ぎゅうぎゅう詰めの霊安室で即売会

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おはようウルカ。

 

革製品や木製品が怖ろしい。

 

数年前から、周期的にこの感覚に陥るようになった。

俺は素材として革や木がとても好きな時期があった。

現在でもやっぱり好きではあるが、革でも木でも元は生きていて、俺が愛用しているのは死骸ということになる。

生きていた頃は其々が唯一無二として存在していて、様々な環境で特別な一生を過ごした事だろう。

その死骸を人間がバラバラ、ごちゃまぜにして、家や道具、衣類に使っている。

 

大量のバラバラでごちゃまぜなミイラと生活を共にしていると思うと、なんだか怖ろしくなる。

綿や畳まで怖い。

スーパーマーケットに至っては、死骸をぎゅうぎゅうに詰め込んだ霊安室で即売会やってます。

狂気です。

みたいな。

これは何症候群なんだろうな。

 

そもそも何故死骸を怖いと感じるのだろう。

考えても、調べても、いまいちピンとこないなぁ。

 

そういえば、虫は死骸より生きている方が怖い気がする。

 

ウルカ、どう思う?

 

今日のウルカはデュビアを14匹

あひ、あはぁい

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おはようウルカ。

 

おい、君。

君だよ、君、ちょっと待ちなさい。

そこのガーターベルトの、君、止まりなさい。

白昼、キリキリとまわる赤い回転灯は、薄汚れた裏路地に緊張の花を咲かせる。

 

君、ダメじゃないか。

ここは公共の場だよ。

そんな格好で歩いていたら、欲望の塊みたいな無法者達にめちゃくちゃにされてしまうよ。

子供達の教育にも悪影響だ。

とにかく卑猥だよ卑猥。

PTAだよPTA。

 

頭に回転灯を直接くくり付けた警官は、純白のブリーフをハイレグ気味に腰上で履きこなしている。

オシャレだ。

うー!うー!ううー!

サイレンの声マネには相当の自信がある。

ヤマブキ色のローラースケートを履いている。

裸にPOLICEとプリントされたベストを逆さに羽織っている。

オシャレだ。

昨夜の、地下アイドル総入れ歯シックスティーエイトのイベントで使用した紫に光るペンライトを、男にむけた。

耳たぶと乳首をガーターベルトでつないでいる。

白昼堂々だ。

いや、白昼堂々としているのはガーターベルト男ではなくて、ブリーフ警官の方なのかもしれない。

腿裏の体毛が異常に濃い。

白ブリーフとのコントラストが眩しい。

 

太陽の下では、ペンライトの光量などゼロに等しい。

男の姿を露わにしているのは、100パーセント太陽の力だろう。

ガーターベルトの金具でパッチンとなっている部分が痛いのか、歩き方がぎこちない。

いや、歩き方がぎこちないのは靴のかわりに冷凍水餃子の空袋を履いているからかもしれない。

 

一体君はなんなんだね。

ブリーフ警官は質問した。

え、え、しゅ趣味は読書でぇ、ロング・グッドパイとドクラ・マグラを交互に読んでいますぅ。

 

あぁ?職業は?どこに住んでいるの?身分証ある?

あひ、あはぁい。

今はジャングルジムのインストラクターやってますぅ。

入会金は無料ですぅ。

芝崎裏公園でとぅ。

もり!もり!もりぃ!もり、もりぃ!

と言いながら、ふくらはぎの筋肉をみせた。

 

なるほど不審な人物ではないようだね。

お仕事頑張りなさい。

よいジャングルジムクライマーを育てるんだよ。

期待しているよ。

 

うー!うー!ううー!

ブリーフ警官は、先程農家でかっぱらってきた雌のヤギに跨ると、手綱を握って敬礼をした。

 

うー!うー!メェ〜!ううー!メェ〜!

ガーターベルト男はブリーフ警官が見えなくなるまで見送った。

理由は全くわからないが、男の頬で一筋の涙がキラキラと輝いた。

 

パン、パン、パン、遠くで拳銃を乱射する音が聞こえる。

うー!うー!メェ〜!ううー!メェ〜!

