走るか

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おはようウルカ。

 

いつもと違う道を歩いている。

人工的に作られた細い川でカメが陽の光をもとめて首をのばしている。

商店のシャッターが半開きで錆びている。

廃業したビジネス旅館の隣では理髪店のサインポールがカタカタとまわっている。

時間は進むのではなく、減るという数え方だとしたら、今は西暦マイナス2019年。

あれ、これではマイナスが冒頭にプラスされただけで結局数字は増えているな。

そういえば、少し前に自分の寿命を設定すると残り時間を秒単位でカウントしはじめるアプリがあった。

そうかカウントダウンするには終わり、すなわち始まりを設定しなければならないのか。

世界の時間をカウントダウンするには世界の終わり、すなわち始まりを設定しなければならない。

諸説あるが地球の寿命はあと28億年だそうだ。

なげえな。

何秒だよ。

 

下着姿の爺さんがゴミをだしている。

誰かのベランダで洗濯物が揺れている。

電車の発車時刻まであと6分。

カウントダウンが始まった。

走るか。

 

今日のニュース

「憑依され殺されそうになった」300年前の海賊の幽霊と結婚後スピード離婚した女性がその真相をついに告白

ウルカはデュビアを12匹

殺し屋

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おはようウルカ。

 

キーを左に回す。

エンジンは、本当にあっけなく静かになった。

チリチリと熱の余韻が鳴っている。

俺はヘルメットとグローブをオートバイのハンドルにひっかけると、店のドアをあける。

店内は明るく清潔な印象だったが、わずかに古い水の匂いがした。

爬虫類を扱うこの店は、海水魚エキゾチックアニマルと呼ばれる小動物など、様々な生きものがひしめきあう。

爬虫類の棚があつまる一角へ向かう。

ヘビ、カメ、ヤモリ、カメレオン、カエル、トカゲ、ワニなど、主に熱帯の生物のケージが所狭しと積まれている。

ミズオオトカゲのベビーのケージの前で、小柄な女がカワイイ!カワイイ!購入したいと店員と話をしている。

成長すると2メートルを超える猛獣となる事を知っているのだろうか。

それが19800円で売られている。

ペットとしては気軽に買える値段かもしれないが、気軽に飼える生きものではない。

部屋に巨大なプールも必要となるだろう。

ニヤニヤと接客している店員を横目に、ろくなもんじゃねぇなとウルカの餌になるデュビアMサイズを200匹買った。

バッグにデュビアの入った袋を放り込むと、バイクに跨る。

キーを右に回し、キックペダルを勢いよく蹴る。

眠っていたエンジンがドロドロと息を吹き返した。

 

デュビアとは南米地方のゴキブリで、成虫でなければ日本のゴキブリほどグロテスクではない。

フルーツローチなどとペットとしてゴキブリを可愛がっている人間もいるようだ。

そうは言っても大量のゴキブリを背中に背負うのはあまり気持ちの良いものではない。

 

ゴキブリといえば、10代の頃に害虫駆除のバイトをしていた事があった。

宇宙服のような格好で背中にタンクを背負い、飲食店内に殺虫剤をぶちまける。

すると、この小綺麗でお洒落な店内のどこに隠れていたのかと思うほどの大量のゴキブリどもが躍り出てくる。

数百、数千の。

洒落た飲食店に無数のグロテスクは、芸術作品として成立しそうな迫力がある。

綺麗なモデルたちを座らせて写真でも撮れば良かったな。

それはそうと、その害虫駆除の会社はネズミや鳩などの駆除もおこなっていた。

工場に鳩が棲みつくと、糞や抜けた羽などで深刻な被害がでる。

そこで我々、殺し屋の登場となるわけだが、この鳩の駆除方法が独特だった。

鳩がとまりそうな場所に歯磨き粉のような白い薬剤を塗っていく。

そこに鳩がとまると、足の裏についた薬剤が体内に浸みこみ、死ぬ。

触っただけで死ぬ毒って…

あれ、合法だったのかな。

絶対に触るなといわれながら、俺も連れのおっさんも素手で作業させられていたぞ…

 

人間は鳩を平和の象徴としたり、ペットとして可愛がったり、食料にしたり、手紙を運ばせたり、害鳥として駆除したり、もう、めちゃくちゃだよな。

鳩もたまったもんじゃないだろうよ。

そして殺し屋の俺は地獄に堕ちるだろう。

ろくなもんじゃねえな。

まいったな。

 

 

今日のニュース

映画『ファイト・クラブ』のレポートを「1行」で提出した大学生、100点満点を獲得

ウルカはデュビアを11匹

五平餅みたいな日

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おはようウルカ。

 

