テクノロジーに変顔

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おはようウルカ。

 

俺の住んでいる町にはまだ、野草が生えるくらいの余地がある。

通りを歩いていると、あちらこちらに野草が勝手に生えている。

俺はタンポポですら、花が咲いていなければ見分ける事が出来ない、野草しらずだ。

野草に詳しい人は凄いね。

野草を摘んできては、ハイクラスなレストランに卸すことで収入を得ている人間も在るようだ。

メジャーな野草として、桑(クワ)というのがある。

桑は、スーパーフードと呼ばれる実がなるらしいが、葉の栄養素もずば抜けている。

この桑の葉を摘んで、うちにいる草食系の動物に与えたい。

調べると、花や葉にスマートフォンのカメラをかざすと植物の種類や特徴がわかるアプリがあるようだ。

すげーな。

QRコードみたいだよ。

同じような仕組みで、水族館を泳ぐ魚にもカメラかざし図鑑アプリがあるらしい。

これは人間の顔認証とあわせた個人情報図鑑アプリの登場も時間の問題だな。

個人情報を守るにはアプリに認識されないように変顔できり抜けるしかないぜ。

ワンパターンな変顔ではアプリに解析されてしまうから変顔レパートリーを日々増やさなければならない。

街中が変顔であふれる。

世界は平和を取り戻すかもしれんぞ。

よし、真顔を捨てて野草を探しに町へでます。

 

 

今日のニュース

黒すぎてやばい。あの「ベンタブラック」に塗装された超黒BMW

これが噂のフクロウ男(オウルマン)なのか!?イギリスの墓地でツノと翼を持った謎の男性の姿がとらえられる
銀のエンゼルが出た!あと1枚だ!ビンキルンさんよ!

ウルカは休食

ボタンを押すだけの簡単な仕事です

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こんにちはウルカ。

 

喧騒が太陽に反射して、空気を撼わす。

やんわりと揺れる街路樹が、それを宥める。

その動きは母親が眠っている子にあおぐ団扇のようだね。

街でガラスの欠片を拾っては、裸の電球にはりつけている。

ひと月ほどかけて完成させた電球を、街で売っている。

この電球も、いつかガラスの欠片となって私のところへ戻ってくるだろう。

やがて出鱈目な光と色を滲ませる電球は、著名な芸術家の目にとまり、作品と呼ばれ、人々に持て囃された。

世界的なアート・オークションに出品され、高額で落札されたそうだ。

私は芸術家とよばれ、作品にタイトルを求められた。

作品にタイトルをつけるということは困難を極めた。

 

私は文章にタイトルをつける事が好きだ。

文章は言葉で出来ていて、文章に言葉でタイトルをつける事には微塵の違和感もない。

写真はどうだろう。

写真に言葉でタイトルをつけると、写真までもが言葉に変わってしまうようで申し訳ない気持ちになる。

それなら、写真には写真でタイトルをつければ良いのではないか。

電球には電球でタイトルをつけよう。

私の作品と呼ばれるガラスの欠片が歪に張り付いた裸の電球を購入すると、もう一つ、歪な電球がついてくる。

 

 

今日のニュース

「お酒の席だから」は失敗の言い訳にならない。酔っ払っても善悪の判断基準は変わらないという研究結果が発表される

赤ちゃんの名前「アレクサ」の人気低下はアマゾン製品が影響か

ウルカはデュビアを2匹、鶏ささみを10切れ

カナリア

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こんばんはウルカ。

 

今日はえらく忙しかったので、こんな時間になってしまったよ。

今日が終わってしまう前に、カナリアの話でもしようか。

 

