だらしない施術

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こんばんはウルカ。

 

雨上がりの街は靄で白くふやけていて、銭湯の脱衣所のようだ。

のぼせたビルの窓から洩れる灯は、普段よりも少しだけ赤い。 

僕は速足で歩いている。

走ったり、自転車に乗れば、もっと速く移動することができる。

自動車や、飛行機に乗れば、もっと速く移動することができる。

でも、僕は速足で歩くことを選択した。

上をみたらきりがないからね。

クッションの良い自慢のスニーカーが、光沢色のアスファルトを蹶る。

僕は靄で白くふやけた街を歩きながら服を脱ぎ、全裸になる。

服といっても、もちろん比喩である。

心に着ている服を一枚ずつ脱いで、裸の心になるということである。

そもそも、はなから身体には一枚も服など着ていない。

身につけているものといえば、自慢の白いスニーカーと、紫色の靴下だけである。

心に服を着て、身体にまで服を着たんじゃあ、着膨れしてしまうし、暑苦しいじゃないか。

本当は白いスニーカーも紫色の靴下も身につけなければ、もっと身軽なのだろうけれど。

まあ、上をみたらきりがないからね。

 

赤いワンピースに赤いヒールを履いた相当スタイルの良い女性とすれちがう。

女性は微笑みながら僕にこう声をかける。

「ふふふ、今日は暑いからねぇ。まぁ〜、あんよがじょうずでちゅね〜、あら?ママは?ぼく、ひとりなの?」

僕はこう答える。

「母は、実家のある山形県で小さな畑をやって元気に暮らしています。僕はいま一人ですが、あなたのように独りぼっちではありません。」

女性は驚きと嫌悪の入り混じった表情をすると、カツカツとアスファルトを鳴らせて行ってしまった。

僕はニヤニヤと相当スタイルの良い女性をみおくった。

近年では、醜いものや不快なものが、美しいものや心地の良いものに変換されて見える、通称ハッピー・アイの施術を受けるものが増え、ハッピー・アイを持つ者は人口の70%を超えたとの報告もある。

だらしない身体をした中年の男が全裸で歩いていたとしても、笑顔で挨拶されるくらいのものである。

変態といわれる人種にとっては随分と暮らしやすく、そして物足りない世界となったものだ。

これに加えて、来年にはネガティヴな言葉がポジティヴな言葉に変換されて聴こえる、ハッピー・イアーの施術が解禁となるそうだ。

世界は、どうなってしまうのだろう。

 

雨上がりの街は靄で白くふやけていて、銭湯の脱衣所のようだ。

のぼせたビルの窓から洩れる灯は、普段よりも少しだけ赤い。

僕は、速足をさらに速める。

クッションの良い自慢のスニーカーが、光沢色のアスファルトを蹶る。

まあ、上をみたらきりがないからね。

 

 

 

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