窓を開ける。

カーテンが膨らみ、呼吸をはじめる。

さりげない風と、薄いカーテンに漉された日差しは、澱んだ部屋を洗ってくれる。

ウルカ、良い季節になったよ。

お前の国では四季を感じられないかもしれないし、お前には不要なものかもしれないが、俺はこの国の折々な四季が好きでね。

熱帯に暮らす生物にとって冬は死に直結する。

これからはじまるのは、生命維持装置なしで外へ出られるお前の季節だ。

さあ、一緒に日光浴をしようぜ。

チロチロとヤコブソン器官を使って俺を確認すると、一気に腕に駆け上がる。

爪が痛えよ。

おい、首を舐めるな擽ってえな。

窓辺に座ると、お前は俺の腕に腹を密着させる。

少しでも太陽の光を集めようと腹を広げている。

お前の腹、五平餅みたいだな。

首を撫でると瞼を閉じる。

嫌なのか心地よいのかはわからんが、心地がよいから瞼を閉じたことにしておこう。

後ろでラジオが今日は暑くなると言っている。

ベランダの向こうの通りではカブが小気味良い音で過ぎる。

炭酸水を飲む。

良い日だな、ウルカ。

蝉が鳴く頃になったら、アイスでもかじりながら近所を散歩しようぜ。

 

 

今日のニュース

【ペルーからNYへ】約束を果たすため、自作した木製フォルクスワーゲンで娘に会いに行く

ウルカはデュビアを8匹

 

今週のお題「家で飲む」

ブルーハーブ以降

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おはようウルカ。

 

 

ようboss、あの頃、北から陽が昇ることになれていなかった俺たちは、あんた達の存在そのものに戸惑っていたんだ。

本当は、全部なんにもわかっちゃいなかった。

どっちが前なのか後ろなのかも。

振り返らず、ただ先頭をサイの角のように進んだあんた達は、長い冬をこじ開けてしまった。

つまり俺がここで言いたいのは、ブルーハーブ以降という全く新たな概念が、雑草のように深く根付いて青い花をさかせたんだよ。

時代は変わる。

本当の敵はロマノフではなくドアの奥。

水で薄めた品物は誰も受け取らない。

ガラス玉を気休めにこするアマチュアが口を挟む。

靴の底に入りこんだ小石ほどのやつが。

 

寂しさが棲みつくのは自分の中ではなく人と人の隙間らしいな。

もうポケットが足りないとありがとうが泣いた。

手ぶらでは眠らない。

雨にもまけず。

ブルー独特の体感温度

 

よう、火かしてくれ。

どうした、鍵でも失くしたか?

 

あんたはコンクリートリバーを路上にぶちまけた。

等身大の寒がりの性格を。

今を生きる限りの喜怒哀楽を。

日本語を理解できる生命を。

あんたは光、言葉は影。

どうりで奮い立つような暑さのはずだな。

いつだって追う者は追われる者にまさる。

時代は変わる。

アスファルトよりは脆く柔らかく、レイシストよりはあたたかく。

束の間に輝く。

ただ生きているだけか。

ただ生きていくだけか。

皮膚にかさなる最後の透明な膜。

ほら、だから言っただろう。

毎日は後ろから落ちてゆく橋だ。

生きている意味は生きている日々だって。

 

 

 

今日のニュース

毎日記憶がリセットされる少女。朝目覚めると事故を起こした日に戻ってしまう記憶障害

学校を卒業する学生全員に10本の植樹を義務化する新法が導入される

ウルカはまた休食

 

今週のお題「アイドルをつづる」

デンマークかドイツかブナシメジか

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おはようウルカ。

 

買ったんだよ、俺は。

ワイヤレスイヤホンを!