カナリアが囀っている。

朝露が草を湿らせて生命を強調している。

カナリアは、海を越えた遠い国々ではその美しい容姿と官能的な歌声で、ペットとして人気があるそうだ。

この土地でのカナリアといえば、怪鳥として恐れられている。

あれをペットとして可愛がるなど到底信じる事が出来ない。

確かに小鳥の時期は可愛らしい姿をしており、囀りの音彩は上等な笛のようだ。

しかし成鳥となったカナリアは、ゾウの悲鳴のような鳴き声で、硫酸を吐き、人を喰らう。

おそらく海を越えた遠い国々では、小鳥の時期のカナリアのみを愛でて、あとは殺してしまうか、気候があわずに成鳥となる前に命を落としてしまうのではないだろうか。

この土地では深い雪に覆われる冬以外、カナリアが活発な時季は外に出る事が出来ない。

鋭い爪でバラバラにされて、喰われるから。

やがて人々は地下に街を拡大し、世界最大の地下都市を構築した。

今では約9350万人が地下都市で生活をしている。

地上で暮らすのは、地下都市に入る権利を持たない貧困者や犯罪者、太陽を崇拝する過激宗教者、世捨て人などだ。

他国が刑務所に入りきらなくなった凶悪犯罪者を漁船に隠し、この土地へ捨てていくことも珍しいことではない。

この国の地上における治安はカナリアの脅威を除いたとしても、世界ワースト・ワンである。

オレはこのカナリアの雛を捕まえて、ブローカーに売ることを生業としている密猟者だ。

リスクのわりに金にはならないが、地下都市に入る権利のないオレにとっては大切な食い扶持だ。

ブローカーはペットや実験用として海外へ流すのだろう。

まあ、オレの知ったことではない。

カナリアを捕獲したり、殺すことは法律で厳重に禁じられている。

奴らはそこそこ知能が高く、仲間が人間に攻撃されたとなると、群れをなして報復をするといわれ、80年前のカナリア・セカンド・インパクトでは、16万人以上が残虐な殺され方で命を落としたとされている。

さて、そろそろ仕事を始めるとするか。

オレはカナリアの巣がある高い木を見上げると、慎重に登りはじめた。

 

地下88階。

最高機密軍事研究施設。

床や壁、天井といった全ての面が白色をしている。

大勢の白衣を着た人間がせわしなく働いてる。

無数のモニターの片隅に映し出されている、ゆっくりと木に登る密猟者の姿には誰も気がついていない様子だ。

遺伝子操作と人工知能を組み合わせることでつくられた鳥型の生体兵器はここでコントロールされている。

2006年、実験中のカナリアから遺伝子異常が見つかる。

2010年、遺伝子操作によって体長13メートルを超えるカナリアをつくりだす事に成功し、生体兵器としての研究を開始。

2019年、人工知能を用いた生体兵器が完成。繁殖機能はない為、通常のカナリアの卵に特殊な処置を施す事で怪物を生み出す。

2026年、カナリア・プログラムを開始。

国家は他国との関わりを断ち、国民を地下に閉じ込めることで、長い間、独裁政治を続けてきた。

地上を制御された生体兵器が飛び回るこの国は、鉄壁の要塞と化した。

ところが、2ヶ月前に重大な問題が発生している事が確認される。

鳥型の生体兵器に組み込まれた人工知能が次々に暴走を始めたのだ。

今では3分の1以上、約120万羽の鳥型の生体兵器が制御不能となっていると報告されている。

制御不能となった鳥型の生体兵器は、敵味方関係なく、全てを破壊する。

更に恐ろしいことに、繁殖が確認された。

これまで遺伝子操作されたカナリアには繁殖機能が無いとされていた。

制御不能となった生体兵器の雛は、通常のカナリアの雛と殆ど見分けがつかないが、眼球が僅かに黄金色をしているとの報告が上がっている。

 

 

海を越えた遠い国。

ペットショップで女の子が小鳥の雛が並ぶケージを見ている。

お母さん、ユナ、このこがいい、おめめがとってもきれいだよ

ユナちゃん、ちゃんとお世話できるの?

うん!このこが大きくなったらね、せなかにのって、おそらをとぶの!

あはは、ユナちゃん、それなら沢山ごはんをあげて、大っきく育てなきゃね。

 

 

今日のニュース

人はヘルメットをかぶっているだけで気が大きくなってしまうことが発覚

飼い主が眠りに落ちるとスマホを片付け毛布をかけ電気を消してくれる犬

ケンタッキーが肉なしチキンを公表!ベジミート(人工肉)を使ったフライドチキンの試作品を無料提供

ウルカはデュビアを7匹

みんなさようなら

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こんにちはウルカ。

 

線路に遺棄された自転車が雨に濡れている。

空調がギリギリと音を立てている。

子供達はブンブンと夏を振りまわして、夏が消耗してなくなってしまう事を恐れない。

腕時計を見る。

深いグリーンのサブ・マリーナーは、かつて恋人から贈られたものだ。

よく使い、よく傷のついた硬質のステンレスは、鞣革のように滑らかで。

時刻は午前。

時間は朝、昼、夕、夜、深夜、夜明けの6つくらいで十分だ。

時針も分針も秒針もいらない。

朝、昼、夕、夜、深夜、夜明けで文字盤の色が変わる機械式腕時計が欲しいな。

列車の進行方向とは逆方向に座席と座席の間の通路を走る。

これは地球の自転とは逆方向に移動する事によく似ている。

大きな流れのなかで小さな飛沫があがっただけだ。

何も変わらないけれど、飛沫にとっては飛沫をあげる意義は大きいのだろう。

 

