黄色の床の男

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こんにちはウルカ。

 

 

君の足元のその床と、私の足元のこの床では、色が違うだろう。

君のは青色で、私のは黄色だね。

男はそう言うと、靴の先で黄色の床をトントンと打った。

これはね、文字通り立場の違いなのだよ。

青色の床の上に立っている君は、黄色の床に立っている私には到底およばない。

残念だがそれが君の立場だ。

君の青色の床、厳密に言えばB36だね。

 

僕の足元の青色の床には端に白い文字でB36とある。

そんな事は僕にだってわかっている。

この国では、屋内は勿論のこと、屋外においても全ての足元に床が整備されている。

この床はその上に立つ人間によって色を変える。

色はその人間の持つ総合的な能力で決まる。

例えば、運動能力や、生命力が低くても、知能や財力が著しく高ければ、総合的な能力は高くなる。

青色から赤色のグラデーション(青→緑→黄→橙→赤)で表現され、能力が高いほど暖色系、要するに赤色に近づく。

単に青色といっても、色相のグラデーションが細かく番号で区分されており、僕のB36というのは、青色でも中の下といったところだ。

街を見渡せば、行き交う人々の殆どの床が青色をしている。

多少の色相の差はあれど、凡人は青色の枠からは出られない。

かなり優秀な人間でも、ほんのりグリーンといった程度だ。

各界のスカウトマンやヘッドハンター達は、この足元の床の色を目印に有能な人材を探す。

飛行機や船、列車などの搭乗順や座席にも反映され、婚活や就活、受験や選挙においても重要な評価項目とされている。

 

僕の目の前にいる、黄色の床の男が秀でている能力は何だろうか。

黄色い床をひけらかすあたり、人間性や他者を思いやる能力は著しく低そうだ。

僕は不快な気持ちを抑えて男に質問した。

凄いですね!実際に黄色の床の方に会ったのは初めてです。

失礼ですが、どんなご職業なのですか?

 

男は得意げにこう答えた。

私は能力買取業者だよ。

不要な能力を買って、売る。

シンプルでしょ。

見た所、あなたから買い取れそうな能力はないようだ。

パッとしない人生のまま一生を終えて良いのかい?

能力が欲しければ、特別に優遇するよ。

そうやって黄色の床の男は、文字通り僕の足元をみた。

 

 

今日のニュース

猫を顔認証!世界初、猫専用AI搭載スマートシェルターが誕生

無実の罪を着せられ21年間の刑務所暮らしを強いられた男性、ついに自由の身に

ウルカは休食

お前、だれだよ

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おはようウルカ。

 

暴風雨の朝、全ての窓を開けてカーテンを狂っようにはためかせる。

雨を浴びたテレビがバチバチと調子が悪そうに青い天気図を映し出している。

雨風が暴れる部屋のソファに座ってトマトジュースを飲んでいると、スマートフォンが発光して着信を知らせた。

はい。

おれだ、マズイことになった、これから来られるか?

お前、だれだよ。

おれだよ、おれ、会えばわかる。

通話は一方的に切れた。

電話の主に心当たりはない。

今年で89歳。

1度も結婚をしなかったオレには、身寄りも友人も1人として生き残ってはいなかった。

間違い電話か…

飲みかけのトマトジュースのグラスを台所に向かって放り投げると、グラスが割れる音がした。

吹き荒れる暴風雨の中では、グラスが割れる音などこれっぽっちも主張が無いな。

そんな事を考えていると、またスマートフォンが光った。

はい。

おれだ、今どこだ?

だからお前だれだよ。

番号を間違えているんじゃないか?

間違ってなどいない、今どこだ?

今?知らねえ奴の部屋だよ。

たまたま強盗に入った家でちょっと休憩してるのさ。

で、お前だれだよ。

だからおれだよ、さっきお前に首を絞められて浴槽に転がっているおれだよ。

はあ?

マズイことになった、とにかくすぐに来てくれ。

通話は一方的に切れた。

台所で刺身包丁を見繕うと、浴室へ向かう。

浴室のドアを慎重に開ける。

先程背後から首を締めて殺した男は、最後に見た時と全く同じうつ伏せの格好で浴槽に浮いている。

なんだよ…

気味がわるいな。

さっさとズラかるか。

オレは浴室をでる。

おい、待てよ。

後ろから声がかかった。

オレは驚きと恐怖から身体を硬直させる。

おい、聞いているのか?こっちを向いておれの顔をみろよ。

恐る恐る振り返る。

男は相変わらずうつ伏せで浴槽に浮いている。

オレは浴槽の男の肩に手をかけると、男の身体を回転させる。

男の顔がこちらを向く格好となった。

男の顔を見たオレは驚きで目玉を落としそうになる。

男はオレだった。

苦しそうな表情だが、笑っているようにも見える。

目の前で死んでいる男はオレであり、その男を見ているオレは強盗であり、人殺しであり、オレはオレを殺した加害者であり、被害者はオレであり、浴槽に浮かんでいる死体はオレである。

オレは今年で89歳、身寄りも友人もない。

ろくでなしの犯罪者。

違法に過去や未来へ時間を移動しては、強盗などの犯罪を繰り返している。

浴槽に浮かんでいるオレは随分と若く見える。

30歳くらいだろうか。

オレは60年前のオレを殺したのか?