俺は移動中、大体イヤフォンで何かしらを聴いている。

寿司屋や居酒屋では動画を見ながら一杯やることもしばしばだ。

そこで必需品となるのがイアホンとなるわけだが、数年前から左右独立型でケーブルレスのものが主流になっているね。

俺もブームに乗っかってアップルのやつを使っていたんだよ。

あの耳にうどんを突っ込んでるみたいになるやつね。

耳につければ勝手にスマホとつながるし、外せば接続も切れる。

タップすれば再生、停止、スキップなど自由自在でめっちゃ気に入っていた。

でもね、無くしたよ、やっぱり。

右も左もいっぺんに。

気付いた時には右往左往としたけれど後の祭りだ。

後には白い潰れたカプセルみたいなケースがむなしく残った。

それからというもの、ワイヤレスだけど左右はケーブルで繋がっている、若干時代遅れ感のあるイアフォンを使ってきた。

まあ、それなりに便利だし、安いやつだし、気兼ねなく使えて良いかなと思っていた。

しかし、俺はこれで本当に良いのか。

服や髪、鼻毛すら気にしないおっさんのような思考になってはいないか。

ざわざわと湧いてくる精神の劣化への危機感は俺を家電ショップへ走らせた。

実際には早歩き程度だった。

迷ったのはジャブラというデンマークのメーカーと、ゼンハイザーというドイツのやつ。

うどんやぶなしめじには目もくれない。

デンマークの方が防水だし、再生可能時間が長いなどコストパフォーマンスが良さそうだ。

価格もドイツと比べると1万円ほど安い。

両方ともデモ機があったので試着してみると、ドイツの方が着け心地は良い。

音質はどちらも悪くない。

見た目は圧倒的にドイツ。

銀色のプレートの面積が広く、なんだかビックリマンシールのようだが、それがまた良い。

安くて防水で長く再生できるデンマークか。

高くて非防水でバッテリー寿命も短いけど着け心地と見た目の良いドイツか。

まあ、ドイツだよな。

そういうことになった。

こうして俺は謎の危機感を克服し、意気揚々と暮らしている。

 

 

ところでウルカ、どれが正しいんだ?

イヤ?イア?フォン?ホン?

 

 

今日のニュース

ファン制作実写「風の谷のナウシカ

レオナルド・ダ・ヴィンチADHDだった

ロシアの科学者が金星に生命がいる可能性を示唆

ウルカは休食

そりゃそうだよな、じいちゃん

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おはようウルカ。

 

人に出会ったら挨拶をする。

俺はじいちゃんにそう教わった。

俺の育った小さな田舎町は人も疎らで、出会う人間ぜんぶと笑顔で挨拶を交わしても、ドブ川のザリガニを追っかける余裕があった。

少し賑やかな街で暮らし始めると、人が多すぎて知り合いだけに挨拶を限定するようになった。

そして凄く賑やかな街に暮らし始める頃には、隣近所にすら挨拶をしなくなった。

 

挨拶って何だろうな。

挨拶を全くしなくても生活は出来るだろうし、実際にそうやって生きている人もいるのだろう。

笑顔で挨拶を交わすと、一瞬だけ小さな火がともるような、そんな気がする。

それを続けると、どんどん火がともって体が温かくなるような、なんだか、とても、そんなような。

 

小さい頃、俺は寒がりで、すぐに風邪をひいて、病弱だった。

じいちゃんは心配で、少しでも体を温めようと俺に挨拶を教えてくれたのかもしれないな。

 

なあ、じいちゃん、俺は随分丈夫になったよ。

多少の寒さなんか全然平気だ。

良いダウンジャケットだって持っているし、強さひきだす乳酸菌も飲んでいる。

それでも、やっぱり挨拶は良いもんだな。

そりゃそうだよな。

 

 

今日のニュース

ブラジルで相次ぐ刑務所内の殺人事件 27日も40人以上死亡

鼻をつく強い臭いの謎の泡 ゴルフ場入口埋め尽くす

“人間の遺体を堆肥に”米州で初の合法化

ウルカはササミを12切れ

 

今週のお題「アイドルをつづる」

スクープ

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こんにちはウルカ。

 

駅の南改札口を出て少し行くと、日雇い労働者たちが集まる通りがある。

朝6時30分。

次々とワンボックスバンがやってきては、労働者たちを物色する。

お兄ちゃん、日当ニーゴー、飯付きでどうだい?

若い者、体格の良い者が優先的にピックアップされる。

この通りに立ち始めて1ヶ月ほど経つが、同じ業者に会ったことがない。

一体どれだけ沢山の業者がいるのだろうか。

 

そうこうしているうちに自分にも声がかかった。

お兄さん、日当ニーゴー、飯付きでどうだい?

黒いサングラスに虹色のネックレスをした男は、値踏みするように僕をみる。

はい、よろしくお願いします。

車に乗り込むと、先客が2人。

2人ともなかなか良い体格をしている。

うち1人は女性のようだった。

僕は身長が175センチ、体重194キロ。

他の2人も似たような体型をしている。

ワンボックスバンは積載量の限界が近いのか、エンジンが苦しそうだ。

3時間ほどの道中、目隠しをされている事もあり、車内では誰も言葉を発しなかった。

 