 

 

一昨年の冬、こんなことがあった。

 

9月4日

突然といえば突然だけど、自分の世界は終わるのだと確信したんだ

月曜日から金曜日までを息を止めるように生きている

毎朝の満員電車

乗客全員が俯いた顔をスマートフォンにぼんやりと照らされて、日中シンクロをしている

日焼けを欲している若者や、ヤンチャおじさんは、スマートフォンからUVが放射される機能が追加されれば一石二鳥だね

混んだ車内では、見知らぬサラリーマンと恋人同士のような近距離で身を寄せ合い、スマートフォンを剣にしてカチカチと鍔迫り合いをする

今日の相手は剛健なスマートフォンカバーを纏っていて強敵だったよ

相手のスマホ剣を叩き落とす勇気なんて僕にはない

おまけに足を踏まれたとしても我慢するだけさ

そんな僕がアマゾンのジャングルへ行こうと決めたのは、突然といえば突然だけど、当然といえば当然なんだ

就職祝いに72回の分割払いで購入したオメガ・スピード・マスターを左腕に着けていくよ

他に宝物が見つからなかったからね

冒険には肌身離さない相棒が必要でしょ

まだ使った事の無いストップ・ウォッチの機能を使うような気がするんだ

このスマートフォンはジャングルの何処かに隠しておこう

遠い未来に誰かが見つけて、自分宛に送ったこのメールを読むかもしれないから、ロックは外しておきます

パスポートはジャングルに到着したら捨ててしまおうと思っているよ

パスポートなんて持っていたらいつまでも僕は僕のままだからね

 

このメールを読んでいるあなたへ

あなたは日本語を理解できるという事は日本人かな

もしかしたら翻訳機能を使って読んでいるのかな

ブラジルの人かな

僕は日本の東京からこのジャングルへきたんだ

でも本当はまだ東京に居るのだけど

会社帰りの牛丼屋さんでこれを書いてるんだ

準備は出来ているよ

アマゾンの河にはピラルクという大きな魚がいる事も知っている

部族の村へのアクセスもインターネットで調べたよ

僕はジャングルで、僕を捨てて僕を拾うんだ

 

11月7日

いよいよ出発!

これから飛行機に乗って地球の裏側へ向かいます

みんなさようなら

 

 

冬。

気温26度。

サンパウロの安宿。

到着早々にスマートフォンとカメラと200ドルを盗まれてテンションの上がった俺は、裏路地にあった路上店でこのスマートフォンを買った。

ジャポネと手書きのシールが貼られた、薄汚れたこのスマートフォンは初期化すらされておらず、相場の5分の1の値段がついていた。

充電をして電源を入れると、メールアプリのアイコンに着信を知らせる赤い丸。

スマートフォンの元持ち主が、元持ち主自身に宛てて送ったであろうそのメールを読んだ俺は、もしやオメガの腕時計も売られているのではないかと、翌日もう一度裏路地を訪れることにした。

路上店は跡形もなく消えていた。

 

 

メールの文章はうろ覚えだったので俺風になっている。

でも大体こんな内容だったと記憶している。

スマートフォンは元持ち主の意志を継いで、現地に隠しておいた。

ジャングルではないけれど、あそこならきっと長い間見つかることはないだろうよ。

オメガは、今もあんたの左腕にあるといいな。

 

 

 

今日のニュース

出産報告のメッセージを見知らぬ人に誤送信→受け取った相手がお祝いに駆け付ける

コモドオオトカゲの保護のため 当局が島民2000人を強制移住

浜辺の砂をペットボトルに詰めて持ち去ろうとしたフランス人観光客、6年の懲役刑に

ウルカはデュビアを4匹

みじけえよ

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こんにちはウルカ。

 

写真は寿命160年以上とされるカメ。

現在5歳。

飼うには一人じゃ無理だな。

ペットは死別が寂しいから、犬とか平均寿命50年くらいにならんかね。

グレート・デンなんて平均寿命5年だってよ。

うちの犬も今年で13歳。

大型犬としては平均寿命をとうに過ぎている。

気管支をやられていて治療はできない状態。

投薬でどこまでもたせられるかの勝負だ。

いや、勝負ではない。

死が負けだとすれば、絶対に負けるからな。

13年、長いようであっという間だった。

 