 

 

なあウルカ、こんな童話をひっさげて、絵本業界に殴り込みをかけようかな。

PTAだよPTA。

 

今日のウルカはデュビアを9匹。

そろそろクローンをまとめ買いする

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こんにちはウルカ。

 

鉄製の扉を、ひきずるように開ける。

湿気を含んだ粉末のような空気が重く蟠っている。

呼吸をする度に肺に塵が蓄積されるイメージを、頭を左右にふって追い払う。

 

背の高い建物だが二階があるわけではい。

窓は天井に2つあるだけで、早朝の低い位置から差し込むような光では充分な明るさを確保できない。

 

薄暗い室内の真ん中には大きな蒸し窯があり、静かに熱気を発しながら鎮座する姿は、粛々と悟りを待つ修行僧のようだ。

 

ゴムの長靴を履いている。

輪切りにされた木材を、12時間ぶりに蒸し窯から取り出す。

充分に水気を含んだエゾマツの木は、ずっしりと重量があり、しなやかで、表面は子供の肌のように肌理が細かい。

独特の香りは気持ちを落ち着かせる不思議な効果があるようだ。

もしかすると僅かに毒性があって、麻薬のように精神に作用しているのかもしれない。

 

ロータリーカッターを使い、大根の桂剥きのようにカットする。

均等な厚みとなったエゾマツを、更に無数の棒状に切り分ける。

フシや汚れ、欠けがあるような不良を選別する。

選ばれた良品の真ん中に切れ目をいれる。

最後に天削と呼ばれる無愛想な装飾を施し、適度に乾燥させる。

純白の紙で丁寧に包装すれば、また一つ名刀を世に生み出したかのような満足感が全身をつつみこむ。

今日の酒もうまくなりそうだ。

 

 

ウルカ、割り箸って良いよな。

毎回新品を使うというコンセプト、素材を活かした質感と無駄を排した機能美、個体差を極限まで抑えたクローンのような再現性で、いつでも同じ使用感を実現している。

加えて、国内であればどの地方においても強烈にスタンダード化しており、容易に入手できるという安心感。

 

使い捨てる一本一本に愛着はないけど、割り箸という存在には愛着がある。

これまた新しい愛のかたちかな。

 

 

今日のウルカはデュビアを8匹。

なければつくれ

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おはようウルカ。

 

風っておもしろいよな。

忘れがちな空気の存在を実感させてくれる。

 

多少手足を動かす程度では空気の抵抗など殆ど感じない。

では早足に歩いてみるとどうだ。

僅かに空気の抵抗を感じる。

これは自分でつくり出した風だね。

 

颯爽と歩き去る俺の周りには空気の流れが発生して、ネチネチとその場に留まっている者にも爽やかな風を届けることだろう。

 

触れている実感が殆どない空気も、押せば動かすことができるんだな。

 

外にでる。

何処からともなく風が吹いている。

凄い勢いで空気を押している奴がいるのかな。

他人が起こした風じゃなくて、自分で起こした風を感じたいね。

あああ、オートバイ乗りてぇ。

 

仕事するか。

 

今日のウルカはデュビアを11匹

ウルカ、今日もいくぜ

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おはようウルカ。

 

クルマを運転している。

楽しい。

意味もなく四輪駆動に切り換えてみる。

カーラジオのボリュームを抑えて、エンジンと風の音を聴く。

雨が降りだした。

少し太った気がする。

中央分離帯で排ガスまみれの草木を不憫に思う。

暴飲暴食をひかえよう。

クライアントから真逆の表現に変更したいと連絡が入った。

道が混んでいる。

コンビニに寄って炭酸水を買いたい。

不機嫌そうに犬と散歩する女が横断歩道を渡る。

雨が小降りになって晴れてきた。

真逆の表現か。

撮影からやり直さないと駄目だな。

自転車で登校中の高校生が溌剌としている。

折畳み傘って便利なのだろうか。

カーラジオから好きな曲が流れ始めた。

ボリュームをあげる。

信号が青になった。

ウルカ、今日もいくぜ。

 

今日のウルカはデュビアを16匹。

ラッシュアワーライスシャワー

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おはようウルカ。

 

どんぶりに、山盛りの白米を左手に持ち、右手には箸代わりの焼いたシシャモを2本。

栗きんとん栗きんとんと連呼しながら満員電車へ飛び乗れ。

ただ連呼するだけではダメだ。

抑揚をつけて、あえて栗の主張をおさえめにしたイントネーションが上級者ってもんだ。

 

ホカホカご飯から立ちのぼる湯気で、密着してくるサラリーマンの眼鏡をくもらせろ。

眼鏡が真っ白にくもるやいなや、自らの鼻にシシャモを頭からつっこめ。

2本ともだ。

 

眼鏡が曇ってシシャモが鼻にブッ刺さった変顔を見れないサラリーマンに、ざまあみろと尻をたたいてみせてやれ。

まあ、それも見えないんだけどな。

 

視界を失ったサラリーマンの耳元で、ライスシャワーをテーマに即興で歌え。

時に優しく、時に激しく、切なさと心強さと。

 

ここまできたら、鼻に突っ込んだシシャモを引き抜いて、サラリーマンにそっと握らせてやれ。

右手と左手に1本づつだ。

妥協するな。

これは漢と漢のぶつかり合いだ。

ヨーソロー!ヨーソロー!