その施設は渓谷に隠れるように建っていた。

初めて訪れる場所だ。

建物全てが高彩度の紫色で統一されていて、猛毒をもつ生物のようだ。

受付で誓約書にサインをすると、体育館のような広いスペースに案内される。

異様なのは、天井や床に至るまで全て鏡張りで、正面には低いステージのようなものがある。

スペース内には50人ほどが集められていた。

全員、極端に太っている。

そこに電子音で作られたチェゲ・アンド・ザ・アスカのYAH YAH YAHが流れ始めた。

歌声も全て電子音だが、八百屋のおじさんのような、親しみのある声質だ。

はじまるな。

キョロキョロと不安げにあたりを見回している者を尻目に、何度かこの労働の経験がある僕はこの後の展開を静かに待った。

い〜まからいっしょに、これからいっしょに殴りに行こうか〜

サビと同時に、レオタード姿の男が拳を突き上げるような格好でステージに登場した。

黄緑と紫のレオタード、引き締まった肉体をしており、尋常ではない日焼けと笑顔には猟奇的な恐ろしさを感じる。

は〜い!みなさん!僕と同じ動きをしてぇ〜!絶対に間違えてはいけませんよぉ〜!

右腕を前に突き出し、執拗に舌で自分の鼻を舐めようとしながら、左手を頭上にもっていき、グーとパーを繰り返す。

そのまま突き出している右手の人差し指を立ててノンノンノンと左右に振る。

人差し指を振る速度をだんだんと上げていき、最後には痙攣しているかのようなスピードにする。

執拗に舌で自分の鼻を舐めようとしながら、左手を頭上でグー、パーと繰り返し、右手の人差し指を痙攣しているかのようなスピードでノンノンノンと左右に振る。

チェゲ・アンド・ザ・アスカのYAH YAH YAHのリズムやテンポを完全に無視した動きは非常に挑戦的であり、逆に深い意味合いがあるのではないかと思わずにはいられない。

その状態を70秒ほど続けただろうか。

肉体から汗が滝のように落ちる。

鏡張りの部屋で50人を超える巨漢たちの動きがシンクロしていく。

い〜まからそいつを、これからそいつを殴りに行こうかぁ〜

 

そのあたりからの記憶が曖昧だ。

僕は腹を出して隣のデブと激しくぶつかり合っていたかとおもえば、また別のデブとは濃厚なハグをしながら至近距離で指相撲をしていた。

いくら記憶の断片を辿っても、どうも曖昧だ。

昼食の時間を挟み、午後からも同じプログラムを繰り返す。

そして気がつくと朦朧とした状態のまま駅のロータリーで解放される。

今回も、何のための労働だったのか、まるでわからなかった。

何かに貢献しているのだろうか。

 

 

数ヶ月前、SNSを中心に太った人間ばかりを高額な日当で雇う仕事があるという噂が広まった。

インターネット等での募集はなく、早朝の路上でピックアップされるという昔ながらの日雇いの形態らしい。

全国各地で情報はあるものの、ピックアップされる場所は流動的であり、仕事内容が全く不明で、何のための労働なのか目的がわからないという。

さらに政府や隣国の軍事、宇宙開発の関係者が出入りしているなどと様々な噂が飛び交っている。

 

僕が潜入調査を始めたのはひとつきほど前からだ。

今わかっている事は、ある限られた空間で、非常に太った人間を50人以上集め、独特な音楽と動作を共有させる。

集団催眠、または空気を介した薬物等の使用があるのかは不明だが、参加した全員の記憶が曖昧であること。

そして同時刻に南米地方で空から降る光の目撃情報が相次いでいるということ。

 

週刊グラッチェの記者である僕は、やっと任された仕事に燃えている。

バカにされ続けてきたこの体型のおかげで、重大なミッションを担うことになったのだ。

皆を見返すためにも、重量級の特ダネをゲットしてやるぞ。

今年で46歳、僕の青春ははじまったばかりだ。

 

 

 

今日のニュース

牛は死の間際までおじいさんを愛し続けた。長年共に過ごし、深い絆を結んだ牛と飼い主の愛情物語

ウィル・スミスが告白!『アラジン』の青いジーニーはすべてCGだった

焼き目まで再現した「笹かまギター」が誕生 性能にもこだわり

ウルカはデュビアを16匹

 

フリーズするとバドミントンに陥りやすい

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こんばんはウルカ。

 

遮光カーテンの端から金色がもれはじめる。

俺はブラックアウトしたモニターを見ている。

非光沢の画面に、ぼんやりと俺のシルエットがうつっている。

マシンは前ぶれもなく、絶望的にフリーズした。

再起動かよ。

セーブした覚えは無い。

気分が乗ってくるといつもセーブを忘れる。

自動バックアップはマシンのパフォーマンスをギリギリまで高めるため、オフだ。

ノリに乗っていた俺の2時間半は、遮光カーテンで覆われたビルの一室で儚くも消えた。

あれ、入稿まであと2時間しかないじゃないか。

こいつはヤベェぜ、暖気にブログを書いている場合ではない。

いや、ここは一旦気持ちを落ち着かせるためにも、全く無意味と思われる行動をしてみるのもアリかもしれない。

よし、隣に座っている同僚を誘って屋上でバドミントンをしようか。

いや、それでは万が一バドミントンの羽根を屋上から落としてしまったら下を歩いている人たちが危険だ。

いやいや、どうだろう?バドミントンの羽根はいくら高いところから落ちたとしても、大した殺傷能力はないのではないか?