コガネオオトカゲの平均寿命は15年。

あと14年か。

あっという間なんだろうなあ。

 

 

 

今日のニュース

血液検査で死期を83%の確率で予測できる。血中に含まれる死と相関のある代謝物質を特定

27歳女性が83歳のシャーマン男性一目ぼれしたと主張。56歳年の差婚が成立

ウルカはデュビアを11匹

破片のような食事

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こんばんはウルカ。

 

ページをめくっている。

沢山の文字が印刷されたページは、全くと言っても良いほどの同じ大きさの紙が重なっていて、本というメディアを形成している。

一冊の文字データ量は5メガバイト程度。

人間が文字から情報を読み込むスピードは非常に遅く、5メガバイトの情報を読み込むのに数時間、途中のフリーズを計算に入れると数日を要する場合もある。

コンピュータが5メガバイトを読み込むスピードは0.01秒を要さない。

人工知能は、読み込みとほぼ同じスピードで内容を理解する。

読み込んだデータは半永久的に保管可能で、必要なときに読み出す事ができる。

人間のデータを読み込む能力は創生期のコンピュータにも劣り、記憶は極めて曖昧である。

といった内容が印刷されている本を反芻するように読んでいると、六目六(ろめろ)さんが隣でイビキをかきはじめた。

六目六さんは超・能力者で、数々の超・能力を有しているそうだ。

私と六目六さんは飛行機に乗っている。

行き先の島では、世界中の様々な能力チャンピオンを集めた大規模なアビリティ・トレード・フェスティバル(ATF)、要するに能力交換祭が開催される。

人間は、自分の欲しい能力ではないものに秀でているケースが非常に多い。

様々な能力のトップ同士が、特殊な装置を介し、自分の欲しかった能力を交換し合うという祭典である。

ニッポンを出発して既に23時間が経過しようとしている。

私は、霊長類大食大戦で40年ぶりに人類としてチャンピオンとなった事で、このATFのチケットを手にした。

勝戦で私に敗れた雌のオランウー・タンは大変悔しそうだった。

私はこの、たくさんの量を食べることができるという能力が好きではなかった。

霊長類最食となったことにも喜びを感じることはできなかった。

このATFで私は生まれ変わる。

お洒落なカフェで出される破片のような食事で満足し、小さなカップエス・プレッソを嗜みたい。

祭典にはどのような能力者が参加しているのだろう。

私はどのような能力が欲しいのだろう。

大食い以外であればなんでもいい。

私は新たな能力が欲しいというよりも、私の大食いという能力を捨ててしまいたいだけなのかもしれない。

 

島に到着すると、-大食い-と書かれたアビリティ・プレートを胸につけられた。

大きな村が丸ごと会場となっており、約1ヶ月間ここに滞在し、アビリティ・トレード・パートナー(ATP)を決める。

通りを歩いていると、飛行機で隣り合わせた六目六さんが、早速アビリティ・トレード・パートナーを見つけた様子で、3メートルはありそうな高身長の女性と親しげに歩いている。

六目六さんは私を見つけると、笑顔で会釈をしてくれた。

六目六さんのアビリティ・プレートには-喪屍-とあった。

隣の高身長の女性のアビリティ・プレートには-尻でくるみ割り-とあった。

私はATF最終日に、アビリティ・プレートに-読書-とある、異常に痩せた老人とATPとなることができた。

アビリティ・トレードに成功した私はニッポンに帰ると、早速たくさんの書籍を購入した。

お洒落なカフェで、破片のような食事と小さなカップエス・プレッソを嗜みながら、ページをめくっている。

相変わらず反芻するように読んでいる。

私が異常に痩せた老人と交換した能力、読書とは、人類で最も沢山の本を読んだというものだった。

記憶は極めて曖昧で、殆どの内容は覚えていない。

それでも私は異常に読書が好きになった自分を好きになった。

 

数ヶ月経ったある日、あの異常に痩せた老人からハガキが届いた。

家庭用プリンターで印刷されたであろうそのハガキの写真には、笑顔でサムズ・アップする随分と健康的な体型となったあの老人、かつてビル・ゲイツという名で世界に大きく影響したとされる人物が写っている。

 

 

 

今日のニュース

マンデラ効果とは。不特定多数が「偽の記憶」を真実だと思い込んでしまう集団的な誤解

ウルカはデュビアを7匹

ラベル

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こんにちはウルカ。

 

 

瓶ビール。

栓を抜いた瓶に、逆さにした小振りのグラスを被せて片手ではいよと出す店が好きだ。

最近なかなか無いね。

ビールの瓶のラベルをみる。

原材料 : 麦芽(外国製造または国内製造)