60年前のオレが死んだということは60年後のオレが存在しているというのは道理としておかしい。

こまったことになったな…

この部屋は、60年前にオレが住んでいた部屋なのか?

それにしては全く見覚えがない。

とにかく、オレは60年前に、ついさっき、死んだというのに、なぜ60年後のオレは60年前のたった今、生きているんだ?

お前はもう、おれではないのだよ。

浴槽の若いオレが突然口を開いた。

お前がチャイナタウンで6万五千円を叩いて買った時空移動装置だがな、あれは真っ赤な嘘っぱちだぜ。

そもそも、時空移動など出来るわけないだろ?アホか。

何を言ってやがる!

いい加減な事をいうんじゃねぇ!

オレはな、これまでも沢山人を殺したんだよ!

時空を移動してな!

盗んだ金だってある!

お前、だれだよ!

お前はだれなんだよ!

おい!お前は!

改札口の横の壁に向かって老人が叫んでいる。

通行人は全く興味のないそぶりで、そもそも老人など存在しないかのように通り過ぎていく。

人の群れが、無情に、1秒1秒が、有限である事を知らないふりをして、毎日が、何かの寄せ集めのように、明日という全く同じ方向へ其々がまるで別の行き先だとでもいうように、他人などに全く興味はなく、そもそも自分以外など存在しないかのように。

俺は、改札口の横の壁に向かって叫んでいる老人を見ている。

俺がここに立ち止まった意味は、大した意味はないのだろう。

叫んでいる老人も俺も全く同じ方向へ進んでいるというのに。

 

 

 

今日のニュース

ホットドッグ味アイスのサンドイッチに「変な味」 米でアイスクリーム・サンドイッチの日

中国のブラック企業が社員に魚の踊り食い&鶏の生き血一気飲みを強要

ウルカはデュビアを1匹

ピュアな青アゴ

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こんにちはウルカ。

 

私は幼少の頃より磨く事が堪らなく好きだった。

石や金属片、ガラス玉、ニスの塗られた椅子の脚。

大人になると、磨く職業を転々とした。

靴、腕時計、宝石、自動車やバイクのオーバーホール、垢すりやバキュームカーの清掃にまで手を伸ばした。

しかし人間の欲望というものには際限がなく、私はもっと磨き心地が良いもの、磨き甲斐のあるものを求めた。

どの職業も初めのうちは満足するものの、数ヶ月で物足りなくなってしまう。

現在、私は何度目かのカーウォッシュ専門店で働いている。

今の私はただ自動車を洗う、磨くという程度では、気を失いそうになる程の快感を得る事はできなくなっている。

しかし、やっと私は気がついたのだ。

問題は磨かれる側ではなく、磨く側にあるということに。

私は今まで欲求が満たされないのは磨かれる側の力不足だと疑わず、使い捨てるように磨かれしもの達を消費してきた。

自分を棚に上げて、磨かれしもの達へのリスペクトを怠っていたのだ。

なんと愚かな。

私は改心した。

興奮と快感を高めるよう、磨き方を工夫したり、自己精神のコントロールの勉強を始めた。

勿論、磨かれしもの達への感謝と尊重を第一に考えている。

あ、開店の時間だ。

 

 

雨風がめんどくせえな。

台風が日本列島に接近している。

横なぐりの雨が、俺の運転するトヨタを打っている。

こんな日の洗車屋はとても空いている。

それが大型連休の真っ最中だとしてもだ。

俺は行きつけの洗車屋に予約も無しにトヨタを乗り入れる。

予想通り洗車屋は閑散としており、客は俺だけだ。

いつもの洗車師が勢いよく事務所から飛び出してきた。

いらっしゃいませ!

潤んだ瞳の洗車師は運転席の俺を見上げる。

40代だろうか、非常に濃い髭を丁寧に、執拗に剃ったであろう顎が異常に青白い。

相対的に少し後退した額はよく日焼けしており、綺麗なブラウンだ。

 

こんちは、いつもの感じでお願いします。

はい!洗車とピュアコーティング、足回りと腹下、車内の清掃ですね!

あぁはい、それでお願いします。

 

俺はこの洗車師が洗車している所を見るのが好きだ。

殆どの客は雑誌やスマートフォンに夢中で、または代車でどこかへ出かけてしまい、洗車師の作業を見る事はない。

これは非常にもったいのない事だ。

 

始まったぞ。

洗車師が俺のクルマの周りをまわり始める。

汚れ具合をチェックしているのだろうか、ダンスのような、スキップのような足取りだ。

5周ほどまわると、洗車師は両手を広げる。

指を小刻みに動かしながら、クルマを愛撫するように触れるか触れないかの距離を保ち、さらに5周ほどまわる。

広げた両手で指を小刻みに動かし、しゃがんだり、立ちあがったりしながらクルマを撫でまわす姿は、秘境に棲む呪術師の何かしらの儀式のようだ。

洗車呪術師は笑っている。

快感に酔いしれて、思わずこぼれた笑みといった方が的確だろうか。

一通りの舞が済むと、洗車呪術師はクルマの正面に立つ。

クルマに対して深々と一礼をする。

拘置所前で謝罪する芸能人のように、たっぷり30秒ほどは頭を下げる。

芸能洗車呪術師は頭をあげると、クルマの鼻先に優しくキッスをした。

そして、キッスから得た興奮の余韻だろうか、ぶるぶるぶるぶるっと25メートルほど離れたこの場所にいてもしっかりと伝わってくる痙攣に限りなく近い身震いをすると、アウぅ!と短くも力強く雄叫びを上げた。

