乱暴なハッピー
こんにちはウルカ。
車椅子の男は、道路を横断している。
歩行者横断用の白いラインはない。
自分は歩行者ではない。
ほら、車輪がくっついているだろう。
と、よく言っている。
クソ暑いのに、オリーブグリーンのコートを着ている。
顔の変な位置にピアスと、首に的外れなタトゥーがある。
俺はこの男をヨシと呼んでいる。
幼馴染みほど古くはないが、サークル仲間というほど浅くもない。
まあ、俺はサークルというものを経験したことがないのだけど。
さておき、ヨシはとにかくよく事故に遭う。
なかでも交通事故の常連で、きっと交通事故年間パスポートでも持っているのだろう。
下半身が動かなくなったのも、交通事故が原因だ。
事故の直後、ヨシは血だらけの体を引きずって最寄りの牛丼屋を訪れると、特盛牛丼を注文してから、ぶっ倒れたらしい。
その奇行は、牛丼屋のバイト連中の間で後世まで語り継がれることだろう。
車椅子のヨシが自動車に撥ねられたという内容のメールを受け取ったのは、昼過ぎだった。
またかよ。
で、生きてんの?
ああ、元気らしいよ。
事故って元気ってなんだよ...
後日病室のベッドで笑うヨシの写真が送られてきた。
頭は包帯でぐるぐる巻き。
なんでも頭を骨折したらしい。
ヨシは年々元気になっていく。
身体は壊れてボロボロで、修復不能なパーツもたくさんあるのに、精神はピカピカで、鍛え上げられた鋼鉄のようだ。
乱暴に車椅子を操って、病院の廊下をクルクルと楽しそうにしている。
医者も看護婦も他の患者も見舞いに来た家族や友人も、みんな笑顔だ。
ヨシは世間にとって迷惑な奴かもしれないが、周りにいるものを笑顔にする。
己の肉体をぶっ壊しながら、無償でハッピーをばらまく。
もしかしたらハッピーが外に出ようとして、ヨシの身体をぶっ壊しているのかもしれないな。
この生き物は一体、何なのだろう。
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