とある。

それ以外、何処で製造するというのか。

外国製造または国内製造というのは、地球製造というのと同じ事だろう。

(外国製造または国内製造)と記載する必要はあるのか。

いらんだろう。

いやまてよ、これは地球以外の製造場所が既に存在するというメッセージなのかもしれんぞ。

俺がアホみたいに地球で瓶ビールを飲んでいる間にも、金星の麦畑でプルーンみたいな目をした灰色の異星人達が、大麦を収穫しているのか。

はっ!そういえば、金麦とかいう商品をコンビニエンス・ストアで見た事があるぞ !

 

このように、しょうもない話を、ボロいカウンター越しに良い感じでヤレた大将が聞いてくれる店が好きだ。

最近なかなか無いね。

ヤレた大将のラベルをみる。

Hanes -L-

とある。

俺は、瓶ビールをもう一本追加した。

 

 

 

今日のニュース

2030年には完全に消え去る予測。腐食が進む悲劇の豪華客船・タイタニック

ウルカはデュビアを4匹

妥当に理不尽なマシュマロ

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アンビエント・ミュージックというものがある。

作曲家や演奏者の意図を主張したり、聴くことを強制したりせず、その場に漂う空気のように存在し、それを耳にした人の気持ちを開放的にすることを目的にしている。

このアンビエント・ミュージックを、爆音で強要されるという新手の理不尽が夜明け前の集合住宅で発生している。

ミュージックというものには、作曲家や演奏者の他に、再生者というものが存在する。

再生者は必ずしも受音者とイコールではない。

音の暴力の凶器としてアンビエント・ミュージックを選ぶということは、無差別テロの武器にマシンガンや爆弾ではなく、マシュマロ・チョコを選ぶようなものだ。

まさかマシュマロ・チョコで攻撃されるとは思いもよらない人々は、なすすべも無く、柔らかく甘いマシュマロ・チョコに叩きのめされる。

 

俺は爆音で降り響くアンビエント・ミュージックの暴力的な音圧と、それとは相反する柔らかく心地の良い音像に殺される。

暑い。

汗をかいている。

夜中にタイマーでエア・コンディショナーが止まったようだ。

眠りたい。

いや、覚めたくない。

俺は眠っているのか。

アンビエント・ミュージックに殺される夢をみているのか。

夜明け前に。

俺は覚めなければならない。

そういう計画だったのではないか。

そうか。

昨夜の俺という他人は、翌早朝の俺という他人に対して、普段使用しないアラーム・システムをセットした。

何故なら早起きをしなければならないからな。

アンビエント・ミュージックは、俺を永眠させるどころか、覚醒させる為に過去の俺が設定したリスク・ヘッジだったのだ。

iPhoneという再生者は、俺という受音者を、妥当な理不尽で覚醒させる。

ありがとう、iPhone、そして今となっては見ず知らずの昨夜の俺よ。

これで俺は近い未来の見ず知らずの俺に遅刻という失態をおこさせずにすみそうだよ。

おはよう、ウルカ。

 

 

今日のニュース

宇宙空間で初の犯罪容疑?NASA飛行士、口座不正侵入か

ゾウやサルも地球温暖化と戦っている。人間には真似できない方法で森林を保護

ウルカは鶏ささみを10切れ

最終形の人間

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こんにちはウルカ。

 

芸術は、生まれ持ったものを他からの影響を受けないように自分自身から引っぱり出す行為。

他者にみせたり、評価されるつもりで吐き出してはならない。

作品は、他者、さらに自分自身が、魅力的だと感じるものである必要はない。

鍛えるべくは自己を引っぱり出し、何かに変換する手法や思考、または無心。

 

非芸術は、生涯で仕入れた情報を組み合わせて、他者や自分自身が作品を魅力的だと感じる事を最優先として作りこむ行為。

自己の主張で盲目的になってはならない。

鍛えるべくは組み合わせる瞬発力とバランス、道具や制作技術、または野心。

 

少年はそう自由研究・工作ノートに書き留めると、花柄のグラスで氷のとけはじめた麦茶を見つめた。

あと一週間ほどで夏休みも終わりだ。

セミの鳴き声も、太陽の日差しも、すきバサミを入れたように薄くなっている。

もう3日以上食事をとっていない。

腹が空いては宿題も捗らない。

少年は椅子から立ち上がると、大声で叫んだ、ママー!お腹すいたー!ごはんまだー?!