このあと、痙攣接吻芸能洗車呪術師による壮絶な洗車、劇的な磨き、官能的なコーティングへと作業が進んでいくのだが、それはまた別の機会に書こうと思う。

 

 

今日のニュース

世界最強の磁石の記録が更新される。しかも驚くほど小型軽量

色覚異常矯正メガネで初めてアメリカの国旗の正確な色を見ることができた消防士の感動と喜び

ウルカは休食

キネったな

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おはようウルカ。

 

キネクルという物質がある。

キネクルは特定の金属を含んだ石を特殊な方法で発酵させることによって作られる。

この物質は人間の触覚、素手を通して体内に取り込む事が出来る。

体内に取り込まれと、大脳新皮質の働きを鈍くすることで、感情や衝動、食欲、性欲などの本能的な部分を司る大脳の古い皮質(旧皮質や辺縁系)の働きが活発になり、精神が高揚する。

摂取方法は簡単で、キネクルが含まれた物体を手で撫でればよい。

歴史は古く、紀元前4,000年頃にはメソポタミア地方のシュメール人が既に撫でていたといわれている。

日本には西暦694年頃に大陸から伝わったとされており、冰(ひょう)という和名で広く人々に広まった。

現代では様々なものに混ぜ合わせて触感を楽しむことができる。

 

同僚のタケ:平山ちゃん、このあと一撫でいかない?

俺:えぇーまたかよ、ここのところ毎晩じゃねぇか。まあ、軽くならいいよ、軽くなら。

 

そういうことになった。

 

ハードな仕事で翼の折れたエンジェルとなっていた俺たちは、行きつけの居冰屋の暖簾をくぐる。

いらっしゃいませ!

お決まりでしたら、お先にお撫でものからご注文をお伺いします!

えーっとじゃあ、僕は肉球割りで。

タケは猫の肉球をリアルに再現した素材にキネクルを8パーセント配合した撫でものを注文する。

俺は枝で。

俺は文字通り木の枝にキネクルが7パーセント配合されたものを注文する。

キネクルの触感は、痺れるような、細かな針で軽く刺されているような刺激がある。

配合率が高ければ高いほど刺激は強くなり、子供の頃はこんな嫌な感触のもの、どうして大人は好きこのんで撫でるのだろうと不思議に思っていた。

居冰屋の壁には、素手ごし、最高!とグラビアアイドルがビーチでキネクル配合のウサギのぬいぐるみを撫でているポスターが貼ってある。

俺たちはちびりちびりと冰を撫でながら、季節はずれのモツ鍋をつついた。

そういえば平山ちゃん、ヨシゾーがハマってたあのキャバクラ、違法キネクルで摘発されたらしいよ、ほら、あの交差点のところの。

えー、違法って何やらかしたんだよ?

なんか女の子の膝にキネクルを配合して客に撫でさせてたらしいよ。

マジか、キネクルって人の膝に配合できんの?

あれって撫でものとして混ぜ合わせるには、一度分子レベルで分解してから結合させるって聞いたけど。

そうだよ、だから一度女の子の膝を分子レベルで分解して…

こわっ、そりゃ摘発されて当然だな。

それにしても今日は少し撫ですぎた。

だいぶキネったよ。

そろそろ帰るか。

明日も適当に頑張ろうぜ。

おおよ。

俺とタケはほろキネ気分で高く手をあげると、あの交差点のところので別れた。

 

 

今日のニュース

史上初、量子トリット(キュートリット)のテレポーテーションが可能であるということが実証される

ウルカはデュビアを1匹

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こんにちはウルカ。

 