 

 

満員電車。

どこかで、栗きんとん、栗きんとんと連呼する声が聞こえる。

やたらと栗が控えめなイントネーションだ。

ただ連呼しているわけではなく、いやに抑揚がある。

徐々に近づいてきているな。

 

カーブに差し掛かったのか、電車がガクンと揺れた。

次の瞬間、突然視界を奪われた。

真っ白だ。

どんぶりに山盛りの白米が見えた気がしだが、まさか見間違いだろう。

近くでパンパンと尻を叩くような音がしているなと思うやいなや、耳元でライスシャワーをテーマにした歌を時に優しく、時に激しく、切なくも心強く歌いあげられた後、ほんのりと温かい棒状の何かを両手に1本づつ握らされた。

 

 

なあウルカ、世界中で起こる凶悪犯罪やテロ事件が、こんな内容だったら平和と呼べるのかな。

 

 

今日のウルカは休食。

考えない

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こんにちはウルカ。

 

砂の上を歩いている。

足元だけを見つめて歩いているので、ここが砂浜なのか、砂漠なのか、どの方角に進んでいるのか、わからない。

暑い。

上から照りつけているものは太陽なのか、巨大な電気ストーブなのか、そのどちらでも無いものなのか。

 

歯を、くいしばる。

 

歩給0.52円。

一歩進む毎に0.52円が支給される。

一万歩で5200円。

荷物は持たない。

立ち止まってはならない。

視線を足元から外してはならない。

 

週6日、地面の種類や温度など、異なった環境を足元から視線を外す事なく歩き続けること。

新聞の求人広告で申し込んだ。

何故か歩きはじめる直前と、歩きおわった直後の記憶がない。

毎朝メールで指定された場所へ行きロッカーに荷物を預ける。

いつのまにか歩きはじめており、いつのまにか歩きおわって、朝集合した場所に戻っている。

歩き終わるのが昼頃のときもあれば、真夜中のときもある。

同業の者を見かけた事は無い。

 

もうかれこれ40年続けている。

 

 

こんな仕事があるのであれば、是非やりたいと希望する者が沢山いるのかもしれないな。 

伏し目がちに街を行き交う人々をみて、そんな事を思ったよ。

 

今日のウルカはデュビアを5匹、ササミを15切れ

バスマット雑炊

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おはようウルカ。

 

降りそそぐ温水を頭から浴びる。

身体を泡だらけにして汗や埃を叩き落したら、フカフカのバスマットに飛びおりて、バリバリのタオルでガシガシと拭く。

これが男のシャワーってもんだ。

 

最近、このフカフカのバスマットに飛びおりる部分に変更があった。

 

珪藻土でてきているバスマットに変えたんだよ。

このバスマットはフカフカどころか木の板のようにカッチカチで、手入れは洗うのではなくヤスリをかけるそうだ。

バスマットって柔らかいものだという俺の常識から大きく逸脱している。

 

利点は尋常ではない吸水力と速乾性。

濡れた足で上に乗ると、水分を吸う力が強過ぎて、足に張り付いてくる。

潤いがどうのとか言っている場合ではない。

 

女性会社員の皆さんには、この珪藻土マットを角砂糖サイズにカットして、ムカつく上司の茶菓子にする事をお勧めする。

口内全ての水分をもっていかれたハゲ野郎は、ハラスメントどころではなくなるだろう。

 

この珪藻土のバスマット、使い慣れるとこれじゃなきゃ感がでてくる。

もはやフカフカのバスマットなど、遠い追憶の彼方である。

 

ウルカ、お前のバスマットはバークチップだけど、水入れに持ち込んで、水入れがバークチップの雑炊みたいなっているぞ。

掃除が大変なんだよ。

控えめにお願いします。

 

今日のウルカは休食

宇宙ステーションの隣で格安に泳ぐ

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おはようウルカ。

 