ちょっとおじいちゃん、さっきハンバーグカレーたくさん食べたでしょ!

すぐ隣に座っていたママが少年に負けないくらい大声で叫んだ。

少年は88歳、芸術家として最高の状態にある。

 

俺は二皿目のハンバーグカレーを旨そうにたいらげる少年を見ている。

少年は俺を見て、あなた、どちら様?と言った。

俺は少年にこう答えた。

私は最終形の悪魔です。

少年はニヤリと顔をシワクチャにすると、残りのハンバーグカレーを口に放り込んだ。

 

 

 

今日のニュース

無数の人骨が発見された骨の湖「ループクンド湖」新たなるDNA調査で更なる謎が深まる

ロシア船員が書いた瓶入りの手紙がアラスカで50年後に発見される

老化した脳細胞に「自分はまだ若く柔らかい脳の中にいる」と勘違いさせると実際に若返る効果が検証される

ウルカは休食

イケダーヌ

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おはようウルカ。

 

ガラガラと室外機が不調をうったえている。

大抵、室外機の悲鳴は当の住人には届かず、隣人からの苦情として間接的に伝えられる。

 

僕はインターホンを押した。

応答はない。

室内には灯りがついており、歩き回る音も聞こえる。

控えめにドアをノックする。

夜分遅くにすみません、隣の佐々木です。

池田さん、いらっしゃいますか?

もう一度インターホンを押してみる。

ガチャガチャとロックを外す音がして、乱雑にドアが開いた。

はい?

池田さんは40代前後の女性で、というか、おそらく本当は男性なのだが、表向きは女性ということにしているようなので、僕は僕のなかの素直な気持ちを麻痺させて、池田さんは女性ということにしている。

これは会社の上司がかぶっている頭髪についても同じフローを採用しているのだが、それはまた別の話だ。

 

なにか?

池田さんは面倒くさそうに僕をみる。

あの、夜分遅くにすみません、多分、エアコンの室外機だと思うのですが、結構大きな音が響いていて、早いうちに修理に出された方が良いですよ、まだ暑い日が続くようですし、壊れてしまったら大変だと思いまして…

はあ?

あの、ですから室外機がガラガラって一日中大きな音で…

で、うるさいから苦情言いに来たってわけ?

池田さんは素直な気持ちを麻痺させないタイプのようだ。

あの、ああ、はい、まあ、ちょっといま資格を取るために勉強をしていまして、出来ればもう少しガラガラが控えめになると良いななんて…

そうなんだ、勉強ねぇ、それで何の資格を取るの?

ああ、はいあの、VR俳優です。

はあ?

ああ、いわゆるバーチャル空間で、仮想のイメージやストーリーを演じる役者というか、なんというか…

あんた、何言ってんのよ、役者に資格なんているわけないでしょ?

いえ、VR俳優の場合、僕と他の人の脳をつないで、仮想のイメージやストーリーを共有するので、危険を伴う場合があるんですよ。

他人の脳と接続するためには難しい試験に合格する必要があるんです。

違法なんですが、試験に合格する為にはとにかく実技を重ねないと…

皆んなやっていることなんです。

あんた、何わけわかんないこと言ってえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ

 

メンバーズクラブ・ひげ愛ドル

ボックス席に座る僕は、隣に座るイケダーヌさんの左耳の付け根に刺した電極の針をそっと抜いた。

イケダーヌさんは白目をむいたままだ。

あれ、失敗しちゃったかな…

 

 

 

今日のニュース

男が全裸の女性を森へ運んでいる、警察が現場で発見した

AI音声アシスタントで一番賢いのはどれ?GoogleとSiri、Alexaを比較してみた結果、一番賢いのはダントツでGoogle

全ては日光浴の為。19世紀後半のフランスで日光療法の為に設置された大がかりな回転式サンルーム

ウルカはデュビアを12匹

馴染まないさがし

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こんにちはウルカ。

 

 

いつものように自転車で駅に向かう。

今日も暑くなりそうだ。

交差点で信号待ちをする。

角のたばこ屋のおばあちゃんは今日も和かだな。

軽く会釈をすると、おばあちゃんはにこにこと手に持ったスマートフォンを俺に見せた。

最近はお年寄りもスマートフォンを使っているのか、などと感心していると信号が青に変わった。

そういえば、あのたばこ屋、3年前に閉店したんじゃなかったっけ…覚え違いかな。

駅前のコンビニに寄ると、見かけたことのない店員がぎこちなく接客をしている。

レーニング中かな。

いや、この前もあの店員だったかもしれない。

早く仕事に慣れるといいな。

頑張れ店員。

電車に乗り込むと、乗客達が退屈そうにスマートフォンを眺めている。

車両のドアが開閉しても誰も顔を上げない。

他人などには興味がないのだろう。

あれ、いつもこの電車で一緒になるあのサラリーマン、あんなにハゲていたっけ?