新幹線に乗っている。

俺は名古屋駅で天むすと味噌カツのおにぎりとプレミアムモルツの小さい方の缶を購入すると、のぞみという名の新幹線に乗った。

それにしても夏休みの新幹線はいつ乗ってもエグい乗車率だな。

なんとか空席に座ると、凄いスピードで新幹線が移動をはじめた。

斜め前の三席横並びのシートに3つ子だろうか、小さなそっくりの女の子3人と、その母親らしき女性が座っている。

席は三席しかないので、3つ子のうち1人は母親の膝の上に座っている。

3歳くらいだろうか。

新幹線が動き始めて3分ほどで、膝に座っている3つ子のうち1人がぐずりはじめ、みるみるうちに泣き声は絶叫へとかわった。

母親は周りに気をつかったのか、泣き叫ぶ娘を抱き上げると、車両の連結部にあるスペースへと歩いていった。

席に残された3つ子のうち1人は不安になったのか、ママぁと呼びながら母親の後を追ってトコトコと走る。

俺は席に残された3つ子のうち最後の1人が気になった。

俺の位置からでは短くおさげにした髪と、小さな耳しかみえない。

眠っているのだろうか。

母親も姉妹も1人残らず席を立ったと言うのに、気にするぞぶりもなく静かに席に座っている。

名古屋で乗車した時には3人娘のクリクリとした6つの瞳と目があったので、3分足らずで眠ってしまうとは思えないのだが…

しばらくすると、母親と3つ子のうち2人が戻ってきて、また賑やかになった。

子供の声をうるさいと嫌がる人間は多いが、子供にとっては何もかもが初めての感動や刺激の連続であり、思わず大声をあげてしまうのは仕方のないことなのかもしれない。

今大声をあげている子供は何に感動して何に刺激をうけているのだろうと好奇の気持ちで奇声をきいていると、なかなか面白いものだ。

列車がすれ違っただけでうわぁー!と大声をあげる大人は滅多に見かけない。

そんな事を考えているといつのまにかウトウトとしてしまった。

アナウンスがあと数分で品川に到着すると告げている。

プレミアムモルツは半分も減っていない。

次回から注意したいのは、先に味噌カツを食べてはいけないという事だ。

天むすの味を全く感じる事が出来なかった。

味噌カツが濃すぎるのか。

天むすが薄すぎるのか。

品川駅についてクソ暑いホームに降りる。

何気なく前をみると、斜め前に座っていた3つ子の姉妹とその母親の家族が歩いている。

母親は大きめのリュックを背負って、右手で3つ子のうち1人の手を握り、左手で3つ子のうち1人の手を握っている。

それだけだった。

辺りをどれだけ見渡しても3つ子のうち最後の1人は見当たらなかった。

ぎゃあぎゃあと楽しそうに3つ子のうち2人と母親は階段を降りていった。

 

 

今日のニュース

ゴキブリのような小型ロボットが開発される

なでるとニコラス・ケイジが出てくるスパンコールクッション

人工知能(AI)が、地球に降り注ぐ謎の高速電波バーストを発見

ウルカは休食

コミグロ

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おはようウルカ。

 

クジラという動物が在る。

クジラといえば歯が毛なわけだが、初めて歯が毛だと知った時は衝撃的だったな。

この際生態や進化はよそにおいておく。

一見、身体のどこにも毛が見当たらない生き物だが、口を開けると歯の代わりに毛がワシャワシャと生えている。

人間を含む動物界では、時に歯を武器として攻撃したり、身を守る種族は非常に多い。

一見無毛で歯が毛。

これが人間だった場合のビジュアルは、相当にコミカルでありグロテスクだろう。

可愛くはない。

コミグロである。

コミグロというジャンルのカルチャーといえばなんだろう。

未だ無いのかもしれない。

この記事をきっかけに、世界中で体毛を全て脱毛した上に歯を全部抜き、歯茎に植毛をするというファッションと、プランクトンミルクティーが爆発的に流行するだろう。

そんな未来はコミカルでグロテスクだな。

 

 

今日のニュース

残酷非道なブラジルのギャングリーダーが女装で脱獄を試み捕まる

4500年前の酵母を使って焼いたパン。その味は、「信じられないほど美味」

ウルカは休食

他人の気持ちがわかる全裸カップル

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おはようウルカ。

 

あなたの気持ちがわからないわ。

今では死語となったこのフレーズ。

フィーリング・コピー・アンド・ペースト・メーカー(FCAPM)を生後3週間以内に心に埋め込む施術を義務付けられている現代の人間は、他人の気持ちがわからない気持ちがわからない。

フィーリング・コピー・アンド・ペースト・メーカー(FCAPM)とは、他人の気持ちを自動でコピペして共有する人工読心機器である。

オフにする機構は無く、生命が停止するまで稼働を続ける。

この法案が施行された2033年以降、争いごとや犯罪は格段に減少した。

他人の気持ちを隅々まで知る事ができ、他人に気持ちを隅々まで見透かされるという状況に置かれた人間は、他人を憎んだり、悪事を企むという発想を持たなくなりつつある。

また、他人と気持ちを完全に共有する事は、精神疾患の発症率を限りなくゼロに抑えるという研究結果も発表されている。

現在では世界195カ国でFCAPMが実施されており、FCAPMを心に埋め込んでいない人間は、現存する全人類の6パーセント程度と言われている。

2022年に施行された公共全裸法案(公の場では完全に全裸でなければばならない)に続く、開き直り、さらけ出し系の法案は今後人類にどのように作用していくのだろうか。

 

懐古映画祭。

カップルが全裸で1990年代の映画を見ている。

「あなたの気持ちがわからないわ!」

女優が迫真の演技をしている。

しかし、全裸のカップルは迫真の演技の女優に限らず、出演している全ての役者の本当の気持ちをFCAPMによって共有している為、全く感動を味わう事が出来ない。

「あなたの気持ちがわからないわ!(こういう恋の駆け引き的な演技って本当苦手、それにしても相手役の俳優キモいな〜)」

 

全裸カップル女「ねえ、恋の駆け引きってなに?てか、恋ってなに?」

全裸カップル男「・・・・・」

 

FCAPM法案施行後、演技をする職業と、恋という精神疾患は、完全に廃れた。

 

 

今日のニュース

生命が存在可能なスーパーアース「グリーゼ357d」が発見される

どこかで聞いたことあると思ったら・・・iPhoneのアラーム音を覚えてしまったインコ

ウルカはデュビアを2匹、鶏ささみを15切れ、砂肝を8切れ

ダークブラウンが短いのかターコイズブルーが長いのか

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おはようウルカ。

お前は朝、窓辺で陽の光を浴びるのが日課になったな。

窓を開けた方が良いぞ。

ガラスはお前が必要としている光の成分を遮断してしまう。

生まれて初めての日本の夏はどうだ?