これは気になるな、誰か実験している奴がいるかもしれない。

グーグルだなグーグル。

いやいや、殺傷能力がないからといって、屋上からバドミントンの羽根を落とすのはマナー違反だろう。

まてよ、そもそもこんなに陽が傾いていては、眩しくてバドミントンどころではない。

だいたい会社にバドミントンのラケットも羽根もないじゃないか。

落ち着け、俺。

 

隣では同僚がヘッドフォンで何かを聴きながらノリノリでモニターに向かっている。

ムカつく奴だ。

今すぐそのジャックをさしかえて、メルツバウを爆音で流してやろうか。

いや、ここはモンゴルホーミー大全集を爆音の方が攻撃力は上かもな。

牛だって集まってくるかもしれない。

 

俺はしぶしぶと時が止まったままのデータを開く。

あれ、おいおいオイ、セーブされているじゃないか!

俺の無意識のセーブは、時空を超えて現在の俺に微笑みかける。

ありがとう、あの時の無意識な俺よ。

お前がいたから今の俺がある。

隣の同僚よ、ムカついてごめんなさい。

きっとあのカーテンからこぼれる金色のように、素敵な曲を聴いているんだね。

こんどフリスビーでも一緒にやろうぜ。

 

 

今日のニュース

男性がクジラに飲み込まれかけたところから生還、南アフリカ

全身真っ白なパンダ、中国で見つかる

ウルカは休食

宝探しを磨く朝まで

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おはようウルカ。

 

おうおうおうおうおうおう、お兄さん、きたね、丁度ね、持ってきたからね、僕はね、約束を守る男なのよ、ね、ほらすごいでしょ、お兄さんびっくりするよ、新品だよこれ全部、40年前の新品だよ新品、箱付き!

 

俺は猛暑の中、古い空冷式のエンジンに鞭打って国道をひた走り、あの古時計屋にやってきた。

 

出迎えてくれた店主は相変わらずクソ暑い。

ほらほらほら、たくさんあるでしょ、これがパタパタ、こっちはドラム式、僕はね、明日から沖縄なの、時計屋をね、丸ごと買っちゃうからさ、あとね、骨董市にもでるのよ、セイコー、オメガ、ローレックス、全部持ってね、いくのよ沖縄、暑いよきっと、出張はね、本当にたのしみなの、僕はね、もう68だけどね、酒もタバコもやらないの、時計をね、朝まで磨いているのよ、わかる?ほら、これは宝探しだからさ、あれ、お兄さん、セルビッチジーンズなんて履いちゃってさ、洒落てるね、僕もね、やってたのよ古着屋、もうね11年前に閉めちゃったけどね、まだ倉庫にあるよ501とかさ、すごいやつ、ね、みてよこれ、最近の掘り出し物、セイコー植村モデルだよ、針とか蓄光とかオリジナルだよ、最近は嘘もので修理しちゃって駄目なのばっかりだからさ、ベゼルのね、新品もあるのよ、どこいったかわかんないんだけどね、ね、

 

俺は上の空でパタパタ時計を選ぶ。

コパル、トーキョートケイ、セイコーシチズン、どれもデッドストックだった。

素晴らしい。

迷いに迷ってセイコーを選ぶ。

おうおうおうおう、お兄さん、いいの選んだね、これはラスト一個だよ、もう倉庫にもなし!

電池式だけどちゃんとライトもつくからね、いいよいいよ、これは、いいよ、お兄さん、仕事は?映画俳優?

あはは、会社員ですよ。

おおおおん、なに関係なの?