ストレスかな。

頑張れサラリーマン。

なんだか今日は町全体がよそよそしく感じるな。

俺だけが馴染めない転校生のようだ。

まあ、こんな日もあるか。

 

 

 

寂れた商店街で、異様に腰の曲がった老婆が、たばこ屋のシャッターを不自由そうにあける。

老婆は白髪を潔ぎよく後ろで束ねている。

朝の静けさの邪魔をしないように、ゆっくりとシャッターをあける。

柔らかな笑みを口元に浮かべているが、その眼光は肉食獣のような熱を帯びている。

紫色のスパンコールの装飾が派手にあしらわれた上着の右ポケットには、帝都こんぶを大量に忍ばせている。

紫色のスパンコールの装飾が派手にあしらわれた上着の左ポケットには、デリンジャーと呼ばれる小型の拳銃を忍ばせている。

この老婆はこのたばこ屋にも、商店街にも、なんの縁もゆかりもない、よそ者であり、この土地に訪れたのも初めての事である。

あら、こんなところにたばこ屋さんなんてあったかしら?

いやねぇ、大昔からあったわよ、まあ、うちは誰もたばこ吸わないから、買ったことないけど。おばあちゃん、おはよう、今日も良い天気ねぇ、あら、素敵な上着、記念に写真撮ってあげるわ。

商店街に買い物に来た二人組の主婦のうち一人がスマートフォンで老婆の写真を撮る。

商店街の通りを過ぎる主婦たちをニコニコとたばこ屋の老婆が見送る。

 

馴染み師。

それがこの老婆の生業である。

あらゆる場所において、自然に、あたかも昔からそこに存在していたかのように馴染む者。

誰から依頼があるわけでもない。

老婆は気まぐれに、各地を流れている。

先々で馴染んでは、気がすむとまた次の土地を目指す。

馴染み先の人々は、よそ者がやってきたとは全く気がつくこともなく、昔から付き合いがあったかのように接し、いつのまにか消えている老婆に気がつくことはない。

 

先々月は暗殺者たちが利用する闇武器屋の店番として馴染んだ。

先月は帝都こんぶ工場の事務所清掃員として馴染んだ。

今月は6年に1度開催される馴染み師の世界大会がこの町で始まった。

1人の人間を除いて、人口1万4999人全ての町民が馴染み師である。

馴染み師ではない1万5000分の1人を見破った馴染み師には、多額の賞金が贈られる。

馴染み師ではない1万5000分の1人と判断した場合、写真を撮って主催者側にメール送信する。

写真を送信できるのは3度までで、全てハズした場合は賞金を受け取る権利はなくなる。

 

たばこ屋。

老婆は目の前で信号待ちをしている自転車に乗った青年を見ている。

視線に気がついた青年が会釈をする。

老婆はスマートフォンを取り出すと、青年の写真を撮る。

それから老婆は、青年に見えないように小さくガッツポーズをした。

 

 

 

今日のニュース

大量のマットレスが嵐によって「ぬりかべ」襲撃状態に

サルガッソ海の海藻に高濃度のプラスチック粒子 ウミガメなどに影響も

イスラエル首相夫人がウクライナで差し出されたパン投げ捨てる

ウルカはデュビアを16匹

ズレ、ささやか

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おはようウルカ。

 

ホームに電車が滑り込んできた。

俺は電車に乗り込む。

朝、誰もが先を急ぐ時間帯では、乗っている時間が倍となってしまう各駅停車列車を選ぶ人間は少ない。

ゲロ空きである。

俺はのんびりと席に座って、えっちらおっちらと進む鈍行列車が線路を踏む感触を楽しみに、出発を待っている。

不人気なのに良いものが好きだな。

良いものは大抵人気がある。

皆が良いと思うからこそ、それは良いものとなる。

良いものであるからこそ、皆が良いと思う。

人気があるものは良いもの。

これは大変見分けやすい目印であり、手っ取り早く良いものに辿り着きたければ、人気を辿ればいい。

自分は他人とは違うなどと他人と同じことを考えて生きている人間なんて、大体似たような感覚や生活スタイルで生きているわけで、良いと思うもののズレなど微々たるものだ。

アフリカに棲むゾウと、北極に棲む白いクマの嗜好性ほどのズレはないだろう。

 