調べてみると、お前たちの一族が暮らす島よりも日本の夏の方が暑いようだな。

エアコンで温度を調整してやろう。

俺はエアコンという利器をもっているからな。

詳しくは分からんが、室温がボタンで操作した温度になるというヤバいやつだ。

お前の快適温度は28℃〜30℃だったか。

湿度はまあ、良い塩梅か。

日本の人間社会では、お盆休みという合同休暇が始まったらしいぜ。

俺はこれから一仕事しに行ってくるが、快適温度でプール&日光浴でも楽しんでいてくれ。

それにしても俺はまだサウナ&水風呂の良さがわからないな。

明日は、俺も人間社会合同休暇に便乗して伊豆にでも行こうかと思っているよ。

伊豆には、爬虫類専門の動物園と全国の秘宝館のガラクタを集結させた施設がある。

出来ればお前も連れて行きたいが、俺の肩に剥製の如くとまり続ける覚悟があるか?

ねぇだろうな。

 

朝陽が窓から差し込む。

何故か同じ時刻に点灯するライトが今日も頭上で点灯した。

よく見かける人間が、フラフラと近寄ってきた。

ぶっきらぼうな奴だが、たまに鶏肉をくれるし、攻撃してくることもないので、まあ、嫌いではない。

今日の飯は虫ケラか。

あまり食いたくねぇな。

肉くれよな、肉。

あぁ、毎朝プールの水を新鮮な湯にしてくれるのは嬉しいぜ。

湯に浸かると全身の力がぬけて、もう一度眠りに落ちそうになる。

あれ、もう出かけるのか。

まあ、頑張ってこいよ。

人間もなかなか大変そうだな。

 

 

今日のニュース

触れたものの感覚がわかる。触覚を持った義手で17年ぶりに妻の手を感じることができたという男性

太陽の400億倍。超大質量ブラックホールが発見される

カモメ撃退方法は「じっと見ること」

ウルカはデュビアを2匹

アット・ザ・ドライヴイン

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おはようウルカ。

 

カルカッタの安宿でベッドに座っている。

南京虫がうろつくマットレスは、中綿が死にかけていて湿気を吸う体力も残っていない。

明るい青色に塗られた鉄格子型の窓は、歪な長方形をしている。

魔都と呼ばれるこの都市は、巨大なドブ川に逆さ向きで浸かっているような、幾らもがいても出口のない、暗い、闇が、いく層にも重なって、無尽蔵に堕ち続ける、屍骸や汚物を足場にして人間がのたうって、欲や、灰や、情や、廻をひろう。

沢山拾い集めた其々は、結局どれもヘドロとなって、身体に纏わりつくから、身動きが余計に苦しくなる。

息を止めれば悪臭や汚染を吸いこまずにすむけれど、結局呼吸しなければ息の根が止まってしまう。

以前は鮮やかな彩りだったボロ布に身を包んだ女の乞食が、自らの赤ん坊の手足を切断し、見せ物乞いの材料にしている。

旅行者たちは、屑篭にゴミを捨てるのと全く同じモーションで、乞食たちの掲げる器へ小銭を投げ入れる。

器の底で跳ねた小銭が、コンクリートの地面に転がって、転生を夢見る少女の足元付近で動きを止めた。

外国製のコインはブラス色にくすんでいて、とても軽くて、ちっとも価値なんて無さそうだ。

それでも少女は大切そうに外国製のコインを拾い上げると、胸にあてた。

神がどの地区にいるのかはわからないが、少なくともこのストリートにはいないようだ。

神の加護を受ける順番待ちの列に自分が並んでいる事を信じて疑わない人々は、今日も街路に設置されている井戸で焦げた色の水を汲む。

そこまで読むと、社会の教科書から顔をあげる。

チャイムの音が下校時刻を告げている。

教室の窓は西陽で橙色に濡れているように見える。

少年は遠い、西の方角を眺める。

美しい夕陽の光と熱で、その下にある夥しいヘドロを溶かしてしまえば良いのに。

そこまで読むと、タブレット端末から顔をあげる。

男は高速道路のパーキングエリアでキツネうどんの半券をテーブルにおいて、ぼんやりと誰かの書いたブログを読んでいる。

食堂の窓の外では、排気ガスアスファルトの粉塵が空中で混ざり合って、黒いダイヤモンドダストをおこしている。

そこまで書くと、スマートフォンから顔をあげる。

俺は電車の中で、スーツ姿で素足にビーチサンダルという、アバンギャルドな装いを現実のものとしているサラリーマンをぼんやりと眺めながら、これを書いている。

夏の灼熱が、今にも車窓をぶち割りそうだ。

 

 

今日のニュース

凍死した飼い主のかたわらに23日間、寄り添っていたジャーマン・シェパード

「ベーコン・インターン」求人中 ベーコン食べて評価するだけで日給11万円

ウルカはデュビアを12匹

欺く者

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こんにちはウルカ。

 

