なければつくれ

f:id:maxm:20190427085615j:image

おはようウルカ。

 

風っておもしろいよな。

忘れがちな空気の存在を実感させてくれる。

 

多少手足を動かす程度では空気の抵抗など殆ど感じない。

では早足に歩いてみるとどうだ。

僅かに空気の抵抗を感じる。

これは自分でつくり出した風だね。

 

颯爽と歩き去る俺の周りには空気の流れが発生して、ネチネチとその場に留まっている者にも爽やかな風を届けることだろう。

 

触れている実感が殆どない空気も、押せば動かすことができるんだな。

 

外にでる。

何処からともなく風が吹いている。

凄い勢いで空気を押している奴がいるのかな。

他人が起こした風じゃなくて、自分で起こした風を感じたいね。

あああ、オートバイ乗りてぇ。

 

仕事するか。

 

今日のウルカはデュビアを11匹

ウルカ、今日もいくぜ

f:id:maxm:20190426081454j:image

おはようウルカ。

 

クルマを運転している。

楽しい。

意味もなく四輪駆動に切り換えてみる。

カーラジオのボリュームを抑えて、エンジンと風の音を聴く。

雨が降りだした。

少し太った気がする。

中央分離帯で排ガスまみれの草木を不憫に思う。

暴飲暴食をひかえよう。

クライアントから真逆の表現に変更したいと連絡が入った。

道が混んでいる。

コンビニに寄って炭酸水を買いたい。

不機嫌そうに犬と散歩する女が横断歩道を渡る。

雨が小降りになって晴れてきた。

真逆の表現か。

撮影からやり直さないと駄目だな。

自転車で登校中の高校生が溌剌としている。

折畳み傘って便利なのだろうか。

カーラジオから好きな曲が流れ始めた。

ボリュームをあげる。

信号が青になった。

ウルカ、今日もいくぜ。

 

今日のウルカはデュビアを16匹。

ラッシュアワーライスシャワー

f:id:maxm:20190425074052j:image

おはようウルカ。

 

どんぶりに、山盛りの白米を左手に持ち、右手には箸代わりの焼いたシシャモを2本。

栗きんとん栗きんとんと連呼しながら満員電車へ飛び乗れ。

ただ連呼するだけではダメだ。

抑揚をつけて、あえて栗の主張をおさえめにしたイントネーションが上級者ってもんだ。

 

ホカホカご飯から立ちのぼる湯気で、密着してくるサラリーマンの眼鏡をくもらせろ。

眼鏡が真っ白にくもるやいなや、自らの鼻にシシャモを頭からつっこめ。

2本ともだ。

 

眼鏡が曇ってシシャモが鼻にブッ刺さった変顔を見れないサラリーマンに、ざまあみろと尻をたたいてみせてやれ。

まあ、それも見えないんだけどな。

 

視界を失ったサラリーマンの耳元で、ライスシャワーをテーマに即興で歌え。

時に優しく、時に激しく、切なさと心強さと。

 

ここまできたら、鼻に突っ込んだシシャモを引き抜いて、サラリーマンにそっと握らせてやれ。

右手と左手に1本づつだ。

妥協するな。

これは漢と漢のぶつかり合いだ。

ヨーソロー!ヨーソロー!

 

 

満員電車。

どこかで、栗きんとん、栗きんとんと連呼する声が聞こえる。

やたらと栗が控えめなイントネーションだ。

ただ連呼しているわけではなく、いやに抑揚がある。

徐々に近づいてきているな。

 

カーブに差し掛かったのか、電車がガクンと揺れた。

次の瞬間、突然視界を奪われた。

真っ白だ。

どんぶりに山盛りの白米が見えた気がしだが、まさか見間違いだろう。

近くでパンパンと尻を叩くような音がしているなと思うやいなや、耳元でライスシャワーをテーマにした歌を時に優しく、時に激しく、切なくも心強く歌いあげられた後、ほんのりと温かい棒状の何かを両手に1本づつ握らされた。

 

 

なあウルカ、世界中で起こる凶悪犯罪やテロ事件が、こんな内容だったら平和と呼べるのかな。

 

 

今日のウルカは休食。

考えない

f:id:maxm:20190424154637j:image

こんにちはウルカ。

 

砂の上を歩いている。

足元だけを見つめて歩いているので、ここが砂浜なのか、砂漠なのか、どの方角に進んでいるのか、わからない。

暑い。

上から照りつけているものは太陽なのか、巨大な電気ストーブなのか、そのどちらでも無いものなのか。

 

