アット・ザ・ドライヴイン
おはようウルカ。
カルカッタの安宿でベッドに座っている。
南京虫がうろつくマットレスは、中綿が死にかけていて湿気を吸う体力も残っていない。
明るい青色に塗られた鉄格子型の窓は、歪な長方形をしている。
魔都と呼ばれるこの都市は、巨大なドブ川に逆さ向きで浸かっているような、幾らもがいても出口のない、暗い、闇が、いく層にも重なって、無尽蔵に堕ち続ける、屍骸や汚物を足場にして人間がのたうって、欲や、灰や、情や、廻をひろう。
沢山拾い集めた其々は、結局どれもヘドロとなって、身体に纏わりつくから、身動きが余計に苦しくなる。
息を止めれば悪臭や汚染を吸いこまずにすむけれど、結局呼吸しなければ息の根が止まってしまう。
以前は鮮やかな彩りだったボロ布に身を包んだ女の乞食が、自らの赤ん坊の手足を切断し、見せ物乞いの材料にしている。
旅行者たちは、屑篭にゴミを捨てるのと全く同じモーションで、乞食たちの掲げる器へ小銭を投げ入れる。
器の底で跳ねた小銭が、コンクリートの地面に転がって、転生を夢見る少女の足元付近で動きを止めた。
外国製のコインはブラス色にくすんでいて、とても軽くて、ちっとも価値なんて無さそうだ。
それでも少女は大切そうに外国製のコインを拾い上げると、胸にあてた。
神がどの地区にいるのかはわからないが、少なくともこのストリートにはいないようだ。
神の加護を受ける順番待ちの列に自分が並んでいる事を信じて疑わない人々は、今日も街路に設置されている井戸で焦げた色の水を汲む。
そこまで読むと、社会の教科書から顔をあげる。
チャイムの音が下校時刻を告げている。
教室の窓は西陽で橙色に濡れているように見える。
少年は遠い、西の方角を眺める。
美しい夕陽の光と熱で、その下にある夥しいヘドロを溶かしてしまえば良いのに。
そこまで読むと、タブレット端末から顔をあげる。
男は高速道路のパーキングエリアでキツネうどんの半券をテーブルにおいて、ぼんやりと誰かの書いたブログを読んでいる。
食堂の窓の外では、排気ガスとアスファルトの粉塵が空中で混ざり合って、黒いダイヤモンドダストをおこしている。
そこまで書くと、スマートフォンから顔をあげる。
俺は電車の中で、スーツ姿で素足にビーチサンダルという、アバンギャルドな装いを現実のものとしているサラリーマンをぼんやりと眺めながら、これを書いている。
夏の灼熱が、今にも車窓をぶち割りそうだ。
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