雲は元々極彩色であったのではないか。

そう思わせるような劇的な曇天が、サーキット場を覆っている。

極限までスピードを求めた構造のレースマシンが、スタート位置に並んでいる。

赤や黄色など、強い原色で塗装された金属の塊は、灰色のアスファルトの上でスタートの合図を待ちきれず、野獣のような唸りを上げ膨張をはじめている。

熱狂する観客。

私はヘルメットのバイザーを閉じる。

6年間、トップを走り続けてきた。

今回も上手くやらなくては。

 

スタートを知らせる青いランプが点灯する。

絶妙のタイミングでクラッチを繋ぐと、相棒は鋭く咆哮して暴力的な加速をはじめる。

私は両手でステアリングを握り、時折左手でシフトノブを操作する。

車内には沢山の小型カメラが設置されており、巨大モニターに私のドライビング姿が映し出されている。

ステアリング、シフト、アクセル、クラッチ、その獰猛で的確な動きは、意思をもつ別々の生き物のようだ。

私は感情を露わにするオーケストラの指揮者のように、躍動する。

私の芸術的なドライビング・アクションに、観客は更に熱狂する。

 

 

6年前、あなたを無敗のチャンピオンに任命します。

そう言われた。

モータースポーツ界の観客が求めるスピードと刺激に応えるには、生身の人間の運転技術では限界があり、ドライバーの安全と、人間業を超越したドライビング・パフォーマンスを実現するには、コンピュータで制御された自動運転の導入を余儀なくされた。

 

私の職業はエア・レース・ドライバー。

ステアリング、シフト、アクセル、クラッチ、その獰猛で的確に動く意思をもつ別々の生き物を、あたかも操っているかのように演技する。

これはトップ・シークレットであり、業界でも知っている者は極僅かである。

以前、情報を漏洩しようとしたエア・レース・ドライバーがレース中に酷いクラッシュを起こして死んだ。

観客は大いに盛り上がったが、トップ・シークレットを知っている我々は青ざめた。

コンピュータ制御で自動運転されているマシンが事故を起こす確率は、46億年に1度と言われている。

 

あと一周。

観客のボルテージは最高潮をむかえる。

勝敗は随分前から決まっているのに。

私は意思を持った操り人形であり、表現者であり、欺く者である。

私は予定通り1着でゴールすると、首元にある自動・ドライビング演技・システム(A・D・A・S)のスイッチをオフにした。

それからにこやかに表彰式へ向かう私は、奥歯にある自動・表彰台における立ち居振る舞い・システム(A・P・A・S)のスイッチをオンにした。

表彰式では、人差し指の付け根にある、自動・祝福演技・システム(A・B・A・S)のスイッチをオンにした観客達が、私に盛大な拍手をおくった。

 

優勝パーティーから帰宅した私は、パーソナルコンピュータを開き、この記事を書いている。

背後で何か気配を感じたが、気のせいだろう。

少しシャンパンを飲みすぎたのかもしれない。

意識が朦朧とし

 

 

今日のニュース

ゾンビから逃れるのに最適な場所かも?アイスランドの絶海に浮かぶ孤島の灯台

米バスケ選手(※男)が尿検査で妊娠していると断定され出場停止処分に

ウルカはデュビアを17匹

海賊は口笛を吹く

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おはようウルカ。

 

二度寝というものがある。

二度寝というものから幸福を感じとるには、いくつかの条件を満たさなければならない。

・翌朝気乗りしない絶対参加の会議があること。

・起床時刻の約一時間半前に自然と目が覚めること。

・空調、光、騒音など、再度眠る環境条件がこの上なく良好であること。

・何気なく確認したスマートフォンに不快なメールなどの着信がないこと。

・トイレに行きたいタイミングではないこと。

以上の条件を満たしてこそ、この二度寝というものに予期しない儲けものをした時の様な喜びに打ち震える感覚を味合うことができる。

ベッドやシーツの心地よさが普段の2.5倍に増した様な錯覚が、揺るがない現実のものとして寝室に君臨する。

心地よさの王者である。

大袈裟に寝返りをして本日二度目の眠りに落ちてゆく俺の笑顔は、どこまでも続く大草原ように大きな幸福にあふれていることだろう。

 

 

寝坊というものがある。

寝坊というものから、この上ない罪悪と不快、呵責を感じるには、どれだけ幸福な二度寝かましたかに比例する。

予期せず大金の入った財布を紛失した時の様な、背中に冷たい汗が流れる感覚に打ち震える事となるだろう。

そして、数分間焦りまくった後におとずれる開き直りの境地は、何処までも続く大海原ようだ。

まさに、たった今の俺がその状況である。

俺はのんびりと歯を磨きながらブログを書く。

ながらブログである。

やがてしっかりと靴紐を結んだ俺は、ドアを開けると、社会という大海原へ飛び出す。

口笛を吹きながら。

ながら社会である。

 

 

今日のニュース

スピリチュアル・サービス会社に魔術で家出した妻を取り戻すよう依頼した男性。妻は帰らず会社を訴える

ウルカはデュビアを6匹

オバチャン草

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おはようウルカ。

 