歯を、くいしばる。

 

歩給0.52円。

一歩進む毎に0.52円が支給される。

一万歩で5200円。

荷物は持たない。

立ち止まってはならない。

視線を足元から外してはならない。

 

週6日、地面の種類や温度など、異なった環境を足元から視線を外す事なく歩き続けること。

新聞の求人広告で申し込んだ。

何故か歩きはじめる直前と、歩きおわった直後の記憶がない。

毎朝メールで指定された場所へ行きロッカーに荷物を預ける。

いつのまにか歩きはじめており、いつのまにか歩きおわって、朝集合した場所に戻っている。

歩き終わるのが昼頃のときもあれば、真夜中のときもある。

同業の者を見かけた事は無い。

 

もうかれこれ40年続けている。

 

 

こんな仕事があるのであれば、是非やりたいと希望する者が沢山いるのかもしれないな。 

伏し目がちに街を行き交う人々をみて、そんな事を思ったよ。

 

今日のウルカはデュビアを5匹、ササミを15切れ

バスマット雑炊

f:id:maxm:20190423095341j:image

おはようウルカ。

 

降りそそぐ温水を頭から浴びる。

身体を泡だらけにして汗や埃を叩き落したら、フカフカのバスマットに飛びおりて、バリバリのタオルでガシガシと拭く。

これが男のシャワーってもんだ。

 

最近、このフカフカのバスマットに飛びおりる部分に変更があった。

 

珪藻土でてきているバスマットに変えたんだよ。

このバスマットはフカフカどころか木の板のようにカッチカチで、手入れは洗うのではなくヤスリをかけるそうだ。

バスマットって柔らかいものだという俺の常識から大きく逸脱している。

 

利点は尋常ではない吸水力と速乾性。

濡れた足で上に乗ると、水分を吸う力が強過ぎて、足に張り付いてくる。

潤いがどうのとか言っている場合ではない。

 

女性会社員の皆さんには、この珪藻土マットを角砂糖サイズにカットして、ムカつく上司の茶菓子にする事をお勧めする。

口内全ての水分をもっていかれたハゲ野郎は、ハラスメントどころではなくなるだろう。

 

この珪藻土のバスマット、使い慣れるとこれじゃなきゃ感がでてくる。

もはやフカフカのバスマットなど、遠い追憶の彼方である。

 

ウルカ、お前のバスマットはバークチップだけど、水入れに持ち込んで、水入れがバークチップの雑炊みたいなっているぞ。

掃除が大変なんだよ。

控えめにお願いします。

 

今日のウルカは休食

宇宙ステーションの隣で格安に泳ぐ

f:id:maxm:20190422084619j:plain

おはようウルカ。

 

立ち昇る煙りをみている。

角張った白い煙突から真上にむけて吐き出される灰色は、不純な想いのように夜明けの空を濁らせる。

 

ああ、今日はゴミの日だったな。

薄汚れた透明の空は、俺にゴミの回収日を思い出させてくれた。

朝8時を過ぎる頃、薄青緑色の回収車に乗った屈強な男どもが、半透明のゴミ袋を手際よく運んでいく。

女は見たことがない。

ゴミ収集は男社会なのだろうか。

 

隣町にゴミ処理施設があって、一度見学した事がある。

宇宙ステーションみたいで、作業員たちがカッコよかった。

隣には、ゴミを燃やす事で発生した熱を利用した温水市民プールがあって、燃料を提供した市民が格安で泳ぐことができる。

なかなか合理的だね。

 

合理的と言えば、今更ながら太陽光発電が気になる。

俺の生活はかなり電力に依存しており、電力施設が死んだ場合、大きな打撃となる。

個人で所有できる太陽光発電システムは、どのくらいの電力をカバーできるのだろう。

電気会社に頼らない生活は魅力的だ。

 

カーステレオから流れる楽園について唄う歌がなんだかしっくりこない。

変えよう。

 

 

