破片のような食事

f:id:maxm:20190827093427j:image

こんばんはウルカ。

 

ページをめくっている。

沢山の文字が印刷されたページは、全くと言っても良いほどの同じ大きさの紙が重なっていて、本というメディアを形成している。

一冊の文字データ量は5メガバイト程度。

人間が文字から情報を読み込むスピードは非常に遅く、5メガバイトの情報を読み込むのに数時間、途中のフリーズを計算に入れると数日を要する場合もある。

コンピュータが5メガバイトを読み込むスピードは0.01秒を要さない。

人工知能は、読み込みとほぼ同じスピードで内容を理解する。

読み込んだデータは半永久的に保管可能で、必要なときに読み出す事ができる。

人間のデータを読み込む能力は創生期のコンピュータにも劣り、記憶は極めて曖昧である。

といった内容が印刷されている本を反芻するように読んでいると、六目六(ろめろ)さんが隣でイビキをかきはじめた。

六目六さんは超・能力者で、数々の超・能力を有しているそうだ。

私と六目六さんは飛行機に乗っている。

行き先の島では、世界中の様々な能力チャンピオンを集めた大規模なアビリティ・トレード・フェスティバル(ATF)、要するに能力交換祭が開催される。

人間は、自分の欲しい能力ではないものに秀でているケースが非常に多い。

様々な能力のトップ同士が、特殊な装置を介し、自分の欲しかった能力を交換し合うという祭典である。

ニッポンを出発して既に23時間が経過しようとしている。

私は、霊長類大食大戦で40年ぶりに人類としてチャンピオンとなった事で、このATFのチケットを手にした。

勝戦で私に敗れた雌のオランウー・タンは大変悔しそうだった。

私はこの、たくさんの量を食べることができるという能力が好きではなかった。

霊長類最食となったことにも喜びを感じることはできなかった。

このATFで私は生まれ変わる。

お洒落なカフェで出される破片のような食事で満足し、小さなカップエス・プレッソを嗜みたい。

祭典にはどのような能力者が参加しているのだろう。

私はどのような能力が欲しいのだろう。

大食い以外であればなんでもいい。

私は新たな能力が欲しいというよりも、私の大食いという能力を捨ててしまいたいだけなのかもしれない。

 

島に到着すると、-大食い-と書かれたアビリティ・プレートを胸につけられた。

大きな村が丸ごと会場となっており、約1ヶ月間ここに滞在し、アビリティ・トレード・パートナー(ATP)を決める。

通りを歩いていると、飛行機で隣り合わせた六目六さんが、早速アビリティ・トレード・パートナーを見つけた様子で、3メートルはありそうな高身長の女性と親しげに歩いている。

六目六さんは私を見つけると、笑顔で会釈をしてくれた。

六目六さんのアビリティ・プレートには-喪屍-とあった。

隣の高身長の女性のアビリティ・プレートには-尻でくるみ割り-とあった。

私はATF最終日に、アビリティ・プレートに-読書-とある、異常に痩せた老人とATPとなることができた。

アビリティ・トレードに成功した私はニッポンに帰ると、早速たくさんの書籍を購入した。

お洒落なカフェで、破片のような食事と小さなカップエス・プレッソを嗜みながら、ページをめくっている。

相変わらず反芻するように読んでいる。

私が異常に痩せた老人と交換した能力、読書とは、人類で最も沢山の本を読んだというものだった。

記憶は極めて曖昧で、殆どの内容は覚えていない。

それでも私は異常に読書が好きになった自分を好きになった。

 

数ヶ月経ったある日、あの異常に痩せた老人からハガキが届いた。

家庭用プリンターで印刷されたであろうそのハガキの写真には、笑顔でサムズ・アップする随分と健康的な体型となったあの老人、かつてビル・ゲイツという名で世界に大きく影響したとされる人物が写っている。

 

 

 

今日のニュース

マンデラ効果とは。不特定多数が「偽の記憶」を真実だと思い込んでしまう集団的な誤解

ウルカはデュビアを7匹