立ち昇る煙りをみている。

角張った白い煙突から真上にむけて吐き出される灰色は、不純な想いのように夜明けの空を濁らせる。

 

ああ、今日はゴミの日だったな。

薄汚れた透明の空は、俺にゴミの回収日を思い出させてくれた。

朝8時を過ぎる頃、薄青緑色の回収車に乗った屈強な男どもが、半透明のゴミ袋を手際よく運んでいく。

女は見たことがない。

ゴミ収集は男社会なのだろうか。

 

隣町にゴミ処理施設があって、一度見学した事がある。

宇宙ステーションみたいで、作業員たちがカッコよかった。

隣には、ゴミを燃やす事で発生した熱を利用した温水市民プールがあって、燃料を提供した市民が格安で泳ぐことができる。

なかなか合理的だね。

 

合理的と言えば、今更ながら太陽光発電が気になる。

俺の生活はかなり電力に依存しており、電力施設が死んだ場合、大きな打撃となる。

個人で所有できる太陽光発電システムは、どのくらいの電力をカバーできるのだろう。

電気会社に頼らない生活は魅力的だ。

 

カーステレオから流れる楽園について唄う歌がなんだかしっくりこない。

変えよう。

 

 

今日のウルカはデュビアを4匹、ササミを15切れ。

蛍をすりこまれる

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おはようウルカ。


スマホを失くしたよ。

何処でどう失くしたのか、最後に使ったのはいつなのか、全く記憶にない。

4年くらい使っていたので、愛着から相当ショックを受けるのかと思いきや、何の刺激もなく、探すのも面倒なので、早々に新しいスマホを買いに出かけた。

薄情だな俺は。


これほど毎日使って、生活の必需品となっているのに、全く思い入れがないものって珍しいよな。

いや、そうでもなくて、結構あるのかな。


部屋着、ボサボサ頭でスマホ屋に到着すると、店員のきちっとした服装と対応に面食らった。

今更上着のボタンを一つ二つ留めたところで何も変わらないだろうが、俺は姿勢を出来るだけ正し、ボタンを留めた。


すみません。

スマホ失くしちゃったんで新しいの買いたいんです。

良すぎず中くらいに良いやつください。

と訳の分からない言い方にも丁寧に対応してくれ、サクサクと契約は進む。

閉店時間が迫っているのか、蛍の光が店内のスピーカーから流れはじめた。

これほど人を落ち着かない気持ちにさせる曲もないな。

ゆったりとした楽曲で、人を落ち着かない気持ちにさせるなど、作者も本意ではないだろう。

これが刷り込み効果ってやつか。


そうこうしているうちに俺は新しいスマホを手に入れた。

今まで使っていたスマホは失くしてしまっているので、連絡先や写真などゼロからのスタートだな。

それはそれで清々しいや、最近流行りのミニマル何ちゃらだ。


心機一転スマホを設定しはじめると、クラウドを介して、失くしたはずのスマホのデータや設定が、新しいスマホにしれっと入っていた。

便利な時代だ。

まさにゴーストインザシェルだね。

ん、このフレーズちょっと前にも使った気がするけど、まあ良いか。

先程までの清々しい気持ちは、クラウドの実力を知らなかった恥ずかしさに変わりつつあるが、まあ良いか。

新しいスマホさんよろしくな。



今日のウルカはデュビアを5匹、ササミを15切れ。

クソ人間野郎

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こんにちはウルカ。

 

朝靄の中を小さな木製のボートが静かに進んでゆく。

使い古されたオールを漕ぐ褐色の肌は、汗と、たっぷりと湿気を含んだ空気で、じっとりと濡れている。

マングローブの林に入ると、無数のスポットライトの様な木漏れ日が、宙に浮かぶ塵をキラキラと浮かび上がらせた。

褐色の肌をした男は、鯰でも釣るつもりなのだろうか。

釣竿と、長い柄のついた網、竹で編まれた目の細かい籠のようなものをボートに積んでいる。

 

男が、オールを漕ぐ手を止めた。

殆ど流れのない水面は、突然停止したボートに戸惑っているかように小さな波を立てだが、また直ぐに静けさを取り戻した。

 