今日のウルカはデュビアを4匹、ササミを15切れ。

蛍をすりこまれる

f:id:maxm:20190421071320j:plain

おはようウルカ。


スマホを失くしたよ。

何処でどう失くしたのか、最後に使ったのはいつなのか、全く記憶にない。

4年くらい使っていたので、愛着から相当ショックを受けるのかと思いきや、何の刺激もなく、探すのも面倒なので、早々に新しいスマホを買いに出かけた。

薄情だな俺は。


これほど毎日使って、生活の必需品となっているのに、全く思い入れがないものって珍しいよな。

いや、そうでもなくて、結構あるのかな。


部屋着、ボサボサ頭でスマホ屋に到着すると、店員のきちっとした服装と対応に面食らった。

今更上着のボタンを一つ二つ留めたところで何も変わらないだろうが、俺は姿勢を出来るだけ正し、ボタンを留めた。


すみません。

スマホ失くしちゃったんで新しいの買いたいんです。

良すぎず中くらいに良いやつください。

と訳の分からない言い方にも丁寧に対応してくれ、サクサクと契約は進む。

閉店時間が迫っているのか、蛍の光が店内のスピーカーから流れはじめた。

これほど人を落ち着かない気持ちにさせる曲もないな。

ゆったりとした楽曲で、人を落ち着かない気持ちにさせるなど、作者も本意ではないだろう。

これが刷り込み効果ってやつか。


そうこうしているうちに俺は新しいスマホを手に入れた。

今まで使っていたスマホは失くしてしまっているので、連絡先や写真などゼロからのスタートだな。

それはそれで清々しいや、最近流行りのミニマル何ちゃらだ。


心機一転スマホを設定しはじめると、クラウドを介して、失くしたはずのスマホのデータや設定が、新しいスマホにしれっと入っていた。

便利な時代だ。

まさにゴーストインザシェルだね。

ん、このフレーズちょっと前にも使った気がするけど、まあ良いか。

先程までの清々しい気持ちは、クラウドの実力を知らなかった恥ずかしさに変わりつつあるが、まあ良いか。

新しいスマホさんよろしくな。



今日のウルカはデュビアを5匹、ササミを15切れ。

クソ人間野郎

f:id:maxm:20190420135255j:image

こんにちはウルカ。

 

朝靄の中を小さな木製のボートが静かに進んでゆく。

使い古されたオールを漕ぐ褐色の肌は、汗と、たっぷりと湿気を含んだ空気で、じっとりと濡れている。

マングローブの林に入ると、無数のスポットライトの様な木漏れ日が、宙に浮かぶ塵をキラキラと浮かび上がらせた。

褐色の肌をした男は、鯰でも釣るつもりなのだろうか。

釣竿と、長い柄のついた網、竹で編まれた目の細かい籠のようなものをボートに積んでいる。

 

男が、オールを漕ぐ手を止めた。

殆ど流れのない水面は、突然停止したボートに戸惑っているかように小さな波を立てだが、また直ぐに静けさを取り戻した。

 

男は右手に釣竿、左手に網を持ち、ボートの中で立ち上がる。

そのまま静止する。

少し離れた場所から聞こえる野鳥のさえずりと、微かに風で葉が揺れる音以外に聞こえるものといえば、男の鼓動くらいだろうか。

額から吹き出した汗が、顎へと集まり、ボートの底にシミをつくる。

ポタポタと滴り落ちる汗が、次の一滴を落とそうとしたその時、男が動いた。

右手の釣竿をしならせると、一気にマングローブの枝にめがけて打ちつけた。

静寂を切り裂く一太刀に、潜んでいた影が水面に向かって跳んだ。

水に落ちた潜んでいた影は、少し間の抜けた泳ぎ方で自らボートに近づく。

マングローブの根と勘違いでもしているのだろうか。

男は左手の網で潜んでいた影を掬うと、手早く竹籠に入れる。

 

竹籠を小脇に抱えて小道を進むと、薄汚れた小屋が見えてきた。

我が家だ。

ドアを開けると、痩せた、不機嫌そうな女が、冷めたスープと待っていた。

おい、とうとう捕まえたぞ!

これは本当に珍しいものだ。

高値で売れるに違いないぞ。

男は興奮気味に女にまくしたてる。

女はイライラと髪を手で梳かしながらこう言った。

そんなもの、売れるわけないじゃないか。

フラフラと猟師の真似事なんてしてないで、ちゃんと働いとくれよ。

あの子を学校にだって行かせてあげたいんだよ。

と、見窄らしい木製のベッドで眠る赤ん坊を指差した。

 

男は、バツが悪そうに小脇に抱えた竹籠を見た。

 

 

1997年、東南アジアの小さな島で発見されたコガネオオトカゲは、幻のトカゲとされ、ワシントン条約附属書への記載が提案されたこともあり、当時は数十万円から百万円を超える値で取引された。

