おに
こんにちはウルカ。
力強いゴシック体で、毒と書かれたプレートをつけたトラックが、毒を運んでいる。
運転手は青鬼で、金棒を助手席に立てかけている。
本業はラッパーなのだろう。
Bボーイ・ファッションに身を包み、カーステレオから流れるビートにあわせた呪術師のような手の動き、言葉を連呼するような口の動きは、間違いない。
斜めにかぶったキャップからは、禍々しいツノがはみ出ている。
濃いめに作った水彩絵の具のような青色の肌に、ゴールドのアクセサリーがよく映えている。
生命力に溢れる若者を見るとこちらまで元気になるね。
信号が緑に変わる。
俺は頑張れよと心でつぶやきながら、青鬼トラックとは反対方向へハンドルを切る。
毒・生産工場から、全国の毒・卸業者の倉庫へトラックで毒を運ぶ。
生活はギリギリで、這いつくばるように生きている。
鬼嫁の連れ子は2歳と6歳、これからどんどんと金がかかるだろう。
家族を愛している。
夢もある。
MC青鬼 a.k.a ポイズン・オーガという名で活動する、リリカルでグラフィカルでマッシヴなラッパー。
地元(地獄)を愛し、生まれ故郷(地獄)から遠く離れたここTOKYO(地獄)で、精力的に活動している。
情に厚い鬼柄は、業界関係者やオーディエンスからの支持を集め、常に熱いステージとパンチラインが、世代、冥界を超えて話題となりはじめている。
ラップの鍛錬はトラック車内で大音量でできる。
運転中に浮かぶリリックを休憩中にスマートフォンのメモアプリに書き溜める。
いつか、メジャーになって、家族だけてはなく、仲間や、世界中のリスナーを幸せにしたい。
今日はこれから群馬の山奥まで毒を運んで、とんぼ返りしなければならない。
この毒運びを始めて4年になる。
それにしても、この毒は何に使うのだろう...
渋谷の交差点をブレイク・ビーツのグルーヴに合わせて右折する。
毒を満タンに積んだタンクが荷台でユサユサと揺れる。
緩慢な動きの青鬼トラックは、信号を無視して猛スピードで突進してくる赤いスポーツカーを避けることはできなかった。
青鬼トラックを貫通した赤いスポーツカーは、何事もなかったように進行方向へ消えていった。
スポーツカー形の穴をあけられ、真っ二つに折れて横転した青鬼トラックが、渋谷交差点に毒を撒き散らす。
交差点を行き交う赤、黒、黄、緑、青、紫、茶、灰、白、橙。
親鬼、子鬼、老鬼、キャバ鬼、サラリー鬼、オタ鬼、ちょいワル鬼、学鬼など、色とりどりの様々な鬼が、毒にやられてバッタバッタと倒れる。
毒は鬼以外の者には作用しないようで、人間やボルゾイやシロクマやジェントルキツネザルが、平気な顔でスクランブル交差点を渡っている。
皇帝ペンギンが、鞄からスマートフォンを取り出して、横転したトラックを撮影している。
MC青鬼 a.k.a ポイズン・オーガは、薄れる意識の中、家族への愛と感謝をテーマに韻を踏む。
衝突する瞬間、赤いスポーツカーを運転するホスト風の桃太郎が、ウィンドウごしにニタニタと笑うのが見えた。
遠くで鬼救車のサイレンの音が聞こえた。
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