広告というかデザイン関係っす。

おう、そうなの、いいねぇデザイン、デザインも歌もさあ、もう昔から同じだよね、代わり映えしないよ、おんなじ、もう出尽くしちゃってるよ、大変だよね、ね、この時計もさあ、良いものはずっと同じデザインだもん

そうなんですよ、結局焼き直しばかりなのかもしれませんね。

ハッハハ、そんなこと言わないでさ、すごいやつ、やってよ、すごいの、ほら、若いんだからさ、僕はね、もう68だからさ、酒もタバコもやらないの、ほら、時計が趣味だからさ、朝まで磨くんだよ、これはね、宝探しだからさ

 

 

今日のニュース

アメリカ国防総省、極秘計画でUFOの調査を行っていたことをついに認める

ワタリガラスは感情を共有する。ネガティブな感情が他のカラスに伝染していくことが判明

ウルカは休食

時計屋を丸ごと買う

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おはようウルカ。

 

夏のような日差しの中。

商店街にある古時計屋の店先には、ゴミと見紛うような朽ちかけの時計を修理している老人。

店内には所狭しと腕時計、掛時計、置き時計など、ありとあらゆる時計が並んでいる。

その殆どが年代物のようだ。

夥しい数の古時計が一斉に時を刻んでいるさまは、夥しい数の老人に囲まれて一斉に何かしらのメロディをハミングできかされているような、異様な圧迫感と不思議な心地よさがある。

 

店の奥には夏の日差しのように暑苦しい眼光の男。

店主だろうか。

俺はその暑苦しい目をなるべく見ないように話しかける。

すみません。

時計をさがしているのですが。

なんて言うんだろう、あの、パタパタするやつ、置き時計で、わかるかな。

あーあぁ、あるよ!

店主は何も無いスペースを指差す。

あ、ここに置いてあったんだけどね、売れたの、売れちゃったのよ。

そうですか、残念だなぁ。

探しているのだけど、なかなか良いのが見つからなくて…

もう何処にも売っていないのかな。

いやいやいや、ウチにはね、あるよ、あるのよ、倉庫に、箱入りで、とってあるの。

コンセント式のと電池式、両方ね、あるの。

倉庫にね、売るつもりは無いんだけど、ほら、僕はね時計が趣味だから、あるのよ、箱入りで、新品が。

 

暑苦しい。

目、以外も。

 

そ、そうなんですね、でも売り物じゃないなら駄目ですね。

いやいやいや、いいのよ、今度ね、ここ、ここにね、倉庫から引っ張り出してきて置いとくから、ここに。

店主はさっきの何も無いスペースを指差す。

あれ、そうなの?だったら買いたいなあ。

いいですよ。いいですよ、ただね、僕はこれから千葉に時計屋さんを丸ごと買いに行くからね、ほら、僕は仕入れじゃなくて、丸ごと時計屋さんを買っちゃうのよ、これから千葉なの、千葉、丸ごとね、買うのよ、ほら、趣味だから、時計が。

何日か後にここ、ここに置いとくから、ほら、倉庫から引っ張り出して。

源さーん!あのさ、この前倉庫で一緒にみたあのパタパタ、箱入りの、あれ、持ってきといてよ、こちらのお客さん、また今度来た時見れるようにさ、え?、覚えてない? うーん、ああ、三郎に聞いたらわかるよ、ほら、僕はこれから千葉だからさ、たのむよ、たのむ。

店主は店先の老人に畳み掛けるようにいいつけると、ヨレヨレの名刺を俺に渡した。

ほら、また電話くれたら、いつでも、ね、ね!ね!

 

 

あれから1週間ほど経つ。

ヨレヨレの名刺は失くしてしまった。

今日は先週と比べものにならないほどの猛暑だそうだ。

いってみようかな。

あの古時計屋に。

 

 

今日のニュース

元小学校教師が7歳少年を性的いたずら、逮捕後に「殺し屋」を雇う

ディズニーランドで働いてくれる“ストームトルーパー”を募集中

ウルカはササミを12切れ

マーガリンの泳ぐ山椒魚

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こんばんはウルカ。

 

行き交う人々を見ている。

2メートルはありそうな大柄な外国人が、自分の身体よりも大きなバックパックを背負って通りを過ぎて行く。

ソファでも運んでいるのだろうか。

それを見たホームレス歴25年の藤原さんが言う。

ありゃぁオレたちとおんなじだよ。

背中に家をしょって歩いてる。

ホームはないがハウスはあるのさ。

気楽なもんだろ。

ワッハハハ!

