世が開ける
こんばんはウルカ。
夜が明ける。
雄大な山々が脈々とつらなっている。
険しい山頂付近は、雪と氷でラムネ色に凍てついている。
ヒラヤマ山脈。
僕が立っているこの山も標高5000メートル級である。
カトマンジゥの町より入山して7日目、なんとか良い位置にこぎつけた。
前から数えて128番手か。
僕は列に並んでいる。
僕の前に、後ろに、勇敢な者々が、脈々とつらなっている。
勇者、魔法使い、商人、遊び人、おでん屋の親父、賢者、魔人、ダンピール、学生、狩人、ニート、キャバ嬢、歌手、サラリーマン、YouTuber、芸者、レスラーなど。
本日発売のブレインステーションの人気タイトル、ドラゴン・コマンドー16・初回限定パッケージを購入する為に世界中から集った、つらなりし者達である。
初回限定パッケージには、人気キャラのリリーがプリントされたマグカップが付属する。
正直、そんなマグカップなど、どうでも良い。
もっと言えば、ドラゴン・コマンドー16・初回限定パッケージは、ネットで先着注文順に誰でも簡単に購入する事が出来る。
なんなら、僕はブレインステーションを持っていない。
僕を含める此処に集ったつらなりし者達の本当の目的は、「並ぶこと」と言っても過言ではないだろう。
並ぶという、人類特有の行動。
過酷な状況下で、我先にという欲望を抑え、ときに助け、励まし合い、同じ目的に向かって挑み、目的を達成した暁には互いを讃え、涙し、肩を組み歌い、笑いあう。
何とジェントル&ハートフル(J&H)な行動なのだろう!
この実に人間の醍醐味的な行動は、インターネットの出現により、絶滅危惧行動となった。
今では、並ぶという行動といえば、駅やバス停、タクシー乗り場、人気ラーメン屋、開店前のパチンコ店くらいのものである。
その程度で、いにしえより並ぶ事に生きる意味を見出してきた筋金入りのつらなりし者達が満足できるわけもない。
何日も、何ヶ月も、時には何年もかけてつらなってこそ、得られる極上のサティスファクション。
並ぶ環境は、極寒だったり、極暑だったり、魔物やモヒカンのヒャッハーに襲われたりと、過酷であればあるほどに良い。
夜が明ける。
約束の時刻だ。
僕は最後の食料である板チョコレートの欠片を、すぐ後ろに並んでいる魔法使いにわける。
魔法使いはありがとうと礼をいうと、魔法を使って七面鳥の丸焼きを振舞ってくれた。
七面鳥は幻影だけれど、共に過ごしたこの時間は本物である。
カウントダウンが始まる。
5、4、3、2、1、0!!
世が開ける。
ドラゴン・コマンドー16・初回限定パッケージの発売が始まった。
順番はGPSで管理され、先頭から順にスマートフォンのアプリ上で購入ボタンを押す事が出来る。
僕の前に並ぶ忍者も、後ろに並ぶ魔法使いも、無事購入することが出来たようだ。
僕たちは凍傷まみれの顔で笑い合い、来月のサハラル砂漠で催されるナリキの新作スニーカーのつらなりイベントでの再会を約束する。
無意味を有意味にすることが、僕に対する僕の役目なのかもしれない。
昇ったばかりの陽が、ラムネ色の山々と、つらなりし者達を、脈々と照らした。
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