男は右手に釣竿、左手に網を持ち、ボートの中で立ち上がる。

そのまま静止する。

少し離れた場所から聞こえる野鳥のさえずりと、微かに風で葉が揺れる音以外に聞こえるものといえば、男の鼓動くらいだろうか。

額から吹き出した汗が、顎へと集まり、ボートの底にシミをつくる。

ポタポタと滴り落ちる汗が、次の一滴を落とそうとしたその時、男が動いた。

右手の釣竿をしならせると、一気にマングローブの枝にめがけて打ちつけた。

静寂を切り裂く一太刀に、潜んでいた影が水面に向かって跳んだ。

水に落ちた潜んでいた影は、少し間の抜けた泳ぎ方で自らボートに近づく。

マングローブの根と勘違いでもしているのだろうか。

男は左手の網で潜んでいた影を掬うと、手早く竹籠に入れる。

 

竹籠を小脇に抱えて小道を進むと、薄汚れた小屋が見えてきた。

我が家だ。

ドアを開けると、痩せた、不機嫌そうな女が、冷めたスープと待っていた。

おい、とうとう捕まえたぞ!

これは本当に珍しいものだ。

高値で売れるに違いないぞ。

男は興奮気味に女にまくしたてる。

女はイライラと髪を手で梳かしながらこう言った。

そんなもの、売れるわけないじゃないか。

フラフラと猟師の真似事なんてしてないで、ちゃんと働いとくれよ。

あの子を学校にだって行かせてあげたいんだよ。

と、見窄らしい木製のベッドで眠る赤ん坊を指差した。

 

男は、バツが悪そうに小脇に抱えた竹籠を見た。

 

 

1997年、東南アジアの小さな島で発見されたコガネオオトカゲは、幻のトカゲとされ、ワシントン条約附属書への記載が提案されたこともあり、当時は数十万円から百万円を超える値で取引された。

現在では繁殖も進み、五万円から十五万円程度で取引され、温厚な性格と、美しい体色からペットとして非常に人気が高い。

 

ウルカ、お前の種は発見されてまだ20年ほどしか経っていないんだな。

クソ人間野郎に発見されなければ、こんな境遇にはなっていなかったなどと嘆かないでくれよ。

俺はお前に出会えて嬉しいんだよ。

ペットや動物園を否定する意見にはどちらかといえば賛成だ。

それでもお前と暮らすのは、何故なんだろうな。

 

お前の瞳をみていると思い出す。

西アジアの貧困地区を訪れた時、私たちにはなんの選択肢もない、ここで生まれてここで死んでいくだけだとうなだれた夫婦の隣で、ウルウルと輝やいていた子供達の瞳。

 

俺は、あの子供たちよりも絶対に恵まれている。

 

ウルカ、俺の瞳、少しは輝けているか?

 

今日のウルカはデュビアを9匹。

パラソルの下でパラレル

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おはようウルカ。

ディジュリドゥって知ってる?

オーストラリアの先住民に伝わる楽器だそうだ。

演奏には息を吹き続ける循環呼吸法が用いられる。

この循環呼吸法がおもしろい。

息を吐く事と吸うを同時に行い、息継ぎをしないため、10分でも1時間でも音を途切れさせる事なく吹き続ける事が出来る。

俺も循環呼吸法を習得しようと、水を入れたコップにストローをさし、それを吹き続けるという練習をやってみたよ。

半日もやっていると何となく出来るようになってくる。

これまで息を吐く事と吸う事を同時に行うなど不可能だと思っていたし、同時にやってみようなんて考えすら浮かばなかったね。

 

対になるものを同時に存在させる。

息を吸いながら吐き続ける。

窓を開けながら閉め続ける。

進みながら退がり続ける。

昼でありながら夜であり続ける。

生れながら死に続ける。

混ざり合ったり、均衡して0になる訳ではなく、ー1と+1が同時に進行するような狂気。

 

さあ、あなたも南国で彼女とストロー二本差しのトロピカルジュースを飲む際には、循環呼吸法でブクブクと吹き続けよう。

ちょっとぉやめてよぉなんて笑っている彼女も、10分、1時間と吹き続ければ、あなたへの恐怖で顔面蒼白となるだろう。

それでも構わず吹き続けよう。

妥協する事なくやり遂げるあなたの姿に、彼女は感動して惚れ直すに違いない。

循環し過ぎたトロピカルジュースはさすがにキモいので、新しいものを注文しよう。

 

ところでウルカ、お前はかれこれ30分くらい水に潜って目を閉じているけど、何かしらのパラレルに挑戦中なのか?