それでも稀に、状況や環境、感覚などのズレから、不人気なものであるにもかかわらず、自分にとってはとても良いものに遭遇する事がある。

今朝は鈍行列車で旅をするように、のんびりと、豊かに、朗らかに、出勤しよう。

そんな、微々たる、ささやかなズレを愉しんでいると、車内アナウンスがこう告げた。

 「この列車は当駅止まりの回送列車です。ご乗車にならないようにお願いします」

清掃にまわってきた鉄道員の両目から放射された早よ降りろや光線が、俺を焼いた。

 

 

 

今日のニュース

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ビンビンになると噂の地衣類を食べる人が続出中。毒性があるので危険と植物学者が注意喚起

ウルカはデュビアを6匹

ごっこ

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おはようウルカ。

 

 

どちらまで?

おまかせします。

え?

行き先はおまかせします。

お客さん、こまりますよ、僕の仕事はお客さんの行きたい場所へ、お客さんを安全にお連れすることです。

行き先を言ってもらわなくては、出発できませんよ。

そうですか、それでは志野公園の滑り台までおねがいします。

かしこまりました。

シートベルトをおしめ下さい。

私はタクシーごっこが苦手だ。

満足気にハンドルを握るジェスチャーをするタカシは私と肩を並べて歩道を歩いている。

ランドセルの留め具が外れているのか、歩く度にカタカタと嫌な音がする。

タクシーごっこが苦手というよりも、タクシーごっこにおける客の役が苦手なのである。

行きたい場所など無いのに行き先を伝えなければならない。

運転手役であれば、客の行き先を聞いて、あとはハンドルを握るジェスチャーを適当にしながら天気の話でもしていれば良い。

ありがとうございます。

志野公園滑り台前です。

840円になります。

タカシは大人の声真似をして手を出すと運賃を要求するジェスチャーをする。

私は1000円でお願いしますと運賃を手渡すジェスチャーをする。

タカシは160円のおかえしですと乳歯の抜けた歯茎を見せて笑った。

一通り遊具で遊ぶと、そろそろ帰ろうということになった。

朱色の太陽が樹木の枝葉を透かしている。

 

 

 

どちらまで?

お客さん?

お客さん?

 

ああ、はい、すみません、お任せします。

はい?

ああ、はい、すみません、駅までお願いします。

本当は駅になど行きたくないのですが。

はい?

ああ、すみません、志野駅まで。

わかりました、志野駅ですね、発進しますのでシートベルトをご着用ください。

あれからもう20年か。

私はシートベルトをしめると、窓の外を眺める。

夜の湿気をかき分けるように進むタクシーは志野駅を目指している。

私はもう一度行きたい場所について考えたが、いくら考えても行きたい場所は見つからなかった。

本当に行きたい場所を伝えない私は、本当の乗客ではない。

20年前と同じに、私のタクシーごっこはまだ続いている。

 

 

今日のニュース

レストラン経営者が苦情を訴えた観光客に激怒。車に飛び乗りフロントガラスをたたき割る

ウルカはデュビアを2匹

鉄の森

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おはようウルカ。

 

鉄骨が空を区切っている。

鉄の枝を掴むと錆びた鉄の皮が手に刺さる。

あと、熱い。

 

 

今日のニュース

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頭にブラウン管テレビを被った男が、民家の軒先に旧型テレビを次々と置いていく不可解な事案が発生

ウルカはデュビアを1匹

言葉の整理

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おはようウルカ。

 

今日は仕事をしない日だ。

仕事をしない日を休む日、つまり休日と呼ぶと、なんだか一日中休んでしまう。

言葉の力はなかなか強いね。

気持ちを具体化する道具として言葉を手にいれたけど、今では言葉を気持ちで具体化している。

ウルカ、お前は気持ちを行動で具体化する。

行動を気持ちで具体化することもあるのか?

 

それはさておき何処かへ出かけたいのだけど、こう暑くては部屋から出る気になれん。

窓の外では見慣れた屋根や電線が太陽に焼かれている。

テレビのチャンネルを変えるように窓の外の景色を変えられたら少しは気分がマシなのにな。

自転車の代わりにゾウガメに乗る地域があったら旅行で訪れたいな。

それから炒飯が食いたい。

瓶ビールはキリンラガーで。

よし、休んでる場合じゃねえな、まずはソファから起き上がることから始めよう。

俺は、ソファから、起き上がる。

 

 

今日のニュース

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