現在では繁殖も進み、五万円から十五万円程度で取引され、温厚な性格と、美しい体色からペットとして非常に人気が高い。

 

ウルカ、お前の種は発見されてまだ20年ほどしか経っていないんだな。

クソ人間野郎に発見されなければ、こんな境遇にはなっていなかったなどと嘆かないでくれよ。

俺はお前に出会えて嬉しいんだよ。

ペットや動物園を否定する意見にはどちらかといえば賛成だ。

それでもお前と暮らすのは、何故なんだろうな。

 

お前の瞳をみていると思い出す。

西アジアの貧困地区を訪れた時、私たちにはなんの選択肢もない、ここで生まれてここで死んでいくだけだとうなだれた夫婦の隣で、ウルウルと輝やいていた子供達の瞳。

 

俺は、あの子供たちよりも絶対に恵まれている。

 

ウルカ、俺の瞳、少しは輝けているか?

 

今日のウルカはデュビアを9匹。

パラソルの下でパラレル

f:id:maxm:20190419085012j:image

おはようウルカ。

ディジュリドゥって知ってる?

オーストラリアの先住民に伝わる楽器だそうだ。

演奏には息を吹き続ける循環呼吸法が用いられる。

この循環呼吸法がおもしろい。

息を吐く事と吸うを同時に行い、息継ぎをしないため、10分でも1時間でも音を途切れさせる事なく吹き続ける事が出来る。

俺も循環呼吸法を習得しようと、水を入れたコップにストローをさし、それを吹き続けるという練習をやってみたよ。

半日もやっていると何となく出来るようになってくる。

これまで息を吐く事と吸う事を同時に行うなど不可能だと思っていたし、同時にやってみようなんて考えすら浮かばなかったね。

 

対になるものを同時に存在させる。

息を吸いながら吐き続ける。

窓を開けながら閉め続ける。

進みながら退がり続ける。

昼でありながら夜であり続ける。

生れながら死に続ける。

混ざり合ったり、均衡して0になる訳ではなく、ー1と+1が同時に進行するような狂気。

 

さあ、あなたも南国で彼女とストロー二本差しのトロピカルジュースを飲む際には、循環呼吸法でブクブクと吹き続けよう。

ちょっとぉやめてよぉなんて笑っている彼女も、10分、1時間と吹き続ければ、あなたへの恐怖で顔面蒼白となるだろう。

それでも構わず吹き続けよう。

妥協する事なくやり遂げるあなたの姿に、彼女は感動して惚れ直すに違いない。

循環し過ぎたトロピカルジュースはさすがにキモいので、新しいものを注文しよう。

 

ところでウルカ、お前はかれこれ30分くらい水に潜って目を閉じているけど、何かしらのパラレルに挑戦中なのか?

 

今日のウルカはデュビアを12匹

2時間で8時間の効果

f:id:maxm:20190417205523j:image

おはようウルカ。

エレベーターで大声で話す奴ってきっとバカだよな。

 

密室で、至近距離で、他人に、関係のない話を大声で聞かされる事が好きな人間は皆無に等しい。

そんな簡単な事が分からないのか、意図的なのか、どちらにしても頭が悪いのだろう。

 

カサカサ小声で話されるのも、それはそれでイライラする。

緊急時以外のエレベーター内の会話や電話は違法にしてくれないか。

ダラダラと選挙カーで町内をまわり、自分の名前を連呼している場合ではない。

いや、民家の前を大音量で宣説するような奴に市民の切実なる願いなど理解できるはずもないな。

ウーファーでデュンデュンのミニバンヤンキーと何ら変わらん。

チーム名をウィンドウにデカデカと掲げるところまでそっくりじゃねぇか。

いっそのこと選挙カーウーファーでデュルンデュルンにしてしまえよ。

迷惑行為をしているのに、善人風な言動やルックスだからしっくりこないんだよ。

さあ、夜勤で睡眠不足の、重い病で療養中の、か弱い赤ん坊の、受験勉強中の、大切な時間をぶち壊してやろうぜ!