 

今日のウルカはデュビアを12匹

2時間で8時間の効果

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おはようウルカ。

エレベーターで大声で話す奴ってきっとバカだよな。

 

密室で、至近距離で、他人に、関係のない話を大声で聞かされる事が好きな人間は皆無に等しい。

そんな簡単な事が分からないのか、意図的なのか、どちらにしても頭が悪いのだろう。

 

カサカサ小声で話されるのも、それはそれでイライラする。

緊急時以外のエレベーター内の会話や電話は違法にしてくれないか。

ダラダラと選挙カーで町内をまわり、自分の名前を連呼している場合ではない。

いや、民家の前を大音量で宣説するような奴に市民の切実なる願いなど理解できるはずもないな。

ウーファーでデュンデュンのミニバンヤンキーと何ら変わらん。

チーム名をウィンドウにデカデカと掲げるところまでそっくりじゃねぇか。

いっそのこと選挙カーウーファーでデュルンデュルンにしてしまえよ。

迷惑行為をしているのに、善人風な言動やルックスだからしっくりこないんだよ。

さあ、夜勤で睡眠不足の、重い病で療養中の、か弱い赤ん坊の、受験勉強中の、大切な時間をぶち壊してやろうぜ!

 

それはさておき、ちょっと前に2時間の睡眠で8時間の睡眠効果が得られるアイマスクが話題になっていたけど、最近聞かなくなったな。

効果が本当なら、スマートフォン級に普及しそうなのに。

 

ウルカ、お前は毎日15時間以上は寝ているよな。

騒音ごときにビクともしないその威風堂々っぷり、まじリスペクトっす。

 

今日のウルカはデュビアを8匹

まさに鬼神

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おはようウルカ。

 

ザアザアと目の前の鉄板が音を立てた。

相当に年季が入っている。

よく使い、よく手入れする。

これを長年繰り返してきたことで生まれる重厚感。

これ以上の説得力がどこにあるというのだろう。

小手先の誤魔化しなど一切通用しない。

心地よい熱気と、美味そうな匂いで、意識が遠のく。

 

俺は鉄板を挟んで大将と対峙している。

50代半ばといったところだろうか。

妥協を許さない鋭い眼光は、まさに鬼神のようだ。

圧倒されている事を隠すかのように腕組みをする。

俺の出来る最後の抵抗だ。

 

興味がないフリをしてスマホをいじってみたが、どうしても鉄板の上で輝きを増していく作品に目がいってしまう。

イカ、エビ、豚肉、そば、卵、キャベツに特製の生地を絡めて。

おおお、このシズル感の前で、理性などなんの意味があると言うのか。

 

耐えきれずに俺は口を開いた。

こ、このお店は、いつからやっているんですか?

あ、すみません、営業時間ではなくて、創業時期というか。

 

ゆっくりと大将が口を開く。

四、五年前くらいらしいっすよ。

自分、バイトなんで、今度オーナーにきいてみます。

 

 

ところで、よく使い、よく手入れする。

これを長年繰り返してきたことで生まれる重厚感。

といえば機械式腕時計となるわけだが、最近はまた機械式腕時計を使っているよ。

ガジェットと言う意味ではスマートウォッチにかなわないけど、そもそも目的が違う。

どちらかといえば、アクセサリーに近い立ち位置だろう。

ブレスレットやネックレスには抵抗があるが、腕時計なら嫌味がない。

ガンガン使って、細かな傷が増えていくのがまた良いんだよな。

ヴィンテージのように、使い込まれて雰囲気抜群なものも良いが、新品から時間をかけて経年変化を楽しみたいね。

そうなると、経年変化で魅力を増す素質が有るのか否かを見極めることが重要となってくる。

 

時計屋の店員は俺を見てこう思うだろう。

妥協を許さない鋭い眼光は、まさに鬼神のようだ。

 

今日のウルカはデュビアを8匹

なにもない土の上

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おはようウルカ。

 

歩いている。

人工的な光が、夥しい雑踏を露わにしている。

自分もこの群の一部だという事は理解しているが、心の何処かでは信じていない。

信じてしまえば、苦悩や痛みから解放され、楽になるかもしれない。

それでも、岸壁に素手でしがみつくように、自分を信じる事をやめない。

肉体と精神がちぎれたとしても、心を死なせるわけにはいかない。

 

LEDライトに照らし出された黒い蟻の群れは、何処へ向かうでもなく、なにもない土の上にただ留まっているように見えた。

 

俺は、自転車に乗って家へ帰った。

 

今日のウルカはデュビアを10匹。