藤原さんと会うのはこれで3度目だ。

役作りのため取材をさせてもらっている。

彼らの人生観や哲学のようなものを勉強できれば演技に深みが出るはずだ。

 

今回、元ホームレスのオカマバーのママという役なのだが、なぜ女優の私にオファーがあったのか未だに不思議でならない。

製作陣と何度も話し合ったが、なんとも要領を得ない。

この役柄なら男性の俳優をキャスティングするのが妥当だ。

何かの悪ふざけなのだろうか。

 

女性である私は一度男性になりきった上で女性になりきらなくてはならない。

単にオカマをダイレクトに演じたのでは薄っぺらい作品となってしまう。

この後「ニューハーフclub・山椒魚」にも取材に訪れる予定だ。

 

山椒魚のママであるマーガリン桜子さんは、大学生になる息子と暮らすパパでもある。

結婚して子供を授かった後にニューハーフの世界に足を踏み入れたそうだ。

現在は離婚して息子さんと二人暮らし。

理解のある息子さんで、休日にはふたり腕を組んで買い物に出かけるらしい。

マーガリン桜子さんのお話、仕草など大変参考になった。

今度は取材ではなく客として訪れることを約束して、 ニューハーフclub・山椒魚を後にする。

 

私は帰り道を歩きながら何の気なしに自分の頬に触れる。

びっしりと生えはじめた太い顎髭がチクチクと痛い。

あらやだぁ、先週女性ホルモン注射したばかりなのにぃ!

すれ違いざま若者と肩がぶつかった。

「痛えな、おっさん!変な格好しやがって」

 

なによ、失礼ね。

私はカサンドラ明美

演技派女優として少しは名が知れているのよ。

覚えておいてちょうだい。

 

 

 

今日のニュース

スターバックス、人がいる場所で使うべきでない「有毒な殺虫剤」を使用して訴えられる

「おいアレクサ!その曲はやめろ!」フランクシナトラの曲を流すと停止命令をするヨウム

 ウルカはデュビアを3匹

120bpmくらい

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おはようウルカ。

 

壁にかかっている時計はカッチコッチと良い音で振り子を揺らす。

週に一度か二度ねじまきをする。

決まった時刻になるとボーンと知らせるが、ぶっ壊れているので決まった時刻を決める事は出来ない。そのためボーンの知らせはいつも俺とは無関係だ。

それでも毎日ボーンと鳴る。

それが良い。

ラジオを消して部屋の音をカッチコッチだけにする。

ソファに転がる。

天井からぶら下がっている電球が実は非常にゆっくりと呼吸をしているのではないかと思う。

ウルカが寝ている。

カーテンの影がトタン屋根の様だ。

広い草原にあるトタン屋根の建物が頭に浮かぶ。

そんな所へ行った事はないので記憶ではなく想像なのかと思う。

まてよ想像もいつか見たものの組合せに過ぎないのであれば、この広い草原にあるトタン屋根の建物も記憶なのかと思う。

時計が無関係にボーンと鳴る。

カッチコッチと夜が深くなる。

俺もひと眠りしよう。

 

 

今日のニュース

NYの公園へヤギ出動、環境に優しい除草活動

ウルカはデュビアを12匹とササミを11切れ

やれやれだぜ

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おはようウルカ。

 

電車を待っている。

 

列車遅れましてご迷惑をおかけします。

今朝7時15分頃、三鷹駅構内において運転士と水牛が決闘をした為、点検作業をしておりました。

ご安心下さい、運転士は颯爽と闘牛士に成り代わり、死闘の果てに見事水牛を打ち負かしました。

間もなく3番線に列車がまいります。

約35分程遅れて運行しております。

お急ぎのところ列車遅れまして大変ご迷惑をおかけします。

 

なんだ水牛か、それなら仕方がないな。

今日は朝から会議があり、遅刻したくない。

水牛を打ち負かすというのは大変やり甲斐があるし、名誉な事だとは思うが、朝の通勤ラッシュにおいては少し控えてもらいたい。

 

ホームに電車が入ってくる。

運転席の運転士はいつもより少しだけ胸を張って誇らしげに見えた。

 

電車はとても混んでいた。

体を鍛えてムキムキなのは健康的で素晴らしい事だし、鋼の肉体を誰かに見せたいのは理解できる。

オイルを塗る事でより筋肉の隆起が強調される事についても同感だ。

だからといってビキニパンツで体じゅうにオイルを塗りたくった状態で満員電車に乗るのは少し控えてもらいたい。 

ぎゅうぎゅう詰めの車両の中、馬鹿でかいオイル野郎の胸でぬるりぬるりと何度も顔面をすべらせる羽目になった。

 

朝からドタバタと大変な思いをしたが、なんとか会議の時刻に間に合いそうだ。

俺はハンカチで顔についたオイルを拭いながら会議室のドアを開ける。

暗い。

いつの間に工事をしたのだろう、会議室は洞窟の入口となっていた。

何本か立っている松明の一つに俺の名札がついている。

やれやれだぜ。

俺は煌々と燃える松明を手に取ると、洞窟へと飛び込んでいった。

 

