等が当たった。

景品は石っころ1つ。

宝石の原石だそうで、時価5億円だと八百屋のおっちゃんが言った。

俺はポケットに石っころを放りこむと、脇に停めてあったオートバイに跨る。

キック3回目で単気筒の500CCエンジンが目を覚ました。

大通りに出たところでアクセルを全開にする。

つけられている。

ミラー越しに、2人乗りのカワサキがぴったりと俺のヤマハに張り付いている。

十中八九、狙いは俺のポケットの中身だろう。

カワサキは猛スピードで俺のヤマハに並ぶ。

運転者は黒いフルフェイス・ヘルメットを被っており、顔が見えない。

反対にタンデム・シートに座っている奴はヘルメットを被っておらず、銀髪を靡かせて青いカラー・コンタクト・レンズごしに俺を睨んでいる。

手にはロンギヌ・スの槍のレプリカをもっている。

あれで突かれたらひとたまりもないだろう。

俺は背中にじんわりと汗をかく。

銀髪野郎は舌を出してロンギヌ・スの槍のレプリカを俺にむける。

万事休す。

俺は恋人への別れと感謝の言葉を呟く。

刹那、信号が赤に変わる。

時がとまった。

カワサキの2人組はビデオの静止ボタンを押したかのようにかたまっている。

文明が時を自在にコントロール出来るようになってから、既に30年ほどか経つ。

赤信号側の通りは完全に時が止まる仕組みとなっている。

これにより暴走行為や交通事故は激減した。

軽・自動車のオフィス・レイディが、口を大きく開けたまま固まっている。

あくびの途中だったのだろう。

俺は、時間停止システムに影響される事なく自在に動く事ができる。

何故なら、俺は架空の存在許可証を持っているから。

架空の存在許可証を持っていれば時間に影響される事はない。

何しろ、架空の存在だからな。

信号が緑に変わるまであと1分20秒。

俺はゆっくりとヤマハから降り、カワサキに向かう。

舌を出した銀髪野郎にデコピンをかますと、ロンギヌ・スの槍のレプリカを取り上げる。

運転者の黒いフルフェイス・ヘルメットを脱がす。

運転者は八百屋のおっちゃんだった。

どうりで革のツナギがパンパンなわけだ。

少しはダイエットしろよな。

俺はポケットから石っころを取り出すと、八百屋のおっちゃんの口に放り込んだ。

やれやれだぜ。

俺はヤマハに跨る。

信号が緑になる。

ホイール・スピンをかましながら、単気筒の500CCエンジンが咆哮する。

 

 

今日のニュース

実験室で培養した「ミニ脳」から脳波が検出される(アメリカ)

皮膚を剥ぎ取り晒し首にしてゴミ箱へ。頭蓋骨から判明したインカ帝国の恐怖政治(チリ)
 人の心を読み取るスマート・ヘルメットは既にレーサーに使用されている(アメリカ)
ウルカはデュビアを8匹(ジャパン)

明るい奴隷

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こんにちはウルカ。

 

鐘と鈴のちょうど中間のくらいの音が、機械的ではない等間隔で鳴っている。

作業の終了を告げているのだ。

僕は奴隷。

今日も奴隷仲間達と笑い合い、大きな岩を沢山運んだ。

足首には人間の頭蓋ほどの大きさの鉄球が鎖で繋がれており、走ることはできない。

牢獄のような鉄格子のある奴隷棟へと向かう。

監視役の男がヘッドホンでヒップ・ホップ・ミュージックを聴きながらフーセンガムをふくらませている。

僕はノリノリの監視役の男とハイタッチをかわすと、叩きつけるような放水で乱暴に身体を洗われるため、洗体場に入る。

仲間達とキャッキャッと騒ぎながら高圧で水を浴びせられる。

昼間にムチで打たれた僕の背中の傷をみて、奴隷仲間達がウケるウケると大笑いしたので、僕も嬉しくなって笑った。

放水で汗や血や泥や埃をさっぱりと吹きどばされると、次は食堂へ向かう。

先客の番犬達がガツガツと犬歯を鳴らせている。

犬達の器の中身をチェック・イット・アウトする。

今日のメニューはトマトソースのごちゃ混ぜ残飯か!

アガる〜!

僕は奴隷仲間、番犬達と並んで器に顔を突っ込む。

洗体後に両腕を後ろで縛られているから手を使って食べる事はない。

この方が野生的で食欲が湧いてくるし、料理の旨味がダイレクトに伝わってくる。

まだ試したことのない人は是非体験してみると良い。

ヨーロッパから来た奴隷仲間の話では、食の都フランスのパリ・ジェンヌ達の間でも、両腕を後ろで縛り、皿に顔を突っ込んで食べるスタイルが流行しているようだ。

ひとしきり食事を堪能すると、寝台広間へ移動する。

寝台広間には、機械的ではない等間隔で沢山の寝台が並べられている。

僕と奴隷仲間たちは機械的ではない等間隔で眠る。

大勢で時間と場所を共有しながら眠るというのは、心が踊るものだ。

皆でボロ毛布で拵えた枕を投げ合っては盛り上がる。

フランス・ベッドと雑にマジック・ペンで書かれた寝台に手錠で片腕をつながれているので、自由に枕を投げることができない。

これがまたゲーム性があって良いのだ。

ひとしきり枕投げでワアワアと盛り上がると、誰からともなく寝台に横になり、とりとめのない冗談を交わしながら眠りに落ちる。

僕は隣の寝台で眠る奴隷の寝顔を見ている。

眠りながらニタニタと笑っている。

きっと素っ頓狂に面白い夢を見ているのだろう。

明日の朝、どんな夢を見たのか聞いてみよう。

楽しみだな。

僕は寝台の上でギュウっと伸びをすると、大きく息を吐いて、ぐっすりと眠った。

 

 

今日のニュース

96歳の最高齢ダイバー、42.4m潜り記録更新 英国出身の退役軍人

ローマ法王、エレベーターに25分閉じ込められる 祈りの時間に遅刻

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ウルカは休食