カラフルで最新

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こんにちはウルカ。

 

田舎の町へ向かう赤い列車に乗っている。

車窓から秋の陽が差し込むと、ゆるい冷房が効いた車内とバランスが良い。

乗客は疎らで、ひと席空けた隣に老人が座っている。

「随分涼しくなったよ」

独り言のような老人の言葉に、俺はこたえた。

「涼しくなりましたね、もう秋です」

「ああ、一番新しい秋がきたよ」

「はい、去年の秋が、古くなってしまいました」

「ああ、一番新しいワシが今よ」

「はい、去年のあなたが、古くなってしまいました」

車窓から見える風景は、建物の背が低くなり、木々の割合がふえる。

喧々とした踏切の音が近づいて、騒がしさのピークをむかえたあと、音を歪ませながら遠のいた。

ひと席空けた隣の老人が、居眠りをはじめる。

 

 

 

 

僕は子供の頃、小石を集めていた。

小石を集めて10年が経ったころ、僕が集めた綺麗な小石で、父さんが庭に砂利の小道を作ってくれた。

それはとてもとてもピカピカと綺麗な小道で、僕は嬉しくて何度も小道を往復した。

雨が降ると、何処からともなくアマガエルがやって来て、明るいグリーンの体で小道をぴょんぴょんとジャンプした。

僕は大人になって、空き缶を集めることを始めた。

街には沢山の空き缶が落ちている。

拾い集めた空き缶を、頑丈なビニール袋に入れて、自転車で運ぶ。

僕は今、踏切で列車が行ってしまうのをじっと待っている。

踏切への侵入を防ぐバーが、僕の行く手を塞いでいる。

足元の線路に敷かれた荒い砂利は、どれも同じような赤茶色をしていて、あまり綺麗ではない。

季節外れの入道雲が、下半空を占領している。

 

 

 

 

自転車に空き缶を大量に積んだ老人が、踏切を渡りきれずに、線路内で立ち往生している。

喧々と警報が鳴り、踏切への侵入を防ぐバーが、老人の逃げ道を塞いでいる。

800メートルほど先には、赤をメインに配色した列車が、太陽の光を受けてキラキラと迫り来るのが見える。

元々は白色であったであろう老人のチャコールグレーのシャツの背が、びっしょりと汗て濡れている。

老人は、何かを静かに待っているかのように、微動だにしない。

シャツから覗く浅黒い肌は、油の切れたタイヤのようだ。

誰も、助けようとしない。

皆が線路内でじっとしている老人をじっと見ている。

それからしばらくして、赤い列車はスピードを少しも緩めることなく、老人を撥ね飛ばした。

跳ね飛ばされた老人は、自転車と空き缶と一緒に空中で粉々になった。

カラフルな粉末になった老人と自転車と空き缶は、青空に咲いた花火のように放射状にひろがった後、ゆっくりと地面を目指して降りる途中、秋の風に吹かれて空中に紛れた。

 

 

 

列車が駅に停車し、ドアが開く音がする。

俺も眠ってしまったようだ。

ひと席空けた隣の老人は、いつの間にかいなくなっていた。

老人が座っていた席の周りには、カラフルな粉末が散らばっていた。

今までで一番新しい俺は、席を立つ。

外に出ると、最新の秋が、最新の俺をむかえた。

 

 

 

 

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