 

それはさておき、ちょっと前に2時間の睡眠で8時間の睡眠効果が得られるアイマスクが話題になっていたけど、最近聞かなくなったな。

効果が本当なら、スマートフォン級に普及しそうなのに。

 

ウルカ、お前は毎日15時間以上は寝ているよな。

騒音ごときにビクともしないその威風堂々っぷり、まじリスペクトっす。

 

今日のウルカはデュビアを8匹

まさに鬼神

f:id:maxm:20190417113019j:plain

おはようウルカ。

 

ザアザアと目の前の鉄板が音を立てた。

相当に年季が入っている。

よく使い、よく手入れする。

これを長年繰り返してきたことで生まれる重厚感。

これ以上の説得力がどこにあるというのだろう。

小手先の誤魔化しなど一切通用しない。

心地よい熱気と、美味そうな匂いで、意識が遠のく。

 

俺は鉄板を挟んで大将と対峙している。

50代半ばといったところだろうか。

妥協を許さない鋭い眼光は、まさに鬼神のようだ。

圧倒されている事を隠すかのように腕組みをする。

俺の出来る最後の抵抗だ。

 

興味がないフリをしてスマホをいじってみたが、どうしても鉄板の上で輝きを増していく作品に目がいってしまう。

イカ、エビ、豚肉、そば、卵、キャベツに特製の生地を絡めて。

おおお、このシズル感の前で、理性などなんの意味があると言うのか。

 

耐えきれずに俺は口を開いた。

こ、このお店は、いつからやっているんですか?

あ、すみません、営業時間ではなくて、創業時期というか。

 

ゆっくりと大将が口を開く。

四、五年前くらいらしいっすよ。

自分、バイトなんで、今度オーナーにきいてみます。

 

 

ところで、よく使い、よく手入れする。

これを長年繰り返してきたことで生まれる重厚感。

といえば機械式腕時計となるわけだが、最近はまた機械式腕時計を使っているよ。

ガジェットと言う意味ではスマートウォッチにかなわないけど、そもそも目的が違う。

どちらかといえば、アクセサリーに近い立ち位置だろう。

ブレスレットやネックレスには抵抗があるが、腕時計なら嫌味がない。

ガンガン使って、細かな傷が増えていくのがまた良いんだよな。

ヴィンテージのように、使い込まれて雰囲気抜群なものも良いが、新品から時間をかけて経年変化を楽しみたいね。

そうなると、経年変化で魅力を増す素質が有るのか否かを見極めることが重要となってくる。

 

時計屋の店員は俺を見てこう思うだろう。

妥協を許さない鋭い眼光は、まさに鬼神のようだ。

 

今日のウルカはデュビアを8匹

なにもない土の上

f:id:maxm:20190416111101j:image

おはようウルカ。

 

歩いている。

人工的な光が、夥しい雑踏を露わにしている。

自分もこの群の一部だという事は理解しているが、心の何処かでは信じていない。

信じてしまえば、苦悩や痛みから解放され、楽になるかもしれない。

それでも、岸壁に素手でしがみつくように、自分を信じる事をやめない。

肉体と精神がちぎれたとしても、心を死なせるわけにはいかない。

 

LEDライトに照らし出された黒い蟻の群れは、何処へ向かうでもなく、なにもない土の上にただ留まっているように見えた。

 

俺は、自転車に乗って家へ帰った。

 

今日のウルカはデュビアを10匹。

異常に尻を突き出した何かしらの手練れ

f:id:maxm:20190415110647j:image

おはようウルカ。

最近ミミズって見ないよな。

子供の頃、俺の環境には田畑があって、カエルやらカメやらザリガニ、時にはヘビまでも追いかけまわしていたよ。

庭の石をどかせば決まってミミズやダンゴムシがいて、前日に雨が降ったりすると自動車やバイクに轢かれたミミズやカエルがアスファルトにはりついていた。

最近は全然ミミズやダンゴムシを見かけないな。

見かけないんじゃなくて、目に入らなくなったのかもしれない。

人間って、興味のないものは視力があることが疑わしいくらいに見えなくなるからな。

写真を撮らない人が、普段から被写体やシャッターチャンスを意識しないように、今の俺はダンゴムシやミミズを意識していないのか。

 

電車に乗っている。

通勤ラッシュとは少し外れた時間なので、息苦しさがない程度に混み合っている。

乗客は皆同じ時間、同じ環境にいるが、人それぞれ興味のある事は違っていて、見えているものも全然違うのだろう。

俺はいま、吊革を両手で持ち、尻を異常に突き出した格好で微睡んでいる男が気になっている。

その尻の突き出し方は、相当な筋力が必要なはずだ。

常人では長くもたない姿勢と羞恥をキープした状態で、居眠りするをする余裕があるとは、只者ではない。

いや、居眠りなどではなく、精神を統一し、チャクラでも発動させているのかもしれない。

よく見ると、つま先立ちをしているじゃないか。

 