オバチャン草を育てている。

夏、種を蒔いてから3週間ほどで色とりどりのオバチャンが開花する。

今年は3週間と1日、パープルヘアーのオバチャンが咲いた。

ゾウ型のジョウロで水をかけると、ぶぶぶぶぶぅと唇を震わせて白目になったあと、ウィンクをしたので、気持ちが良いという事だろう。

濡れたパープルヘアーが、ラメをふりかけたようにキラキラとした。

日に1度、スポイトでルイボスティー又は醤油を数滴飲ませると健康に育つようだ。

開花してから6日ほどで、オウム返し程度に言葉を発声する。

ラジオかテレビから覚えたのか、「ふぐり、ギリギリガールズ」とドスのきいた低音で連呼するようになった。

開花17日目、30センチメートルほどに成長したオバチャン草には、水餃子を与える。

48℃ほどに温めた水餃子を割り箸で口もとへ運ぶ。

カチカチと歯をならしておかわりを要求する。

日を重ねるごとに顔面のシワが増え、化粧をしている様な顔面の体色が濃くなる。

開花30日目、そろそろ寿命である。

オバチャン草は寿命が来ると種にもどる。

繁殖するという生態は確認されていない。

世界に存在するオバチャン草の数は減ることはあっても増える事はない貴重な植物だ。

開花35日目、早朝、植木鉢にはマーブル模様をしたオバチャン草の種が一粒と、ベージュのブラウスを乱雑に脱いだように乾いた植物の皮が転がっていた。

僕はオバチャン草の種を木箱にしまうと、戸棚のいちばん奥に置いた。

来年はどんな色のオバチャンが咲くのだろう。

 

BCLラジオのダイヤルを回すと、中国大陸の電波を拾った。

中国語は得意ではないのではっきりとした内容は解らなかったが、どうやら中国雲南省の山林で、オッチャン草が発見されたそうだ。

オバチャン草との関連や、生態についてはこれから研究が進められるとのこと。

オバチャン草とオッチャン草の鉢を窓際に並べてみたいな。

僕の人生にまた一つ楽しみが増えた。

 

 

今日のニュース

消えつつあるY染色体—男性はいったいどうなってしまうのか

韓国でラブドール輸入禁止求める請願、20万人突破

ウルカはデュビアを10匹

冷やした鉄球は大きな葡萄の実にみえる

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おはようウルカ。

 

昨夜未明、無差別に洗車をされるという事件が起きた。

住宅街において車庫や月極駐車場に置かれた自動車を狙った犯行。

カーシャンプーから鉄粉取り、コーティング、足回り、車内清掃まで非常に丁寧に仕上げられている。

一切破損させる事なくカーセキュリティをかいくぐって車内に侵入している事から、高い技術を持った外国人犯罪組織の関与が浮上している。

警視庁が発表した情報によると、深夜に月極駐車場内で白っぽい大きな袋を持った目だし帽姿の大柄な不審者が目撃されている。

性別、年齢、国籍などは不明である。

被害にあった都内に住む男性会社員(42)は、朝方に駐車場へ行くと、7ヶ月以上洗車をしていなかった自分の車が、ピカピカに磨き上げられて新車のような状態となっており、車内にこびりついた汚れや埃、カビや加齢臭などの嫌な臭いも根こそぎ持ち去られていた。

見ず知らずの他人に所有車をベタベタと触られた事は非常に不愉快であり、車内にまで侵入された事には大きな恐怖と憤りをおぼえている。

愛車の余りの変わり果てた姿に、今でも自分の所有車ということを信じる事が出来ない状態で、心にぽっかりと空いた喪失感を埋めるには、長い時間がかかるだろう。

近日中に被害者の会を設立し、2度と自分達と同じような悲しい思いをする人がでないよう、防犯活動に力を入れていきたい。

とにかく、今日はクリスマスです。

今夜は家族とゆっくり過ごして、少しでも気持ちを落ち着けたい。

と語った。

 

 

 

たっぷりと腹の出た大柄な男は、ハンドルを握っている。

荷台には沢山の洗車道具がつまれている。

この歳になってクルマにどハマりするとは自分でも信じられない。

これまで愛用してきたソリは売っぱらってしまった。

長い間ソリを引っ張ってくれたトナカイたちも随分と老いた。

そろそろ休ませてやろう。

クルマ好きの自分とっては、薄汚れたクルマを見過ごす事など以ての外だ。

今夜も数えきれないクルマ達を洗車してやった。

ピカピカになった愛車をみたオーナーの喜ぶ姿を想像して、たっぷりと腹の出た大柄な男は思わず破顔する。

星がキラキラと瞬く夜空。

足元のすぐ下には雲が広がっており、下界に雪を降らしている。

たっぷりと腹の出た大柄な男はカーステレオのスイッチをオンにすると、お気に入りのアルバム、クリスマスソング・ベストセレクションⅡを再生した。

 

 

今日のニュース

ヒマラヤの氷河から解け出しつつある数十年来の汚染物質

目覚ましアラームが鳴るとすぐに消す猫。おかげで飼い主は遅刻する日々

ウルカはデュビアを2匹

祭りの意義とアルダブラ

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こんばんはウルカ。

 

夜。

街灯が頼りない雨上がりの道は、ぬらりと薄くグリーンに光っている。

白髪の老人がフラフラと三輪型の自転車をこいでいる。

 