 

 

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チーフだかリーダーだか知らねえが

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おはようウルカ。

 

止まり木にとまっている。

 

私は鳥が好きだ。

幼少の頃より鳥には特別な感情を抱いてきた。

空を自由に飛ぶことが出来るなどという、ありふれた理由ではない。

鳥は足を使って電線や木の枝にとまる事ができる。

他にも枝のような細いものに掴まって移動したり、休憩する事ができる動物は沢山存在する。

しかし、枝に対して横向きにとまるという、凛としたその佇まいは、鳥をおいてほかに無い。

 唯一無二のとまり方なのである。

 

私もいつかあんな風にとまってみたい。

そう思うようになるまでに長くはかからなかった。

先ず、二足歩行でなくてはならない。

これは人間である私にとっては大変有利だった。

しかし、ここからが苦行の連続である。

体幹やバランス神経を鍛える事で、細い棒状のものやロープに対して横向きに、ある程度の時間立っていることはできる。

だがこれではとまっているという事にはならない。

しっかりと足で枝を掴む事ができなければ駄目だ。

また、細い枝や電線に止まるということは、厳しい体重制限を余儀なくされる。

私は足の裏で細いもの、小さなものを掴むトレーニングを独自に考案し、寝る間も惜しんで毎日続けた。

同時に体幹やバランスを強化するために体操競技を、減量と鳥のような俊敏な動きを目指してボクシングも始める。

元来のめり込む性質であった私は、体操ではオリンピック強化選手に、ボクシングでは日本チャンピオンとなった。

しかしそれらは私にとってはどうでも良いことである。

止まり木にとまる事に生活の全てをかけた。

30年間、独自のトレーニングを続けたおかげで、今では8時間程度であれば細い止まり木にとまり続けることができる。

数年前に始めた足裏矯正靴下の事業も軌道に乗り、止まり木をふんだんに取り入れたマイホームも購入した。

 

こうして休日になると、止まり木にとまって過ごしている。

しかし、今日は少し落ち着かない。

これから鳥好きを集めた婚活パーティーがあるのだ。

気の合う男性に出会えると良いのだけど。

エンゲージリングは足首にはめるペアのバードリングと決めている。

 

 

俺はこれを居酒屋のカウンターで書いている。

おい、店員よ。

チーフだかリーダーだか知らねえが、客の前でバイトに説教するのはやめてくれ。

せっかくの焼き鳥が不味くなるじゃないか。

 

 

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バッド

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おはようウルカ。

 

エレベーターに乗っている。

ディスプレイには63と表示されており、一定の間隔で数字が減っていく。

目を閉じる。

真っ白な箱の中で、暗い底へ落ちるというイメージが悲鳴のように残響している。

落ちることに抗う自我は、肉体を脱ぎ捨て上へ上へ残ろうとする。

それとも何者かに自我を引き抜かれようとしているのだろうか。

上へ引っ張られるような浮遊感は、崩壊への恐怖を恍惚へと昇華させる。

 

目を閉じたまま、ステージ上でスポットライトにあたる自分をイメージする。

足先でリズムをとると、自然と身体が動きだす。

マイケル・ジャクソンさんのバッドだ。

ダンスには自信がある。

学生の頃はダンスクラブに所属していた。

振り付けは完璧に身体に叩き込まれている。

軽快なステップと全身を使って躍動する情熱のダンスは、マイケル・ジャクソンさんの真骨頂だ。

我ながらキレッキレである。

んっだっ!ぽぅ!だ、んっだ!

 

徐々にキレをますダンスに、歓声があがる。

観客に向かって挑発するように指をさす。

同級生には歌声がマイケル・ジャクソンさんに似ていると言われた事もある。

歌詞はうろ覚えのところがあったが、ハミングで乗り切る。

くるぞくるぞ。

サビがくるぞ。

テンションは最高潮だ。

 

ユー・ノウ・アイム・バッド、

アイム・バッド・カモン・ユー!

ユー・ノウ・アイム・バッド、

アイム・バッド・カモン・ユー!

アンドふんふんふんふん、

アンサー・ライト・ナウ!

ジャステルユー・ワンサゲン……

フーズバッド!!

ぽぉぉぉぉぉぉぉぉぉうぅ!!!!!

 

チーン

エレベーターが到着を知らせる。

目を開ける。

階数を示すディスプレイの数字は1になっていた。

ドアが開く。

いつのまにか乗り合わせていた家族連れ、学生、OLとサリーマンの集団は静かにおりていった。

 

麗らかな春の風が、優しく髪を揺らした。

 

 

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