まだ観察を続けたかった俺は、後ろ髪を引かれる思いで電車を降りた。

 

その時々、何かしらに興味を持って生きていると有意義だよな。

俺にもいつか、なんにも興味がなくなって、美化した思い出に縋る日々がくるのかな。

薄汚れた立飲み屋で、あの頃は良かったのにと管を巻く。

なかなかフォトジェニックじゃないか。

 

でもやっぱり、俺は撮られるより撮る側が良いなぁ。

 

今日のウルカはデュビアを4匹。

まずはそこの角まで

f:id:maxm:20190414080030j:image

おはようウルカ。

昨日はまわり道でもしたくなるような小春日和だったな。

 

いらっしゃいませこちらへどうぞ。

甲高い声の店員に促されるまま、カウンター席に腰を下ろす。

人と人の間に分け入るようなその場所は、決して快適とは言えない。

最近は膝の具合が悪く、近所のホームセンターで買った安物の杖を使っている。

今日で、79歳になった。

湯呑みに粉末を入れ、備え付けの蛇口から湯を注ぐ。

緑色の粉末がだらしない泡を立てて、なんとかお茶と呼べるものになった。

今日は何を食べようか。

誕生日という事もあるし、少し贅沢をするか。

歳のせいか2皿も食べれば満腹になってしまうので、慎重に選ばなければ。

 

独りで生きてきた。

両親が他界した今は、本当に独りになった。

寂しさや後悔はない。

好き勝手に生きてきた人生にはそれなりに満足している。

あとは好き勝手に死んでいくだけだ。

 

タッチパネルを見上げ、操作を試みる。

今日のおすすめ寿司の項目から先にすすめない。

しかし、店員など呼ばない。

なんとか自分の力で解決したい。

タッチパネルを叩くように操作していると、隣に座る青年がこちらを見て眉をひそめた。

30代か、もしかしたら40代かもしれない。

自分とくらべると、まだあどけないとすら感じる。

休日なのか、寝間着のような格好で酒を飲み、鮪の炙り寿司を食べている。

イヤホンをつけて携帯電話の画面をみている彼は、手慣れた様子でタッチパネルを操作する。

最近はスマホといって、携帯電話で映画なんかも観られるそうだ。

 

相変わらず要領を得ないタッチパネルを諦め、席を立つ。

店員は呼ばない。

独りで生きてきた意地だってある。

寿司なんかやめて、帰り道のスーパーで惣菜とおにぎりでも買って帰ろう。

具材は何が良いだろうか。

今日は誕生日ということもあるし、少しだけ贅沢をしよう。

 

外はやわらかな小春日和。

膝の痛みも和らぐようだ。

こんな日は、まわり道でもしてみようか。

まずはそこの角まで。

まだまだ、いける。

 

なあ、ウルカ。

俺が眉をひそめたのはイライラとタッチパネルを叩く老人を不快に思ったからではなく、その背中がとても細くて、本当に細くて、何だか胸がいっぱいになったんだよな。

 

今日のウルカはデュビアを5匹と鶏胸肉を10切れ。

直立するクジラ

f:id:maxm:20190413112405j:image

おはようウルカ。

お前はケージに入れた俺の手に飛び乗ると、腕を伝い、肩から頭へ登り、床に向かって、跳ぶ。

骨折でもするんじゃないかと心配な俺は、空中でお前を受け止める。

そのまま陽の当たる窓辺へ向かう。

チロチロと舌で俺の存在を確かめると、柔らかな日差しの中で目を細めるお前は、雄なのか?それとも雌なのか?

オオトカゲの性別を見分けるのは難しい。

外見上の違いが殆どないからだ。

更に雄でも卵を産む事があるらしい。

そして、交尾経験のない雌が産んだ卵が孵化する事もあるらしい。

メチャクチャじゃねえか。

もはや神すら欺く所業だな。

お前を見ていると、人間の秩序や差別などちっぽけに感じるよ。

それなのに、支配されて、時には命をかける人もいる。

そんなダイナミックな想像をしている俺をよそに、お前は俺の手の中で、寝た。

 

と見せかけてソファへジャンプ!

 

忘れていたよ神すら欺くお前には、俺を欺くなど赤子の手をひねるくらいに簡単な事だったね。

 

いやいや、赤子の手をひねるという表現は、現代社会においては目くじらを立てられるかもしれない。

まてよ、目くじらのクジラってなんだ?

 

今日のウルカはデュビアを12匹。