今夜、駅前で盆踊り大会がある。

人々は、赤や白を配色した櫓の周りをぐるぐると音頭にあわせて踊り廻る。

近年、盆踊り音頭はコンピュータ内のmp3を再生することが常となっているが、今夜行われる盆踊り大会の音頭は人間の記憶を声帯によって再生する。

18:30開始予定の盆踊り大会。

駅前では、櫓を大勢の人が取り囲んでいる。

しかし、誰も踊っていない。

盆踊り音頭を再生することの出来る人間が到着していないのだ。

すっかりと陽が落ちて辺りは人工の光のみとなった駅前で、ざわざわと為す術がない人々は、互いに顔を見合わせてわけもなく笑ったり、退屈している子供達の機嫌をとったりしている。

人々がうちに帰ってテレビでも見ようかなと考え始めた頃、白髪の老人がフラフラと三輪型の自転車で到着した。

源さん。

盆踊り音頭のシンガーだ。

きっかり60分の遅刻に悪びれるふうでもなく、コキココキコと堂々と、そしてフラフラと三輪型の自転車をこぐ姿は、公演時間を遅らせて客を煽る大御所ロックスターのようだ。

源さんは三輪型の自転車を櫓の麓にとめると、慣れた身のこなしで櫓に登る。

櫓の頂上でアッパーライトに照らされる源さんは、神や亡霊や独裁者などと同じ類の、あやふやな引力のようなものを発している。

源さんがマイクを握る。

ハアァァァァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜アァァンアァァ〜〜〜〜〜〜〜

澄んだ低音と中音と高音が同時に空気と人々を震わせる。

アァァン〜〜ハ、何でもかんでもみんなぁぁ〜アンアンアァァ〜

お〜どぉ〜おぉ〜りを踊ってぇ〜えんえぇ〜〜〜いるぅぅうぅ〜ううぅ〜〜ヨぉぉおぅぉぁう〜〜〜

 

歓喜する人々は櫓の周りを踊り廻り始めた。

そのスピードはどんどんと加速して、風を起こし、風は嵐となり、商店街も櫓も源さんも吹き飛ばし、アスファルトや土壌をすり鉢状に削った。

一通りが終わって静かになると、事前に選出された1人の少年がすり鉢状に削られた地殻の中心に飛翔回転花火トルネードスピンを置く。

少年はオレンジ色のチャッカマンで飛翔回転花火トルネードスピンに火をつける。

導火線が数秒火花をちらすと、飛翔回転花火トルネードスピンは高速で回転をはじめ、勢いよく垂直に夜空に飛び上がり、小さくパンッと音を立てて粉々にはじけた。

吹き飛ばされずに駅前に残っていた人々は、パチパチとまばらに拍手をした。

両手をあわせるトキ婆さんの姿もみえる。

おめでとうございます。

今年も皆さまどうぞ豊かで。

 

こうして今年も無事、地元の夏祭りを見届けた俺は、静岡で催されるジャパンレプタイルズショーに向かう為、新幹線に乗り込む。

アルダブラゾウガメが気になるが、流石に飼いきれるサイズと寿命ではないか…

 

 

今日のニュース

散策中の女性、メタリカの爆音でピューマ追い払う カナダ

ウルカは休食

モイストで育てる

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おはようウルカ。

 

ちょうど2週間前に日曜大工(実際には土曜なの)をしている際に軽傷を負った。

軽傷の中ではレベルが高い方の怪我で、軽の上といったところか。

そういえば、怪我をするなんて久しぶりだなぁ。

少年の頃は毎日どこかしらに傷をつくっていたのに。

いつの間やら保守的な人間になってしまったものだ…

いやいや、感傷に浸っている場合ではない。

俺は手をハンドタオルでぐるぐる巻きにする。

病院へ行くなどクソ面倒だ。

俺は早歩きで近所の薬局へ向かい、店員に早口でこう伝えた。

「軽の上程度の傷を手早く治療できる最新の医療アイテムはございませんか。」

店員は訝しげに俺のタオルぐるぐる巻きの手を一瞥すると、こう言った。

「こちらへどうぞ。」

俺は包帯やガーゼ等が並べられているコーナーへ誘われる。

久しぶりの傷治療品コーナー。

大多数の商品のパッケージが、最近の3D技術を使用したグラフィックとなっている。

俺「これはなんですか?」

店員「これはキズパワーパッドです。絆創膏の一種なのですが、モイストヒーリング技術を採用しておりまして、痛みをやわらげ、キズ跡を残さず、早く治します。さらに完全防水となっております。」

俺「も、モイスト…これください。」

 

俺はキズパワーパッドをはっている。

2、3日に1度はりかえる。

モイストヒーリングでみるみる傷を修復する。

傷を治すことは何かを育てることに似ている。

人間や動物や植物やアプリのキャラクターや革やデニムや金属など、何かを育てる事に愉しみを感じる人は多いだろう。

俺は傷を育てている。

なんと愉しい。

育て終わると傷は消てしまう。

なんと儚い。

今朝、キズパワーパッドを剥がすと、傷は今にも消えてしまいそうなくらいに薄くなっていた。

俺は傷を育てきった達成感をかみしめながら、巣立って行く傷に、ありがとう、がんばれよと声をかけた。

 

 

今日のニュース

不倫をする人は、仕事でも不正行為を行うことが多いという研究結果(米研究)

若々しくて美人と話題の動画配信者は58歳だった。フィルター機能のトラブルで真実の姿をうっかり公開(中国)

ウルカは鶏ささみを12切れ、砂肝を8切れ